78話結婚式にて

 卒業式を終え、数日後……。


 いよいよ、この日がやってきた。


「アレス様、準備はいいですか?」


「ああ、カエラ。じゃあ、留守をよろしくね。オルガと仲良くね、俺たちもいないから」


「ア、アレス様! そんなことしません!」


「いやいや、仲良くしてくれないと。オルガ、明日には領地に帰るんだよ? 一応、告白を受けたんでしょ?」


「そ、そうですけど……」


 どうやら、カエラに本気のプロポーズをしたらしい。

 一度領地に帰るし、俺に感化されたと言って。


「これから離れ離れになるんだからさ。今のうちに楽しんだ方が良いと思うよ?」


「それはそうですけど……うぅー……みんな大人になりすぎですよ」


「一度しか言わないけど……カエラは、ここに残るで良いのかい?」


 オルガとカエラが望むなら、そのまま領地に連れて帰ることも許可するつもりだった。

 もちろん俺も寂しいし、エリカは泣き叫ぶけど……。


「はい、それは決まっています。オルガ君の方から提案もしてくれましたよ」


「そっか、なら俺から言うことはないね。中々に良い男を捕まえたね?」


「もう! ほら! 遅れちゃいますよっ!」


「はいはい、行きますよ。今から、この家に二人きりだからねー?」


「あわわっ!? もう! 怒りますよ!?」




 追い出されるように部屋から出て、一階へ降りる。


「アレス様」


「やあ、オルガ」


「聞こえてますからね?」


「あれ? 聞こえるように言ったつもりだけど?」


「参りましたね……でも、ありがとうございます。中々、遠慮がちな女性なので」


「あの子は真面目だから、誰かが発破をかけないとね。助言をするなら、多少強引な方が良いかもね。もちろん、嫌がらない範囲で」


「ええ、わかっております」


「アレスー! 行くわよー!?」


「おにぃちゃんー!」


 玄関の外から声が聞こえてくる。

 どうやら、カエラをからかいすぎて時間が経ってしまったようだ。


「じゃあ、行ってくるね」


「ええ、いってらっしゃいませ」



 家を出て、二人と合流する。


「あらあら、ようやくきたわね」


「おにぃちゃん! おそいお!」


「悪かったよ、エリカ。ほら、行こうか」


 エリカを抱き上げ、馬車に乗り込む。


「では、参ります」


 カイゼルが馬を走らせ、馬車は走り出す。


 ……ヒルダ姉さんの結婚式場へと向かって。




 結婚式場に到着すると……。


「「アレス様!」」


 二人の婚約者が、俺を待っていた。

 それも、普段とは違う装いで。


「二人共、綺麗だね。よく似合ってるよ」


「あぅぅ……」


 カグラは髪の色に合わせた真っ赤なドレスを着ている。

 化粧もしていて、いつもとは違いお淑やかに見える。

 まさしく、侯爵令嬢に相応しい装いだ。


「はぅ……」


 セレナの方も、色を合わせた青のドレスを身に纏っている。

 化粧をする事で、グッと大人っぽくなっている。

 これなら、誰も平民だと思わないだろう。

 ここ数日の貴族のお稽古が効いてるみたいだ。


「あらあら、我が息子ながら心配になるわ」


「おにぃちゃん! わたしは!?」


「エリカも可愛いぞー」


「わぁーい!」


「これは敵いませんね」


「えへへー、そうだね」


 俺達が話してると……見知らぬ男性が近づいてくる。


「皇族の方々のお話中、申し訳ありません。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「アレス様、フランベルク侯爵家子息にして、ヒルダ様の婚約者であるロンド様です」


 カイゼルから耳打ちされる……そうか、この方が。

 金髪の優男風の男性で、穏やかそうな雰囲気を感じる。

 これが演技じゃないなら、ヒルダ姉さんも幸せになれそうだ。


「ええ、大丈夫ですよ。何か用事ですか?」


「貴方に一目会いに来ました。少し、お話をしてもよろしいですか?」


 俺に話……? まあ、まだ時間には少し余裕はあるが。


「アレス、私達は先に言ってるわね」


「おにぃちゃんはー?」


「エリカ様、行きましょう。アレス様は、大事なお話がありそうですから」


「エリカ様、手を繋ぎませんか?」


「うんっ!」


 俺とカイゼルを残し、みんなは先に行った。


「気を遣わせてしまい、申し訳ありません」


「頭をあげてください。姉上の婚約者なら、義兄となるのですから」


「そう言ってくださるのですか……なるほど、彼女の言った通りだ」


「はい?」


「いえ、ヒルダ様……いえ、ヒルダさんが言っていたのです。アレス様は可愛い弟で、きっと私とも仲良くしてくれると。他にも色々と楽しそうな思い出話を聞かせてもらいました」


「なるほど、それは申し訳ない」


 ねえさーん! 何してんの!?

 婚約者に弟の話を楽しくしてるとか!?


「良いのです。とっても楽しいのが伝わってきましたし、姉弟で仲が良いのは羨ましいですから」


「そう言って頂けると嬉しいです」


「それでは、これからも仲良くして頂けますか? ヒルダさんも喜びますから」


「ええ、こちらこそよろしくお願いします。そして、ヒルダ姉様をお願いします」


「かしこまりました。話せて良かったです。色々と煩い人もいますからね……式が終われば、そんな暇もありませんし。それでは、失礼いたします」


「ええ、ではまた」


 きちんと礼をして、ロンドさんは去っていく。


 ……あれで演技だったら相当な曲者だな。


 あれが演技じゃないことを願うばかりだ。


 そうすれば……ヒルダ姉さんも、大事にしてくれるだろう。




 その後、滞りなく式は始まる。


 白のドレスを見にまとったヒルダ姉さんは、紛れもなく綺麗そのものだった。


 俺は話すことはなかったが、こちらに歩いてくる際に一度だけ目が合った。


 そして、軽くウインクをしてみせた。


 全く……花嫁が何をしてるんだが。


 でも、隣のロンドさんが少し微笑んでいるのが見える。


 そうか……今のは『私は幸せよ』ってことなのか。


 そして、優しそうなロンドさんとヒルダ姉さんが、誓いの言葉を口にして……。


 二人は晴れて夫婦となった。


 その時、俺の目からは大粒の涙が溢れ落ちていた。


 これまでの、様々な想いが溢れてきたかのように。


 ヒルダ姉さん、貴女に会えて良かった……どうか、お幸せに。

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