53話あっという間に時間が経ち……

 それからの日々はあっという間に過ぎていく。


 日々の生活や、皆との時間……今までとは違い、とても早く感じる。


 この感覚には覚えがある。


 中学や高校の最終学年を思い出す。


 あの頃も思ったが、卒業が近づくと……。


 どうして、こんなにも時が経つのが早いのだろうか?




「アレス様っ!」


「セレナ、おはよう」


「おはようございます!」


「ご機嫌だね?」


「えへへ〜、わかります?」


「そりゃ、そんだけ笑顔ならね」


「実は……合格が決まりましたっ!」


「え……? あれ? 試験の合格発表はまだじゃ?」


 今日の午後って聞いてたけど。


「実は……トップの成績だったので、表彰されることになりましたっ! 通知自体は、一昨日来たんです!」


 なるほど、だから事前通知が行ったのか。


「でも、それって言って良いのかい?」


「はいっ! 許可は得ていますっ! アレス様に一番に伝えたくてっ!」


「そうだね、まずはこれだったね。おめでとう、セレナ。よく頑張ったな。君の頑張りを見ていた者として嬉しく思う」


 俺が頭を撫でてあげると……。


「あ、あれ……? う、嬉しいのに……アレス様の隣に立つために、強くなるって決めたのに……ふぇ〜ん!」


 まるで子供みたいに涙が溢れてくる。


「それだけ頑張ったってことだろ。良いんだよ、そういう時は泣いても」


 俺は優しく抱きしめる。

 自分でも驚いたが、ごくごく自然に……。

 やっぱり、ヒルダ姉さん吹っ切ったからから?

 もしくは、ある程度の覚悟を決めたからか。


「グスッ…アレス様ぁ……」


「はいはい、良い子だ。ほら、尚更のこと鍛錬しないと。あとでカグラ達にも知らせないとね」


「はいっ!」


 その後鍛錬をした後、カグラ達もやってくる。


「おめでとうなのだっ!」


「おめでとうございます」


「二人共ありがとう!」


「さて……これで、全員の進路が決まったね」


 後は卒業試験を受けるだけとなる。


「なんか、あっという間に過ぎてしまったのだ……」


「ついこの間、もうすぐ卒業だねとか言ってたのに……」


「そうですよね……もうすぐお別れですから」


 ……いかん、みんなが暗くなっている。

 俺もみんなと同じ気持ちだが……。

 ここは、経験がある俺が何とかしなくては。


「確かに、それぞれに立場は違う。これからは、会うことも減っていくだろう」


 みんなの視線が集まる。


「でも、ここで過ごした時間の分だけ絆が生まれた。俺はみんなのことが大好きで大事だ」


 前世では照れ臭くて言えないけど、今世なら言える。

 何故なら、言おうと思った時言えるとは限らないからだ。

 俺は、それを誰よりも知っている。


「拙者も!」


「私もですっ!」


「僕もですっ!」


「なら、大丈夫さ。離れていても、その気持ちさえ忘れなければ。だから、前を向いていこう。月並みの言葉だけどさ……また、きっと会えるから」


「「「はいっ!!!」」」


 そう……この時代を共に過ごした人というのは一生の宝物だ。

 その時は気づかないが、後になって気づく。

 そして気づいた時には、もう手遅れのことが多い。

 だから、今の時間を大切に過ごそうと思う。



「結衣……」


 すまない、結衣。


 もっと、お前に向き合うべきだったな。


 今更ながらに思う。


 ヒルダ姉さんの時と一緒だと思った。


 俺は、多分……君が好きだったんだ。


 でも、血の繋がりや年の差を言い訳にしてごまかしていたんだ。


 綺麗になっていく君を見て、俺はそれを無意識のうちに封印した。


 俺は、未成年に手を出すなんて考えられないし。


 ただ……それと君の気持ちに向き合わなかったのは違う。


 きちんと話せば良かったんだ。


 お互いが納得いくまで。


 もう会えないけど……同じ過ちは繰りかえさない。


 今まで以上に自分の気持ちや、相手の気持ちと向き合っていこうと思う。


 結衣……君が前を向いて生きることを願っている……。





 —————————————————



 ~結衣の夢~


 また、あの夢を見た……。


 でも、不思議。


 何で、あんなに大きくなっているのかな?


「いや、夢の内容に突っ込んでも仕方ないよね」


 私は今、日記を書いています。


 あの少年の目を通した世界を記しています。


「何だが、そうしなきゃっていう使命感みたいのが湧いたんだよね」


 今では無料の小説投稿サイトとかあるし。

 もしかしたら、そこに投稿とかしちゃおうかな?

 なんか、生きた証のような気がするんだよね。


「いやいや、妄想だから……でも、そうとは思えないんだよね」


 アレスと名乗る少年は、優しくかっこよく家族想いの子。

 誰かのために一生懸命で、自分を顧みない子。


「まるで和馬さんみたい……」


 もちろん、見た目は和馬さんのがタイプだけど。

 アレス君は少しイケメンすぎるわね。

 もう少し肉をつけて、がっしりしないと。

 それで、あの可愛い女の子達を守らなきゃ。


「私は、あの和馬さんの男らしい顔が好きだった……」


 大きな手足、大きな身体。

 イケメンではないけど、不思議とかっこよく見える顔。

 きっと、自分というものを持っているからだと思う。


「そういう確固たるものが、表情や仕草に出ていたんだと思うなぁ」


 私は、あれから成長できたかな?

 自分というものを持ててるかな?


「一応、和馬さんに叱られないように勉強はしてるけど……」


 この間も学年トップだったし。


「来年には三年生になるし……」


 将来はどうしようかな?


「和馬さんが、私を助けて良かったと思ってもらいたい」


 和馬さんが、そんなことを望んでいないことはわかってるけど。


「お医者さんかな? それとも教師かな? はたまた弁護士とか?」


 理系も文系も得意なので、進路にも迷います。


「何がやりたいのかなぁ……私って」


 お父さんもお母さんも、焦らなくて良いっていうけど。

 とりあえず大学に入ってから決める人も多いからって。


「でも、なんだが……私、焦ってる」


 理由はわからないけど、時間がない気がする。


「プレッシャー? いや、違う」


 自慢じゃないけど本番には強いし、もう怖いものなんてない。

 和馬さんを失うこと以上のことなんかないから……。


「あれ以降、あの真っ白い空間の夢は見ないけど……」


 ずっと、呼ばれてる気がする?


「こんなこと、誰にも相談できない……」


 ……今度、和馬さんに聞いてもらおうかな?


 よし! お墓掃除して、その後に聞いてもらおうっと!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る