出来損ない皇子の成り上がり~聖痕なしの第三皇子に転生したけど今度こそ家族を守るために最強を目指す~

62話決勝戦

　リングから降りてきた二人に、俺は近づいていく。

「セレナ」

「は、はいっ！」

「良い戦いだった。魔力制御は、もはや俺よりも上かもしれない。ここでは戦えないが、後日改めて俺と戦うか？」

　あの戦いを見てから身体が熱い。

　負けられないという気持ちと、戦いたいという気持ちが溢れ出す。

「い、良いんですか……？」

「ああ、もちろんだ。本気で相手になる」

「おっ、お願いしますっ！」

「それと……俺もセレナを性格悪いとか思ってないから。優しくて明るい、可愛い女の子だと思ってる」

「ひゃい！ あぅぅ……」

「良かったな、セレナ」

「カグラ」

「はっ！」

「気を抜くなよ？ でないと……一瞬で終わるぞ？」

　俺から抑えきれない気持ちが溢れ出す。

「ふふ……あははっ！ ええ——この日を楽しみに待っておりましたっ！」

　あんな戦いを見せられて燃えないなど考えられない。

　俺は今すぐ戦いたい気持ちを抑え、ひとまずその場を離れるのだった。

　少しの休憩を挟んで……いよいよ、決勝戦となる。

「闘争心を保ちつつ冷静に……」

　先ほどの気持ちを切らさずに、尚且つ少し押さえ込む。

「よし……良い状態だ」

　気持ちを引き締めて、俺もリングへと上がる。

「…………」

　カグラが、その混じり気のない真っ直ぐな瞳を俺に向ける。

「…………」

　俺も燃え上がる闘志を抑え、カグラを真っ直ぐ見つめる。

　そこには余計な言葉はいらない。

「ふふ……どうやら、言葉はいらないようですね。では決勝戦にして最終戦——始め！」

　魔力を腕と足回りに重点を置き、一気に距離を詰める。

　そのまま、気合いを込めて剣を叩き込む。

「クッ！？」

「次々行くぞ——ハァァーー！！」

　連続して剣を振るう！

「は、速い！ やはり、スピードでは……でも！！」

「なに！？」

　なんと——剣を素手で受け止めた！

　いくら刃がない剣とはいえ……恐ろしい魔力強化だ。

「セァ！」

「おっと！」

　空いた右手で、今度はカグラが連続して剣を繰り出してくる

　はっきり言って、一発でももらえば俺の魔力強度では危険だろう。

　俺はあくまでも魔法剣士に近い。

　純粋な戦士であるカグラには、魔力強度では到底及ばない。

「相変わらず素早いですねっ！」

「相変わらず重い一撃だっ！」

「うぅー……アレス様まで酷いのだっ！」

「わ、悪い！」

　カグラの一撃で、堅い強度を誇るリングが凹んでいく。

　大剣を振るうたびに、暴風が吹き荒れる。

　しかも……これは、徐々に上がっている？

「こう！」

「チッ！ まさか真似されるとはねっ！」

　先ほど見せたやつだ。

　俺のを参考にして、踊るように振り回している。

「……どうします？ もう逃げ場はないですよ？」

　リングの端へ追いやられる。

「いくらリングという制限があるとはいえ、俺を追い込むとはね……カグラ、成長したね。きちんと俺の進行方向を塞ぎつつ、端にしか行けないように誘導した」

「あ、ありがとうございます……い、今は試合中ですっ！」

「ごめんごめん、つい嬉しくて——さあ、第2ラウンドといこうか？」

　魔力の質を変え、身体から炎が舞い上がる。

　こっからは剣士ではなく、魔法剣士としての戦いだ。

「アツっ！？」

「魔力強度を高めておけよ？」

「……ええっ！」

「火炎刃」

　炎を纏った剣を一閃。

「ッ——！」

　……剣で受け止めた？

　溶けてもいない……俺と同じようにか。

「剣自体に魔力強化をかけたな？」

「え、ええ……アレス様のを見てましたから」

　俺の炎の剣は、普通なら剣自体が耐えきれずに燃える。

　それを、魔力でコーティングすることにより防いでいる。

　炎の拳や足と同じ要領で……しかし、これには繊細なコントロールが必須。

　なぜなら、強すぎては剣そのものが耐えきれないからだ。

　薄皮一枚程度の、練度の高い魔力を纏わなくていけない。

「課題をクリアしたんだね」

「はい、拙者は無駄な魔力が多いと言われてしまったので……」

　カグラの場合、あまりある魔力故の弊害というやつだ。

　なまじ魔力量が多いため、節約する必要がなかった。

　だが、そのせいで練度も低かった。

「嬉しいよ、カグラ……ファイアースネーク（舞い踊る炎蛇）」

　俺の背中から炎の蛇が出て、カグラに襲いかかる！

「むっ！？」

　それを下がることで躱すが……。

「食らいつけ！」

「なっ——！？ 追ってくるのだっ！？」

　中級魔法の割に威力は低いが、俺の魔力が続くか相手に消されるまでは消えない。

「ファイアーウォール（炎の壁）」

　カグラの進行方向に炎の壁を出現させる。

「なんのっ！」

　大剣を振り回して、炎の壁を切り裂く。

　セレナの時も思ったが、これは恐ろしいな。

　本来なら、魔法を切り裂くようなことは難しい。

　俺のように、刀という斬れ味重視の武器ならまだしも……。

　大剣というもので、それをしてしまうとは。

　一点に集中する力、それをブラさないことが必要になる。

「だが……炎の蛇なら」

「これも切り裂けば……！ クッ！？」

　俺は炎の蛇をコントロールし、その攻撃を躱す。

　この技ならカグラに壊されることはない。

　カグラ用に編み出した新しい魔法だ。

　はっきり言って、カグラはチートすぎる。

　試行錯誤を繰り返していかないと……俺でも勝てない。

「その代わり……魔力消費が半端ないけどね」

　コントロールするということは、魔力を送り続けるということだから。

　逃げ続けていたカグラだったが……。

「ならばっ！」

　炎の蛇を避け、勢いよく俺自身に接近してくる！

——それを待っていたっ！

「甘いよ——ファイアウォール」

「セァ！」

　一刀のもとに切り捨てられるが……。

「あっ——」

「豪炎脚！」

　剣を振って無防備な状態のカグラに食らわせる！

　ファイアウォールはあくまでも目くらましに過ぎない。

「カハッ！？」

「ふぅ……さて」

「カグラさん場外により、アレス君の勝利！ 優勝は——アレス君ですっ！」

　なんとか勝てたか……。

　正直言って、俺の魔力は——もうほとんどない。

　カグラは、まだ魔力や体力にも余裕があるだろう。

　だから俺は彼女を追い込むことで、勝負を急ぐように誘導したが……。

　リングという制限がなかったら……負けていたのは俺かもしれない。