63話戦いの終わり

 こうして、全ての試合が終わった。


 ひとまず優勝はできたが、余裕などはこれっぽっちもない。


 正直言って、紙一重の差といったところか。


 もし、最初にセレナやオルガと戦っていたら?


 カグラに勝てただろうか?


 もしくはカグラと戦った後に、セレナやオルガに勝てただろうか?


 過信してはいけない。


 あくまでも運を込みで優勝したということを。


 もちろん、自分の努力や実力を否定するつもりもない。


 過信せずに、己の力を信じる。


 矛盾するようだが、これが一番のような気がする。




 俺はリングを降りて、カグラへと近づいていく。


「カグラ、大丈夫かい?」


 思いっきり腹を蹴ってしまったからな。

 試合だし、本気じゃないと失礼とはいえ……難しい。


「あ、アレス様……ありがとうございます」


「ん?」


「約束通り、本気で戦ってくれましたから……」


「当たり前さ。カグラに愛想をつかされたら困るしね」


「そ、そんなことしませんっ!」


「そう、なら本気を出した甲斐があったね。カグラは嫌がるかもしれないけど、やっぱり女性を痛めつけるのは性に合わないみたいだ」


「い、いえ……不思議なのだ。アレス様に言われるとドキドキするのです……」


「カグラちゃん! 平気!?」


「うむっ! ダメージはもうないのだ!」


「いや、それはそれでどうかと思うのだが?」


 俺の本気の蹴りを食らったが……。

 確かに、すでに立ち上がってピンピンしている。


「はは……僕だったら、すぐには立てないですね」


「いや、普通はそうだから。カグラがおかしいだけだ」


「むぅ……やっぱり痛いかもしれないのだっ!」


「はい?」


「カグラさん、それは無理があるかと……」


「ふふ、カグラちゃん可愛い」


「うぅー……痛いのだっ! おんぶしてほしいのだっ!」


 子供みたいに地団駄を踏んでいる……。

 まあ……頑張ったしね。


「いいよ、ほら。一応、医務室に行こう。セレナ、付いてきてくれ。オルガも行こう」


「はいっ」


「ええ」


「ふえっ? ……いや、その……」


「あれー? カグラちゃんが乗らないなら私が……」


「の、乗るのだっ! し、失礼します……」


「クク……さあ、行こうか」


 先生に挨拶をして、俺達は医務室へ向かう。


 三十分の休憩を挟んだのちに、表彰式が行われるようだ。


 放送が来るまでは、各自自由にしていいとのこと。




 そして、医務室の一角にて四人で顔を合わせる。


「皆、お疲れ様。良い戦いだったと思う。ただ、俺も含めて課題が出てきたな」


「うぅー……次は負けないのだっ!」


「やっぱり、課題が多いなぁ〜」


「僕も精進しないといけませんね」


「では、確認していこう。オルガは何が足りない?」


「……全部ですね。力、技、速さ、器用さ、その全てが」


「オルガはオールラウンダーで大器晩成型だろう。もしかしたら、どれも中途半端になるかもしれないな」


「どうしたら良いですかね?」


「カイゼルがアドバイスをくれると思うけど……山なりを目指したら良いんじゃないか?」


「山なりですか?」


 俺は手で波の表現をする。


「天辺に置く項目を決めて、それを中心に鍛えていくことだ。バランス型だが、一点集中型にもなれる」


「なるほど……」


「ただ、当たり前だが……」


「そもそも全体が高くないと意味がないですね。ありがとうございます。ひとまず、それでやってみます」


「拙者は、なぜ負けたのだ? 実力には差がないと思っていましたが……気のせいだったのだろうか?」


「いや、合っている。実力的には差はないはず。というか、カグラの方が強いかもしれない」


「むぅ……アレス様だから慰める方便ではないと思いますが……では、何故でしょうか?」


「勝ちを急ぎすぎたね。体力、魔力共に君のが上だ。もっとじっくりと追い込めば、俺はきつかったと思う。もちろん、それならそれで対処法を考えるけどね」


「そっか……拙者は、あの時焦ってしまいました。アレス様が余裕があるように見えて……それも大事なことですね」


「そうだね。虚勢をはることも場合によっては必要だと思う。さて、セレナは……わかってるって顔だね」


「はい、私は魔力の精度を高めること。魔力そのものを増加させること。効率化をはかること。課題は……少ない魔力で、威力のある魔法を開発ですかね」


「あとは体術もやった方が良いかもね。弓だけでは、どうしても限界は来る」


「うぅー……苦手ですけど頑張りますっ! お、教えてくれますか?」


「ああ、もちろんだ」


「ずるいのだっ!」


「僕にも必要ですね」


「じゃあ、卒業までの課題にするか」


 すると……どうやら、準備が整ったようだ。


 俺達は顔を見合わせて、再び会場内へと向かう。



 すると……。


「「「ウォォォ!!」」」


「きたぞー!」


「アレス皇子だぁー!」


「優勝者おめでとう!」


「誰だよ! 好き勝手言ってたのは! すげぇーじゃん!」


 バリアが解けて、会場内の声が聞こえる。


 そして苦々しい顔をした大臣達も。


 渋々拍手をしている、高位貴族達も。


 ようやく……ここまで来れたか。


「アレス様……涙が……」


「おいおい、カグラ……ホントだ」


 いつのまにか、涙が溢れていた。


「えへへー、私達も嬉しいですっ!」


「アレス様が認められる日が来ましたねっ!」


「みんな……ありがとう。それもこれも、君たちがいてくれたおかげだ。挫けそうになる時、いつも君達が支えてくれた。これからも——俺と一緒にいてくれるかい?」


「もちろんなのだっ! 嫌だと言ってもついていくのだっ!」


「はいっ! 私は貴方の側に!」


「たとえ離れようとも、常にお側に」


「優勝者よっ!こちらへっ!」


 父……皇帝陛下が呼んでいる。


 俺はゆっくりと歩き、直前で跪く。


「面をあげよ」


「はっ!」


 顔を上げると、視界には父上。

 母上とカイゼル。

 エリカとカエラもいる。

 そして、皆が微笑んでいる


「此度の戦い見事であった。皇族の名に恥じない戦い振り、父として皇帝として嬉しく思う。優勝者はアレス! アレス-アスカロン! 我が息子よっ! よくやった!」


「は、はぃ……! 見に余る御言葉——ありがとうございますっ!」


 父上の顔が見えない……!

 涙が溢れて止まらない……!


 ……俺は、ようやく認められるところまで来た。


 これで母上も少しは楽になるだろうか?


 俺を信じる者達に報いることができただろうか?


 いや……まだ、これは始まりに過ぎない。


 こっからが、俺の本当の戦いになる。


 なぜだが……そんな気がしてならない。


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