67話父上に報告

 あまりの変わりように気になった俺は、父上の元を訪ねることにする。


 あと、二人と婚約することを伝えなくてはいけない。


「これはアレス様!」


「試合みてましたよっ! おめでとうございます!」


 門の入り口にて、以前と同じ兵士さんが言う。


「ありがとう、二人共。通って良いかな?」


「はいっ! もちろんです!」


「どうぞ、お通りください!」


「いつもご苦労様。それじゃ、失礼するよ」


 門をくぐり、城の中に入る。


 歩くたびに、あちこちから声がかけられる。


「おめでとうございます!」


「素晴らしい戦いでしたっ!」


「ありがとう、みんな」


 そんな嬉しい声と……。


「調子に乗って……」


「なに、どうせ他国に行くから平気さ」


「政治には関わることはないだろうよ」


 と言った声も聞こえてくる。


 まあ、全ての人に好かれるなんて無理だからな。


 こればかりは仕方あるまい。




 そして、父上の私室の前に到着する。


「ゼトさん、こんにちは」


「ええ、アレス様。試合、お見事でしたね」


「ゼトさんに言われると嬉しいですね」


 何せ、兄弟子みたいなものだし。

 たまに稽古もつけてもらっているし。


「もうそろそろ、私が教えることもなくなるでしょう。おっと、いけない。では、どうぞ」


「ありがとうございます。父上、失礼いたします」


「うむ、入るが良い」


 扉を開けて、部屋に入る。


「きたか、アレス。まずは改めておめでとう。皇帝として、父として嬉しく思う」


「ありがとうございます、父上。それでですね……」


「報告は聞いている。すまなかった」


「いえ、父上が謝る事ではないですよ。それにしても、あの変わりようは?」


「俺も詳しくはわからない。帰ってきたらあの状態で、こっちが驚いたくらいだ。しかし第二皇妃や宰相あたりが驚いてないところを見ると……」


「父上にだけ、情報が行っていなかったと? そんなことが可能な者は……」


「ああ、一人しかおらん……ターレスが動き始めたのかもしれん」


「いよいよですか……まあ、時間は稼げた方ですけどね」


「うむ、一応二年半はな。しかし、その理由がわからない。何故、あのようにしたのか」


「自分からということは? 自分で言うのもなんですが、ああいうことに興味を持つ年頃です。その快楽に溺れたのでは? あの体型は、各地で甘やかされた結果なのでは?」


「なるほど……ターレスは関係ない場合もあるか。性格まで変わってしまったのは、それらが原因かもしれないな」


「あの年頃は、周りの環境次第でどうとでも変化しますからね」


「相変わらず大人みたいなことを言う……いや、大人だったんだな」


「まあ、それなりには。ということは、様子見ということで?」


「うむ、しばらくはな。こっちでも調査を行うとしよう。もし何か理不尽なことを言ってくるようなら、遠慮なく叩き潰して良い——俺が許可する」


「ありがとうございます、それが聞ければ安心です。なぜなら……婚約者になりましたし」


「……なに? ま、待て、侯爵家の娘ではなくて?」


「カグラにも婚約を申し込みましたよ。そして、セレナにも。今日は、その報告もあって参りました」


「な、なんと……それでか、一人前みたいな男の顔になっているのは」


「だとしたら良いんですけどね。今から挨拶に行くと思うと……ブルブルします」


「ふははっ! アレスにも怖いものがあったか! ……いや、それだけ大事に思っているということだな。おめでとう、アレス」


「ありがとうございます。それでですね、クロイス殿にお伝えしたいのですが……」


「わかった、俺の方で手紙を書いておく。あっちは首を長くして待っているだろうしな」


「随分と待たせてしまいましたからね。ですが、ようやく覚悟が決まりました」


「国としてもブリューナグ侯爵家と繋がりが出来るのは好ましいことだ。フランベルク侯爵家にはヒルダが嫁ぐし……うむ、悪いことではないな」


「ヒルダ姉さんは、いつ頃結婚するのですか? そして……お相手の方はどんな方なのですか?」


 今まで一度も聞いたことはない。

 無意識のうちに避けていたのだろう。

 だが、今なら問題ないはずだ。


「ほう? ……吹っ切ったと見えるな」


「えっ? ……気づいていたのですか?」


「当たり前だ、こう見えてもお前の父親だぞ?」


「そ、そうだったんですね……もしかして、他の人も?」


「いや、俺とエリナくらいだろう……もしくはカイゼルか」


「ハハ……申し訳ない」


「いや、そういう例もあることはあるしな。それにお前の前世の話や、お前の立場からいって無理のないことだと判断した」


「そう言ってもらえると助かります」


「相手はロンド-フラムベルク、フラムベルク侯爵家の長男だ。歳は十六歳、細身の青年で性格は温厚で優しいと評判だそうだ」


「ほっ……良い人そうで良かった。しかし、フラムベルク家にしては……」


「うむ、かの家は真の皇族は自分達だと思っている。しかし、実際に行動に移すこともない。しっかりと王国から我が国を守っている」


「変ですよね、色々と。代々それを主張しつつも、実際にはなにもしない」


「そんなことを言っても、良いことはないのにも関わらずな」


「反乱を疑われるだけですからね。それも含めて姉上ということですか?」


「うむ、彼奴なら問題あるまい。己の成すべきことをわかっているはず」


「できれば、普通に幸せになってもらいたいものです」


「もちろん、俺とて同じ思いだ。父親して、普通の幸せを願っていた。しかし本人が言い出したことでもある。私が本国との架け橋になると」


「一度決めたら曲げませんからね……ヒルダ姉さんらしい」


「全くだ……頼りになる娘だよ。結婚式は、お前達が卒業する辺りに行われる」


「わかりました。では、会うのを楽しみにしていますかね」


 ヒルダ姉さんを幸せにしてくれそうな人だと良いけど。


ヒルダ姉さんが大事な人ということに変わりはないのだから。

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