57話オルガ対カグラ

 試合を終えた俺は、仲間達と目が合う。


 その目にはおめでとうという気持ちと……。


 自分達も負けらていられない!という強い意志が感じられた。


 俺は静かに頷き、リングから離れる。


 すると……。


「お、おい!!」


「ん? どうした?」


「なにを勝って当たり前って面してやがる……!」


「そんなつもりはないが……君は、これまで何をしてきたんだ?」


「あぁ!?」


「俺への対抗心を燃やすのは良い。家の意向に従うのも良い。しかし、君はこの数年間何をしていた? 後輩を虐めたり、平民相手に威張ったり……そんなことをしている奴に、俺が負けるわけがない。いや、俺達が負けるわけがない。君ではカグラはおろか、オルガやセレナの相手にもならないよ」


「お、俺が男爵子息や平民ごときに負けるだとっ!?」


「ああ、なんなら賭けても良い。そして、これからの試合を見ていると良い。俺の言っていることが、嘘かどうかをな……」


「くっ……! クソォォ——!!」


「その悔しさをバネにしなかったのが君の敗因だよ」




 俺はその場を離れて、少し深呼吸をする。


「少し大人気なかったかな……でも、もうそろそろ子供だからと済ませられることじゃない」


 ここで改心しないようなら……もう無理だろうな。


 


 そしてエルバとアスナが戦い、エルバが勝ち上がる。


俺の相手はエルバか……油断さえしないれば負けることはない。


 次は……オルガとカグラの戦いである。


「ふむ、オルガが相手か」


「カグラさん、手加減はなしですからね?」


「そんなことはしない——拙者は、アレス様を超えなくてはいけないのだ」


「僕も負けられませんよ? アレス様に認めて頂かなくてはいけないので」


 二人とも、それぞれ獲物を構えて対峙する。


「では……始め!」


 二人とも全身に魔力で薄い膜を作る。

 うん、二人ともバランスが良い。

 どこかに一点に集中するのは、攻撃の最後の瞬間だけでいい。


「ハァ!」


「セィ!」


 リング内を駆けて、二人が激突する。


 かたや大剣を振り回し、かたや槍で応戦する形だな。


「相変わらず上手いのだっ!」


 カグラが怒涛の攻撃をするが、オルガは最小限の動きでいなす。


「相変わらず重たいですねっ!」


「お、重たいとか言うなっ!」


「も、申し訳ない!」


 カグラの攻撃を、オルガは華麗な槍さばきでいなしていく。

 さらには、カグラが大技に移る瞬間を狙い……そこを突く形だ。

 ときに下がり、ときに攻める……確立したオルガの戦闘スタイルだな。



 カグラは相手が倒れるまで、ひたすらに攻める戦闘スタイルだ。

 あまりある魔力と、それを扱うことができる強靭な身体。

 はっきり言って、カグラ以外には無理だろう。



 そうなると……こうなるよな。


「ハァ、ハァ、ハァ」


「ふぅ……はぁ……」


 戦いは長引き、双方疲れが見えてくる。


「せ、攻めきれないとは……やるのだ」


「受けるのが精一杯ですね……流石です」


「ウォォォ!」


「すげーよっ!」


「先生より強いんじゃねえ!?」


「オルガ君ー! カッコいいー!」


「カグラお姉様ー! 負けないでー!」


 うん、二人は人気者だなぁ。


 カグラは後輩女子から圧倒的な支持を得ている。

 その男前な性格と、侯爵家出身ながら、他者を見下さない姿勢から。

 最初は馬鹿にされたり、避けられていたが……今では、この様子である。


 オルガは単純にモテる……うん、モテる。

 紳士的な態度に、甘いマスクの持ち主。

 男爵だが、由緒ある家の者だ。

 年上受けもよく、上位貴族から婿にと誘われることもある。

 本人には、その気は無いけどね。


 ……ちなみに、俺は人気がない。

 いや、別に良いんですけどね。



 そして一進一退の攻防が続き……決着の時が来たようだ。


「攻撃から攻撃へと……アレス様のようにはいかなくても……」


「クッ!? 流れが止まらないっ!」


 カグラは大剣を振り回すのではなく、

 ギリギリで制御しつつも、流れるように……そう、俺のように。


「……今なのだっ!」


 嵐のような攻撃にオルガの魔力に乱れが生じる——その隙は致命的だ。


「かはっ!?」


 槍ごと叩き折り、大剣がオルガに叩き込まれる!


 俺は前もって準備をしていたので、場外に飛ばされるオルガを受け止める。


「おっと……」


 思ったより、ダメージがない。

 おそらく、食らう直前に下がったのだろう。

 ……いやはや、その冷静な判断には恐れ入るな。


「オルガッ!? 平気なのだっ!?」


「今、治療しますねっ!」


「カグラさん……強いですね、貴女は。羨ましいほどに……真っ直ぐで」


「お主だって強かったぞ? 拙者、アレス様以外に苦戦するとは思わなんだ。いくらオルガと言えどもな……これでも、追いつかれないように必死なのだ。だが——アレス様の右腕の座を譲るつもりはないのだっ!」


「カグラさん……ならば、左腕として負けてられないですね……!」


「えへへ、二人とも凄かったですねっ!ちなみに、わたしはアレス様の後ろを守りますっ! ……これで良しっと、大した傷ではないですね。オルガくん、立てますか?」


「セレナさん、ありがとうございます。ええ、平気……くっ」


「おっと……俺があっちに連れて行くよ」





 オルガに肩を貸し、端の方に座らせる。


「あ、アレス様……情けないところを……」


「何を言うんだい? あれだけの戦いを出来る者がどれだけいる? 見事な守りと攻めだった……が、最後に気を抜いたね?」


「え、ええ……まだまだ精進が足りないようです。やはり、まだ僕には資格が……」


 オルガは暗い顔をしている……。


「資格ってなんだい?」


「……カエラさんのことです。気持ちはお伝えしましたが、最近は会いにも行っておりません。以前言ったように、エリカ様のこともありますが……僕は、貴方に認めてもらうまでは……貴方の大事な方であるカエラさんに求婚する資格が……」


 そうか……そんなことを思っていたのか。

 いや、これは俺が悪かったな。

 オルガの真面目な性格を考えれば、それくらいのことはするだろうに。


「言っておくけど……俺は、とっくにオルガのことを認めているからね?」


「えっ?」


「つまり……いつでもカエラに求婚してもいいから。もちろんカエラの気持ち次第だし、実際には婚約者ということになるね。俺個人としては、カエラのことを任せられるのは君しか居ないから。俺の仲間であり、親友だと思っている君なら……俺の姉さんを任せられる」


 血の繋がりはなくとも、カエラは俺の家族だ。

 大事なのは血の繋がりではなく、過ごした時間だと言うことを俺はよく知っている。


「アレス様……しかし、僕は一番弱い……!」


 仲間内での模擬戦では、確かにオルガはほぼ負けている。

 カグラしかり俺しかり、セレナにも……。

 セレナの魔法はすでに宮廷魔術師としてやっていけるほどだ。

 近接だけのオルガでは勝ち目はない。


「弱いなら強くなればいい」


「しかし……これ以上どうすれば……」


「カイゼルには、俺から頼んである。カイゼルは槍に勝つための剣技を極めた。つまりは、槍の弱点を知り尽くしている」


「し、しかし……あの方は誰が頼んでも教えないことで有名で……」


「ああ、知っている。実は……以前から頼んではいたんだ」


「えっ!?」


 俺は前々からカイゼルに頼んでいた。

 オルガが大事な仲間であると同時に、きっと俺達家族の力になってくれる人材だからと。

 カイゼルの後継者となる器だと……。


「俺が認めることが大前提で、あとは自分の目で確かめるってさ。ほら、あっちを見てごらん?」


 俺は視線を誘導させて、カイゼルがいる観客席をオルガに見せる。


「あっ——うっ……」


 そこには腕を組んで『良いだろう』と顔に書いてあるカイゼルがいた。


「さて、オルガ……どうする?」


「や、やりますっ! 必ずや強くなっで……貴方の力になりますっ!」


 涙を拭き、オルガは力強く宣言するのだった。



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