72話久々の夢を見る

 トロールを倒した後、残りの魔物を駆逐する。


 そして……。


「生徒諸君! よくやった! これで少しの間は平気なはずだっ!」


 辺りを見渡してみると、瘴気が収まっていた。

 これでしばらくの間、魔物が出現しなくなるということだ。


「つ、疲れた……」


「ふぇ〜足が痛いです」


「か、身体が……」


「拙者は平気なのだっ!」


「おいおい、やせ我慢を……いや、そうでもなさそうだね」


 カグラはピョンピョンと跳ねている。

 一体、どんな体力をしてるんだ?

 間違いなく、すでに体力は一流クラスだな。


「く、くそっ!」


「も、もうダメだ……」


「はぁー疲れた」


「か、帰りたい……」


「はい!皆さん! よく頑張りましたねっ! 後もう少しですよっ!」


 どうやら、あっちも満身創痍のようだな。

 そして、先生もやはり一流の魔法使いなんだな。

 普段の言動と見た目から想像もつかないが……。

 生徒達を守りながらも、汚れ一つなく元気な姿でいるし。


「兵士達よ! 生徒達を囲め! 最後の仕上げたっ! 気合いを抜くでないぞ!?」


「ウオォォォ!!」


 クロイス殿の檄により、兵士達が俺たちを囲む。


「さあ、このまま進みなされ。女神の結界の目の前まで」


「み、みんな、いくぞ」


「は、はぃ……!」


「が、頑張ります…!」


「行くのだっ!」


 力を振り絞って、前へ進んでいく……元気な一人を除いて。




 そして、ようやくたどり着く。


「こ、これが女神の結界……?」


 な、なんだ? 気持ちが悪い? 力が抜けそうになる……!

 疲れが限界に来たか?


「うわぁ……! 凄いです! 洗われるみたいです!」


「すごい力を感じますね! 体力まで回復しそうです! だから回復魔法を使わなくて良いって言ったんですねっ!」


「今なら、もう一戦出来そうなのだっ!」


 ど、どういうことだ?

 皆が元気になっている……傷も癒えている?


「ふふーん! これが先生が回復魔法を使わなかった理由です! 女神の結界は、人族にとって癒しの力を持っています。この力を聖女と呼ばれる方が受け継ぐのです! そして邪悪な魔族のみに、ダメージを与えるのです!」


(コレイジョウチカヅイチャダメ……)


(ク、クロスか!? 目覚めたのか!?)


(オネガイ……メガミニキヅカレチャウ)


(どういう意味だ!? 女神とはなんだ!? 俺の身体はどうなってる!?)


(ハヤ……ク……マダキヅカレチャ……ダメ………)


(クロス? クロス!! ……クソ、ダメか)


「あれれー? アレス君具合が悪そうですね? どれ、先生が運んであげますよ」


「ちょっと!?」


 先生が俺を引っ張って女神の結界へと近づいていく。

 ま、まずい! 何かまずいがわからないが、身体が拒絶している!


「先生! 自分でいけますから!」


「いえいえ、遠慮しないでください。アレス君は人一倍努力して頑張っていましたからねっ! 特別に連れてってあげます!」


 いらんお節介を……! なまじ善意であるだけにタチが悪い!

 しかし、事情を説明するわけにもいかない……どうする!?


 俺が逡巡しゅんじゆんしていた——次の瞬間。


「ゴァァァァァァァ——!!」


 とてつもない咆哮が響き渡る!


「しまった! 邪神の咆哮! 皆さん! 退きますよっ!」


「皆の者! 前もって言っておいた通りだっ! 生徒を守りつつ慌てずに退却せよ!」


 腰が引けた生徒達を連れて、その場を離れていく。

 ……なんだ? 何をビビってる?

 みんなは恐怖で体が震えているみたいだ。

 しかし……何故だか知らないが、俺はその声に——安心をおぼえてしまった。


「アレス君! 大丈夫ですか!?」


「へっ?」


「顔色が悪いかと思ったら、急に良くなってきて……」


「い、いや……」


 なんだ? 気持ち悪い……体の中がぐるぐるしている?

 ……ダメだ、意識が飛ぶ……。





 ……この感覚はいつぶりだ?


 クロスが眠って以来か……?


 あぁ……涙が出そうになる。



「んー、どうしようかな?」


「あら、どうしたの?」


 ……ここは叔父さんの家か。

 リビングには、結衣と綾さんがいるのか。


「お母さん……いや、何でもない」


「最近はどう?」


「別に何にもないよ」


「まだ怒ってるの?」


「当たり前じゃない! どうしてあんなことをするのっ!?」


「だって……もうすぐ一年が経つのよ?」


「だからって写真を捨てることはないじゃない! 和馬さんだって家族じゃなかったの!?」


「家族に決まってるじゃない! でも……貴女の気持ちは、家族じゃないでしょう? 異性しての感情も含まれているでしょ?」


「そ、それは……」


「私だって悲しいわ! お腹を痛めていなくたって、成長を見守って育ててきたんだから!」


「お母さん……でも……忘れられないよぉ……!」


 結衣が泣き崩れる……俺は、それを見ることしかできない。

 どうして俺は何もできない! なんでも良い! 伝える方法はないのか!


「結衣……まだ、そんなにも、和馬のことを想って……ごめんなさい、これを」


「へっ? あっ——和馬さんと私の写真! 捨てたんじゃなかったの!?」


 綾さんのポケットから、俺と結衣の笑顔の写真が。

 懐かしい……中学卒業の記念だってせがまれて……腕を組んで良い?って言ってた。

 俺は成長していく結衣に戸惑いつつも、それを受け入れたんだっけ……。

 同時に、この子から離れる決心をした気がする。


 俺なんかより、同年代の男の子と仲良くするように……。

 もしかしたら……俺は怖かったのかもしれない。

 いずれ結衣が大人になって離れていくことを。

 そして、その前に逃げ出したのかもしれない。


「……本気で捨てるつもりだったわ。でも、最後の捨てるという行為が出来なかった」


「お母さん……ごめんなさい、私は自分ばっかりで……」


「ううん、良いのよ。わかった、もう捨てないわ。ただし、きちんと前を見ることが条件です……できる?」


「前を見る……難しいけど、頑張ってみる!」


「そうね、一緒に頑張りましょう。ほら、涙を拭いて……和馬さんに言われたでしょ?」


「えっと……わ、私の笑顔が好きだって……」


「今の貴女はどうかしら? 和馬さんに嫌われちゃうわよ?」


「お、お母さん………う、うんっ!」


 そう言い、結衣は俺の好きな笑顔を見せる。


 綾さん、ありがとうございます。


 そして、ごめんなさい。


 叔父さんと結衣のこと、よろしくお願いします……。





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