64話覚悟を決める

 こうして、試験を伴った大会は終了した。


 そして、現役の騎士との模擬戦は俺達にはないそうだ。


 俺達四人は、すでに実戦を戦える力があること。


 すでに、自分がすべきことをわかっているからだと。


 というわけで、それらが終わるまでは休暇で良いと言われた。


 しかし……それで休暇をとるような俺達ではない。


 だからこそ、免除されたのかもしれない。



 日差しが差し込む中、全員で俺の家の庭に倒れこむ。


「ハァ、ハァ……ここまでにしようか」


「あぁー! 疲れたのだっー!」


「ふぅ……堪えますね」


「つ、疲れたよぉ〜」


「セレナ、よく付いてきた。正直言って、途中でへばると思ったが……」


「えへへ、頑張りましたー。先生にも、魔法使いには体力も必要だって言われましたし」


 ランニングからの体術の稽古。

 俺が学生時代にやっていた筋力トレーニング。

 特に足腰を鍛える訓練をしたが、それらに遅れながらも付いてきた。


「そうだな。行軍中なんかも歩き続けることもある。馬がやられたり、森の中に入ったりね」


「今度の最終試験にも必要なのだ」


「ええ、そうですね。ここから出発して、魔物を退治してから帰るまでを試験するみたいですから」


「みんなー! ご飯よー!」


「お腹がすいたおっ!」


 母上と、我が家の天使が呼んでいる。


「では、ご飯にするか」


「「「はいっ!!!」」」


 うむ、腹が減っては戦は出来ぬ。

 この場合は訓練だけど。



 シャワーを浴び終えたら、みんなで食事となる。


「お、オルガ君、どうぞ」


「い、頂きます」


 母上のいたずらにより、オルガとカエラだけ別の席にいる。

 もはや、お見合い状態である。


 しかし、人のことは言えない。


「アレス様、これ美味しいですね!」


「アレス様、拙者はこれが好きです!」


「はいはい、わかったよ」


 両隣に座って食事をしているのだが……。

 二人とも引っ付いて離れない。

 そして、あることに気づく。

 二人から甘い香りがする。


「二人共、シャワー浴びたよね?」


「く、臭いですか!?」


「ふえっ!? はわわっ!」


「ごめんね、そういう意味ではないんだ」


「ほっ……では、どのような?」


「何か匂いましたか?」


「うっ……さあ! 食べようか!」


「……変なアレス様なのだ」


「……うーん、なんだろ?」


「ママ! おにぃちゃんはどうしたの?」


「ふふ、アレスも男の子になってきたということね」


 流石に母上には見抜かれるか。

 いや、しかし……まさか、二人を女性として意識するとは。

 二人が女性として成長してきたから?

 それとも……やはり、俺はそういうことなのだろうか。

 やれやれ、二人の女性を好きになるとか……。

 結衣が聞いたら怒りそうだな……怖い。



 だが、もはや俺の意識はアレスと言って良いだろう。

 前世の俺の認識では、この考えに至らないはず。

 ならば、あとは行動を起こすのみ。



 食事を終えた後は、再び鍛錬に励む。


 オルガとカグラは、二人掛かりでカイゼルと模擬戦。


 俺とセレナはそこから離れ、約束通りに真剣勝負をする。


 以前、父上に頼んで敷地の一部に建物を建ててもらった。


 広さは体育館くらいで、魔法を防ぐ素材で建てられている。


 そもそも皇族の住処なので誰も覗かないし、外から見えることもない。


 そこなら闇魔法も練習できるし、セレナと訓練に使える。


 なにせ、中級以上は危険なので場所を考えないといけない。


「ルールはどうする?」


「では、魔法のみでお願いします。そして、その場から動かないこと」


「わかった。使う魔法は?ランクはどうする?」


「私も風と水を使うので、アレス様も同じように。ランクは、中級クラスのみにしましょう」


「よし……セレナ、あとで話がある。 良いだろうか?」


「ふえっ? は、はい……なんだろ?」


 まずはカグラに伝えてから、セレナにも言っておかなくてはいけないな。


「まあ、今はいいから——セレナからどうぞ」


「では——アクアキャノン!」


 文字通り、水の大砲が発射される。


「フレイムランス——続けてファイアーウォール」


 水の大砲の真ん中を、炎の槍が突き刺す。

 それでも防ぎきれないので、炎の壁を作る。


「やっぱり、詠唱が早い……」


「そうだね。これだけはセレナよりも早いと言って良いかな」


 イメージが湧かない人は、魔法を長く唱える。

 それに、魔力を素早く移動させる訓練も必要になる。


「さて、こっちからいくよ——ファイアースネーク」


「出ましたねっ——アクアブレス!」


 威力は低いが、広範囲に水のブレスが撒かれる。


「やっぱり消されるか……」


 単純な魔法の打ち合いだと、俺はセレナに勝てないかもな。

 相性が悪いし、才能にも差がある。


「ウインドプレッシャー!」


「ダークランス」


 ウインドプレッシャーの影から、黒い槍が突き出る。


「か、掻き消されちゃった……すごい」


 これは、影のあるものから突き出る技だ。

 ただし、距離に難がある。

 三メートルくらいが限界かな。


「闇魔法は光以外に弱点はないからね」




 その後も魔法のみで攻防を繰り返す。


「えへへ、楽しいですねっ!」


「まあ、否定はしない。中々撃ちあえる人もいないからね」


「先生にも、本気で撃ってもいい人がいるって幸せなことって言われました」


「へぇ、たまに良いこと言うんだよな」


「どんなに才能がある人でも、それを競える相手がいないとダメだって」


「先生の言う通りだな。さて……俺は魔力が減ってきたが、それではつまらないよな?」


「はいっ! では、最後にを使いましょう」


「わかった……」


「では……」


 それぞれ集中モードに入る。

 流石に上級は、今の俺たちには扱いきれない。

 どうしても時間はかかるし、精度も落ちるであろう。

 それでも、最後の締めには相応しいと思った。


「全てを焼き尽くせ——インフェルノレイ灼熱の光


「全てを飲み込め——タイダルウェーブ大津波


 ほぼ同時に詠唱を終える。

 セレナは、五メートルを超える波を出現させる。

 俺は、いくつもの火の玉を空中に発射して、それらを隕石のように落下させる。


 それらがぶつかり合い——弾ける!


「くっ!?」


「きゃっ!?」


 爆音と暴風が吹き荒れる!

 や、やはり威力があり過ぎるか!


シャドウワープ影移動


 闇魔法である、影をから影に移動する魔法を唱える。

 条件は目視できる位置にいること、相手の許可を得ていることだ。

 これにて、セレナを受け止める。


「あ、ありがとうございます」


「いや、お互いに調子に乗ってしまったな」


 つい楽しくなって、上級を使用してしまった。

 こりゃ、後で怒られるな。



 すると……カイゼルが、慌ててこちらに来る。


「アレス様、セレナ殿」


「すまない、カイゼル。少し調子に乗ってしまった」


「ごめんなさい、私もです」


「いえ、若いうちはそういうこともあるでしょう。覚えた力を試したい時が……それが本題ではないのです」


「うん?」


「第二皇子が訪ねてきました」


 ……やれやれ、めんどくさいことになりそうだ。

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