68話いざ、最終試験へ

 それから数日が過ぎ、いよいよ最後の試験となる。


 その間にクロイス殿に手紙を出し、試験が終わり次第挨拶に行くことになった。


 何故なら、最後の試験会場は例の場所だからだ。


 ちなみに帰ってきてから、セレナのご両親にも挨拶をするつもりだ。




「さて……では、行ってきます。1週間ほど家をあけます」


「いってらっさい!」


「違うぞ、エリカ。行ってらっしゃいだ」


「い、いってらっしゃい?」


「そうだっ! おおっ!えらい!」


 その日々重くなる身体を抱き上げる。


「えへへー! 褒められたおっ!」


「はいはい、わかったわよ。ほら、遅れちゃうわよ?」


「アレス様、お気をつけて。お、オルガ君にもお伝えください」


「はい、母上。カエラもね」


 エリカを優しく下ろす。

 その頭ゆっくりと撫でる。


「ふにぁ……」


「アレス様、油断なさらないように。貴方の強さは、既に一兵士を凌駕しております……が、それでも死ぬ時は死ぬのが世の常です。優勝したからといっても驕ることなきように」


「ああ、わかってる。ありがとう、カイゼル。じゃあ、行ってくるよ」


「お兄ちゃん! いってらっしゃい!」


「おっ、全部しっかり言えたな! ああ、良い子でな」


 子供の成長は早いものだ。

 …… いかん、俺もまだまだ子供だった。




 個人戦も終わったので、再び皆でワイワイと登校する。


「今日から一週間くらいは都市を出るんですよね?」


「ああ、集団で移動するから時間がかかるからね」


「拙者達生徒に護衛をつけなくてはならないですし」


「僕達は以前行ってませんし、少し緊張しますね」


 そう、最終試験の場所は魔の森周辺となっている。

 女神の結界を確認して、戻ってくることが俺達の試験である。

 もちろん、下位のクラスには歴戦の騎士が護衛する。

 上にいくにつれ、護衛の数は減るということだ。


「まあ、この国の要職に就くなら、見ないわけにはいかないからな」


 文官になるにしろ、一兵卒になるにしろ、それを見ることは無意味じゃない。

 実際に目にして、この国を守るという意識を芽生えさせるのが目的らしい。


「その恐怖心に打ち勝つことが試験みたいなものなんですかねー?」


「おそらく、その意味合いもあると思うのだ」


「あとは、実際に魔物と戦えるかですかね」


 そんな会話をしつつ、学校へと到着する。


 入り口には馬車と騎士たちが並んでおり、生徒たちが順番に乗り込んでいる。


「あっ、きましたね! こちらですよっ!」


 先生が手を振っている。


 そこには他の四人も集まっていた。


「はいっ! これで全員ですねっ! 今回は、皆さんに実際に馬に乗って、軍と同じような行動をしてもらいます!」


 卒業試験は行軍の訓練も兼ねているらしい。

 自分で馬に乗り、集団行動する訓練だ。

 俺達生徒が走る周りを、騎士たちが囲む形だ。


「よっと……よし、よろしくな?」


 馬の頬を優しく撫でる。


「ブルルッ」


 すると、まるで任せろというような顔をする。

 カイゼルに教わった通りだ。

 馬は道具ではなく、相棒だと思って接しろと。

 雑に扱えば、それを機敏感じ取ると。


「へ、平気かな? よ、よろしくね?」


「セレナ、この馬達は訓練されているのだ。恐れずに、安心して任せるといい」


「僕達もいますから」


「そういうことだ、セレナ」


「みんな……うんっ!」


 セレナだけは平民なので、慣れていないのは無理もないことだ。


 さて……俺も少し緊張してきたな。


 何故ならクロスと会って以来、俺も行っていないからだ。


 何も起こらなければ良いが……いや、この考えは良くない。


 前世でいうところのフラグってやつになってしまう。




 俺の不安をよそに、順調に進んでいく。

 初めての行軍、馬での遠出に、生徒達は四苦八苦しているが……。

 それでも周りの騎士達のフォローにより、何とか進んでいる。


 ただ、難点は……。


「進むスピードが遅いってことだよな」


 焚き火を囲んで、四人で食事をする。

 俺は皇族なので、騎士達が気を使って部屋を用意するといったが……。

 それは丁寧に説明して断ってある。

 まあ簡単に言うと……皇族だからこそ、皆と同じようにやるべきだと。


「五百人くらいいますもんねー」


「それでも、三百人は減ったのだ」


「まあ、卒業するのも簡単なことではありませんから」


「俺達は努力もしているが、幸運なことには違いない」


 そう……この四年間で、それだけの人数が辞めていった。

 学費が払えなかったり、武力や知識が追いつかなかったり。

 または、貴族に嫌気がさした者など……中には優秀な者もいただろうに。

 やはり、制度そのものを見直さないといけないのだろう。




 そして、2日かけて魔の森付近に到着する。


 そして、そこで待ち構えていた人物が檄を飛ばす。


「学生諸君! よくぞ来てくれたっ! まずはここまで来れたことを誇りに思うと良い! 諸君らの中には、途中で脱落した者もいるだろう! しかし、それがわかることも大事なことだっ!」


 まさしく、クロイス殿の言う通りだと思う。

 今回の行軍で百人近くが途中で脱落した。

 理由は馬に乗ることによる疲労、慣れない野営、それによる睡眠不足など様々だ。

 だが、それがわかっただけでも意味がある。


「父上……」


「相変わらず、素敵な方だな」


「本当ですね!」


「僕の父上も言ってましたよ。あの方こそが本物の貴族だと」


「えへへ……嬉しいのだ」


「これから諸君には魔の森に近づいてもらう! はっきり言って安全は保障できない! 我々も全力で守ると約束はするが、予測不可能な事態も想定される! もし恐れる者がいたら遠慮なく手を挙げるといい! それを責めはしない! 己を知るということも大事なことだからだっ! 蛮勇振るえば良いということではない!」


 すると、何十人かの生徒が手を上げていく。

 それもまた、勇気ある行動だ。

 それを責めることはできないし、させてはいけない。


「何より……この感じだと」


 俺は行軍の様子や、クロイス殿の言葉を受けて思った。


 

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