58話セレナの実力

 そして、最後はセレナの番である。


 相手は同じ魔法使いのロレンソだ。


 土属性の使い手で、今では中級クラスまで扱えるらしい。


 セレナと同じく、宮廷魔法士の試験に受かっている。


 さて……どうなるかな。




 セレナとロレンソがリングに上がる。


「ロレンソ君、よろしくねっ!」


「平民風情が! 様をつけろ!」


「なんで? 学校では関係ないはずだよ? アレス様のような王族なら話は別だけど」


「くっ!?」


 出会った頃とは違い、セレナの言葉には力がある。

 別に相手を馬鹿してるわけでもなく、ただ淡々と言葉を発している。

 いやはや、強くなったよ。


「それに、これからは同僚になるんだしね」


「そ、それだっ! どんな手を使った!? お前が主席などあり得ない!」


「どうして? わたし、すっごい努力したよ?」


 そう……セレナの努力は、俺が一番知っている。

 魔力が切れるまで俺と撃ち合いをし、二人で座禅を組んで精神統一して……。

 魔法使いなのに、それだけでは足手まといだからと弓の稽古まで……。


「特に……アレには、一番驚いたな」


 あれは確か……弓の稽古を本格的に始めた時だったか?


 俺の頭の中に、当時の映像が流れてくる……。




「アレス様は、剣と魔法を極めるんですよね?」


「うん? ……まあ、無理って言われてるけどね」


「わたしは思いませんっ! だって、あんなに稽古してるもんっ!」


「ありがとう、セレナ」


「え、えっと……わたしも、魔法だけじゃなくて弓も極めようと思うんですっ!」


「いや、それは……うん、応援する」


 無理かと言おうかと思ったが、自分が言われたら嬉しくない。

 ここは、背中を押してあげたほうが良い。

 何故なら、俺がそうされたいからだ。


「えへへー、アレス様ならそう言ってくれると思ってましたっ!」


「まあ、人のことは言えないからね。俺も二属性の魔法と剣だし」


 セレナは風と水、そしていざという時の弓ということなのだろう。

 いくら優秀とはいえ、魔力が無限というわけではない。

 無くなった時に、戦える手段を残しておかないといけない。


「それで、アレス様に見て欲しいんですけど……良いですか?」


「うん? それはいいけど……どうしてだい?」


「えっと……先生から、構えとかは自分では見れないからって」


 なんでかわからないが、セレナはモジモジしている。


「なるほど、俺が側から見てアドバイスをすればいいんだね?」


「は、はいっ! み、見てもらえますか……?」


「ああ、もちろんだよ。俺でよければいつでも……でも、専門家じゃないよ?」


「良いんですっ! アレス様が見てくれたら頑張れるんですっ!」


「そ、そうか」


 俺はその日から弓の稽古に付き合うことになった。


「セレナ、背筋が曲がってる」


「ひゃん!?」


「あっ——すまない!」


「い、いえっ! 少しくすぐったいだけなので……えっと、こうですか?」


「どれどれ……うん、良いね。それでやってみよう」


「……えいっ!」


 真っ直ぐに飛んでいき、見事に的に命中する!


「おおっ! 上手いな!」


 あの襲撃の日から、頑張っていた甲斐があるな。


「えへへ〜褒められちゃった……」


 気が乗ったのか、そのまま矢を射り続けるが……。


「イタっ!?」


「少し休憩したらどうだ?」


 手から血が滲んでいる……。


「で、でも……アレス様はずっと前から素振りをしているのに」


「人それぞれペースがあるさ」


「で、でも……あっ——そうだ、簡単なことだよ。我が手を癒したまえ、ヒール」


 自らの手を癒して、再び矢を射る。


「セレナ……」


 俺はそれを見て……感動した。

 手から血が出るほどの鍛錬をしたことではなく。

 手から血が出ても尚、続けようとする精神力に。

 それが、たった十歳の女の子ということが。




「そうだ……セレナは努力をしてきた」


 俺の意識は再び、リング内に移る。


「何が努力だ!? どうせアレス皇子に取り入ったんだろ? 平民はこれだから……」


「むぅ……そんなことしてないもんっ!」


「はいっ!そこまでですっ! あとは試合で見せなさい!」


 先生がそう言うと、2人はそれぞれ構える。


 ロレンソは杖を、セレナは弓を。

 魔法とはイメージだ。

 などで、普通は杖を使う。

 だが、俺は前世での記憶があるので、イメージしやすい。

 だが……セレナはそうではない。


「ゆ、弓……馬鹿にするのも大概に……!」


「これが、わたしの戦闘スタイルだもん」


「では——はじめ!」


「なら食らうが良い! ロックランス!」


「ウォーターアロー!」


 矢の代わりに水の矢を作り、それを放つ。

 そうすることによって矢もいらないし、魔力も最小限に抑えることができる。

 ただの魔法使いにはならないという、セレナなりの戦闘スタイルなのだろう。


「はっ! 水魔法ごときで……なにぃ!?」


 普通なら水魔法の方が負ける。

 何故なら、攻撃系では最弱と言われているからだ。

 ただし……圧倒的に、魔力精度に差があれば話は別だ。


「続けていくよっ!」


 さらに、魔法で撃つ利点はこれだ。

 矢が必要ないので、指先に魔法を込めるだけで連射が可能だ。


「ま、間に合わない! アースガード!」


 土の壁が出現し、水の矢を防ぐが……。


「流石に無理かな……じゃあ、これでっ!」


 指先の色が青から緑に変化していく。


「なっ!? ば、バカな……」


 二属性を扱う魔法使いは珍しい。

 さらには、使えても……切り替えがすぐにできる人はさらに少ない。

 俺も火属性から闇属性に移行するのには、まだまだ時間がかかる。

 なんといえばいいか……身体に流す魔力の種類が違うとでも言えばいいのか。

 だが、セレナはそれが可能な域まで達している。

 高い才能にあぐらをかかずに、倒れるまで特訓した成果の表れだ。


「ウインドアロー!」


「かはっ!?」


 土の壁を貫き、ロレンソに突き刺さる。


「これで決めますっ! ウインドプレッシャー風の圧力!」


 緑色の魔力の波がロレンソに迫る。


「あっ——ア、アースニードル!」


 咄嗟に中級魔法を使ったのは褒めてもいいが……。


 地面から土の針が突き出し、セレナに向かう。


「まあ、そうなるわな」


 セレナの魔法は、その土の針を削りながら前進する。


「く、くるなぁー!?」


 たまらず、ロレンソは場外へ逃げ出す。


「あれ!? ……風よっ!」


 驚いた……魔法をキャンセルした。

 あれは、よほど制御出来ていないと無理だ。

 俺も練習しているが……まだ完璧ではない。


「勝負あり! ロレンソ君場外により、セレナさんの勝ちですっ!」


 まいったな……俺も負けていられないね。








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