61話セレナ対カグラ
お昼休みが終わり、午後の部の開始である。
流石に午後の部になると、下のクラスでも見応えのある試合もある。
しかし、観客席の声は聞こえないはずなのに……。
早くSクラスの試合を見せろという熱気は伝わってくる。
やはり軍のお偉い方や、貴族にとっては重要なのだろう。
いずれ何らかの官職につき、国を背負うかもしれない人材だ。
もしくは……自分の陣営にとって、どういう存在かをな。
そして、Sクラスの試合となる。
「さて、やるとしますか」
軽くストレッチをしてリングに上がる。
「あ、アレス皇子……」
ザガンと同じく、体格の良いエルバが震えている。
プレッシャーか? ……わからん。
なにせ、あまり関わることがないからな。
わかってるのは、侯爵家御用達の大商人の次男坊ということ。
ぱっと見、気弱そうな性格ということくらいだ。
「どうした? 遠慮はいらない。全力でかかってくるといい」
もしかしたら、皇族ということで気を使っているのかもな。
「はっ、はいっ!」
なんというか、この子自体は悪い子には見えないんだよなぁー。
親の意向に沿って行動してるだけなのかも。
「では——始め!」
開始と同時に、エルバが駆け出す。
「へぇ……」
斧を担いでいるのに、意外と素早いな。
「ハッ!」
「威力もあるけど……」
俺は大きく動くことなく、最小限の身体の動きだけで躱す。
「あ、当たらない!」
本当なら、もっと腰に力を入れて振ればいいんたけど。
俺がアドバイスするわけにもいかないし。
仲良くしてるところを見られたら、彼が後で言われてしまう。
「じゃあ、こっちから行くよ?」
剣を構え、一気に距離を詰める。
「うわっ!?」
斧でガードをするが……。
「さて……もう下がれないぞ?」
リングの端まで追いやる。
「ぅ……ウァァ!!」
「破れかぶれの攻撃など!」
身体を半歩ずらし、斧の一撃を避ける。
そして、そのまま押し出す。
「勝負あり! アレス君の勝ちです!」
「おいおい、同じSクラスなのに……」
「なんで、こんなにも差があるの?」
「俺達から見たら、エルバだって強いのに……」
他の生徒達から、そう言った声が聞こえてくる。
俺は聞き流しつつ、リングを降りて歩き出す。
「俺達が彼らより強い理由か……」
いくつかあるが……一番の理由は、彼らは仲間ではないということだな。
あくまでも親の意向に沿っていたり、何となく一緒にいるだけだ。
それでは切磋琢磨できるはずもない。
「俺達は互いを認めつつ切磋琢磨してきた。大事な友達でもあり、負けたくないライバルでもある」
きっとポテンシャルには、そこまでの差はないはず。
ただ過ごしてきた密度が違うだけだ。
共に過ごし、共に戦い、共に稽古する。
その中で、お互いが成長してきた。
「だが、彼らにはそれがなかったのだろう」
そして……セレナとカグラの番となる。
この戦いで勝った方が、俺の決勝戦の相手ということだ。
2人がリングに上がり対峙する。
「お主が相手か……拙者、手加減はせぬぞ?」
「カグラちゃん——手加減したら絶交だからね」
「ぬっ……これは拙者が悪かった。ああ、本気で行こう」
「言っておくけど、負けるつもりはないから—— 色々な意味で」
「それはこちらのセリフだ」
2人から物凄い気合いが伺える。
俺は鈍感ではないのでわかるが……まあ、そういうことなのだろう。
「では——始めっ!」
「ウォターアロー!」
開始直後から、セレナは魔法を放つ。
その説唱スピードは、最早実戦でも通用するレベルに達している。
そして戦略眼も良い……カグラに接近させないつもりだ。
「くっ! ……なんのっ!」
大剣を盾に、それらを弾く。
一対一の時は、大剣一本で行くようだ。
盾を持つ時は、あくまでも俺たちを守るためだと。
「まあ、そうしないと……一人で飛び出しちゃうからって言ってたけどね」
なんというか、カグラらしいというか。
まあ、可愛いところでもあるよな。
「セァ!」
カグラが勢いよく飛び出そうとするが……。
「させないっ! ウインドプレッシャー!」
ロレンスを吹き飛ばした魔法だけど……。
「ヤァァァ——!」
大剣を薙ぐことで、風を相殺する。
「もうっ! ずるいよっ!」
うん、俺もそう思う。
あれはチートってやつだろう。
風魔法を、剣を薙ぐことで生じる風で相殺とか。
「何を言うかっ! セレナのがずるいのだっ! 魔法が使えるからアレス様と話が合って!」
「むぅ……! そんなことないもんっ! カグラちゃんこそ、剣のお話ばっかりずるいもんっ!」
「「ムムム……!」」
……なんか、趣旨が違う。
戦いは高次元なのに。
いや、別に良いんですけどねー。
その後も、近づこうするカグラ。
近づけさせまいとするセレナ。
その二人の攻防が続く。
しかし……これは決まったな。
「ハァ、ハァ、ハァ……魔力が足りないかなぁ……」
「ふぅ……どうしたのだ?」
「先生、降参します」
「なにぃ!? まだやれるだろう!?」
「うん、まだ貯蓄してある分を使えばね。それに大技を出せば、カグラちゃんでも防げないよ」
リングを覆い尽くすほどの魔法を、セレナは一度も使っていない。
それは、カグラに手加減をしているわけではない。
「何故使わない!?」
「カグラちゃんに勝てても、その後のアレス様には勝てないから。この残りの魔力で勝てるほど、アレス様は甘くないから。あと、カグラちゃんに大技を出せる隙があるかは五分五分だもん」
「……ククク……あははっ!」
「……怒ってる?」
「いや、その逆だ。優勝することを意識して、戦略を立てていたと言うことだろう。拙者は、目の前の勝利しか見えていなかった」
「ううん、それはカグラちゃんの長所だよ。真っ直ぐで、かっこよくて、私の憧れの女の子だもん」
「それはこちらのセリフだ。セレナは意外と抜け目なく、思慮深く、常に周りを見ている。拙者も見習わなくてはいけない」
「私は性格が悪いだけだよー」
「そんなことないのだっ! 拙者の親友の悪口を言うのは——本人でも許さん!」
「カグラちゃん……えへへ、ありがとう!」
「セレナさん。審判ではなく、ただの魔法使いとして言います」
「はい、先生」
「その考えはとても大事です。魔法使いとは魔力配分を考えることが最も重要なこと。どんなに強い魔法を覚えようとも、それでカラになっては意味はありません。もちろん、当たらないことも。大事なのは精度と、配分です。会場にいる魔法使いの皆さん! よく覚えておいてください! 魔法使いは戦況を変えることができますが、よく状況を確認した上で使用すること! 良いですね!?」
「「「はいっ!!!」」」
こうしてカグラの勝利となったが……。
最早セレナをバカにしたり、コネだと騒ぐ奴もいないだろう。
何より……見事な戦いだった。
嬉しいものだな……こうして、高め合える友がいるということは。
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