66話話し合い

 ヘイゼルが去った後、オルガがこちらにやってくる。


「アレス様、ご無事で良かった……」


「オルガ、母上達は?」


「ヘイゼル皇子が見えた時点で、僕が部屋の中に避難させました。そして、その扉の前で護衛をしていました」


「そうか……ありがとう」


 あんなのに妹を会わせたくない。

 いずれ会うとしても……。


「いえ、謝るのは僕の方です。怒鳴り声は聞こえていました……カグラさん、申し訳ない」


「オルガ、謝ることはないのだ。拙者は侯爵家の人間だ。だから少しはマシな対応になるかと思って、ヘイゼル皇子の前に出たに過ぎん」


「なるほど、そういう理由か」


「私が対応すれば良かったですな」


「ヘイゼルの母親の実家と、カイゼルは仲が悪いからなぁ」


「しかし、全く意味はありませんでしたね。やはり、僕が………」


「い、良いのだっ! あ、アレス様が慰めてくれたし……」


「えっと……?」


「まあ、とりあえず家に入ろう。色々確認しておかないといけない」


 家の中に入ると、母上だけが待っていた。


「アレス! 大丈夫!?」


「ええ、問題ありません」


「良かった……でも、何の用で?」


「カエラとエリカは?」


「エリカは寝ちゃったわ。今はカエラが見てくれているわ」


「そうですか……では、簡単に流れを説明します」




 リビングのテーブルに着き、事の顛末を話す。


「そう……なんて言ったらいいかわからないけど……とりあえず、おめでとうかしら?」


「よ、よろしいでしょうか?」


「わ、わたしもいいんですか……?」


 二人がガチガチになっている。

 だが、そのおかげで嫌な思いも上書きされたようで安心だ。


「ええ、もちろんよ。というか、私としてはとっくにそのつもりだったわ。二人共、昔からアレスのこと好きだったものね?」


「あぅぅ……」


「はぅ……」


「母上、その辺で。俺も少々照れくさいのです」


「ふふ、アレスに婚約者かぁ……おばさんになるわけね」


「何をいうのですか。まだまだお若く綺麗です」


「そうですよっ!」


「そうなのだっ!」


 もう三十路だというのに、その美貌に衰えはない。

 むしろ父上曰く……ますます妖艶だそうだ。

 もう一人作るか!とか言ってたし。

 息子としては、嬉しくもあり複雑でもある。


「ありがとう。カグラさん、セレナさん、アレスのことよろしくお願いします」


「「はいっ!」」


「それでヘイゼル皇子だけど……」


「拙者も驚きました。まさか、あのような姿になっているとは」


「父上からも何も聞いていないし……」


「確か、先日帰ってきたと言ってましたよね?」


「ならば、まだ情報が出ていないのではありませんか?」


「オルガの言う通りかもな。少し様子をみてみよう。というか、おっさんみたいなこと言ってたよね?」


 発言は、まるで中年のおっさんだったな。


「か、身体を要求してきましたね……あぅぅ……」


 セレナは自分の身体を抱きしめる。

 その際に、とある部分が押し出される。

 まあ、魅力的だということは否定しない。


「ひ、貧相って言われたのだ……」


「気にすることないよ。まだまだ成長期だし。ヘイゼルも十三歳にしては……どうなんだ?」


 そういう欲が出てくる年頃ではあるが、あまりの変貌を遂げてたし。


「そ、その!」


 セレナが頬を染めて言う。


「うん?」


「あ、アレス様も……そういうことしたいですか……?」


「き、気になるのだっ! ……でも、拙者のような身体では……スン」


 終いには、カグラまでそんなことを言う。


 ……これ、正解は何?

 したくないと言ったら、二人を傷つけるのか?

 したいと言ったら、傷つけるのか?

 ……とりあえず、嘘はつきたくないな。


「今の所、そういったつもりはないかな」


 俺の身体はすでに、そういう行為は出来るだろう。

 そして、おそらく二人も。

 何故わかるのかというと、機嫌や態度でわかる。

 結衣も、あの日が来ると精神的に不安定になったものだ。


「そ、そうなんですね……ほっ」


「や、やはり、魅力がないのだろうか?」


「そういうことではなくて……うーん、なんと言ったらいいか」


 年頃の二人を傷つけず済むには、どう言えばいい?


「クスッ……二人共、あんまりアレスをいじめちゃダメよ?」


「ふえっ?」


「そ、そんなつもりは……」


「アレスはね、貴女達の身体を心配しているのよ」


 どうやら、母上が代弁してくれるみたいだ。

 俺が言うのも恥ずかしいし、ここは任せるとしよう。


「えっと……?」


「どういう意味ですか?」


「二人も性については習ったわね?」


「は、はぃ……少しだけは……」


「拙者は実家で……」


「なら、教わったはずよ。貴女達の身体は、子供を作れる身体にはなっているわ。でも、それは作れるというだけで、まだまだ身体は未発達な状態なの。これから少しずつ時間をかけて、それらを受け入れる身体に成長していくのよ」


「はい、わかります」


「拙者もです」


「はっきり言って、未発達の状態で行うと身体への負担は大きいわ。アレスだってお年頃だから、そういった気持ちがないわけではないと思うわ。ただ、貴女達の身体を心配しているのよ」


 二人の視線が、俺に向けられる。


「まあ、そういうことだね。男は割と楽に行えるけど、女性への負担は大きい。だから、婚約者だからといって手を出す気はない。少なくとも、二人の身体が成長するまではね」


 婚約したらそういう行為に及ぶ奴もいるようだが……。

 アレスとしても、和馬としても——許容できるものではない。

 婚約者としての責任と、俺の倫理観的に。


「「アレス様……」」


 二人が俺を見つめてくる。

 や、やばい……超照れるのだが。


「お、オルガはどうなんだ? カエラは、もう大人だぞ?」


「えっ!? ここで僕に振るんですか!?」


「なんの話ですか?」


 部屋にカエラが入ってくる。


「い、いえっ! なんでもないのですっ!」


「変なオルガ君……アレス様? なんで笑ってるんですか?」


「いや、なんでもないんだ。それより……」


 カエラにも、掻い摘んで説明をする。


「そうですか……災難でしたね。ですが、おめでとうございます」


「あ、頭をあげてくだされ! 貴女は義姉上なのです!」


「そ、そうですよっ!」


「そうか、そう言ってくれるのか……カエラ、二人の言う通りだ」


「アレス様……ふふ、こんな可愛い妹が二人も増えるなんて嬉しいですね」


「クスッ……お茶にでもしましょうか。カエラ、お願いしていい?私は、エリカのところに行くわね」


「はい、もちろんです」


「わ、わたしも手伝いますっ!」


「あ、義姉上! 拙者も!」


「はいはい、わかりましたよ」


 三人が仲良くキッチンへ向かう。


「アレス様?」


 オルガが睨んでくる。


「わ、悪かったよ」


「まあ、良いです。おかげで、僕も覚悟が決まりました」


「おっ、ということは……」


「はい、領地に帰る前にお伝えしようと思います」


「そっか……応援するよ」


 俺も、二人の実家に挨拶しに行かないとな。


 ……あれ? なんか胃が痛くなってきた。

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