50話父上との話し合い
学校を終えた俺は、真っ直ぐに皇城へ向かう。
ここでも、変化がある。
「お疲れ様です!」
「お通りください!」
「うん、ありがとう。みんなもご苦労様」
素通りで門をくぐり、皇城内に入ると……。
「アレス様!」
「お疲れ様です」
「皇帝陛下なら私室にいらっしゃいます!」
身分の低い貴族や騎士達が、次々と俺に話しかけてくる。
以前より父上に進言したことが、身を結んできたのだろう。
貴族制度はいい面もあるので、そこまでは言っていないが……。
きちんと仕事をした人には評価をするという当たり前のことを進言した。
これにより、いくら働いても昇格しないと嘆いていた彼らのやる気を起こさせた。
そして、それまでぬるま湯に浸かっていた上位貴族は焦ることになる。
「ただ……そのさじ加減が難しいよなぁー。締め付け過ぎても反発を食らうし、下の方達もそれで増長したら元も子もない」
その辺は、父上の手腕が問われるところだな。
もちろん進言した本人として、出来る限りのことは協力している。
それに本当に最低限のことしか伝えてはいない。
前世の知識は……伝えることはないだろう。
「俺には世界を革命するような勇気はない……」
きっと、もっと若かったりしたら……そういう選択もあったかもしれないけどな。
父上の部屋の前には、ゼノが直立不動の姿勢でいる。
「これは、アレス様。また、成長されましたね?」
「やあ、ゼノ。そんなにすぐには……いや、そうでもないか」
今の俺なら、二週間もあれば背も伸びるか。
「ええ。徐々にですが、目線の高さが違ってきましたよ」
「成長痛が酷くてね……父上は?」
「ええ、どうぞお入りください」
扉が開き、俺は部屋に入室する。
そして、扉が閉まるのを確認してから声を発する。
「父上、お疲れ様です」
「ああ、お前もな」
「お忙しいでしょうから、さっさと本題に入りましょう。俺の扱いはどうします?」
「息子が成長して寂しいやら嬉しいやら……」
「何を言うかと思えば……すっかりエリカに夢中ではありませんか」
「なんだ? 嫉妬か? 当たり前だが、エリカと同様に愛しているから安心しろ」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
「クク……さて、時間がないのも事実だ。お前としてはどうしたい? 国の中に入り、そこで地位を確立するか? それとも地方に行き、独自のルートを築くか?」
「あまり国の中に入ることは好ましくないですね。最近では、ただでさえ反感を買ってますし」
上位貴族や大臣達、第一皇子や第二皇子からな。
「うむ……それに、アレもあるか」
「ええ、神託かわかりませんが……」
例の声はあれ以来聞こえないし、クロスも反応はない。
だが、そろそろのはず……俺は十二歳になったし。
「あと一年か二年か……それとも明日か。魔物の出現率も増えてきている。それに伴い、民の不安も増してきている。皆、女神に祈りを捧げるほどに。それに教会に寄付したり、信仰を捧げたりな……我々が不甲斐ない所為でもある」
この世界において、女神は絶対的な存在だ。
つまり、教会もそうだということでもある。
だが……俺は、これがどうも怪しいと思っている。
あの声は、偽りの理を破壊せよと言っていた……関係があるのか?
「それは仕方ないのないことかと。出現する場所も正確には読めませんし、実際に教会の人間は浄化魔法を行使できますから」
聖女のみが使えるという光魔法だが、その下位互換の魔法はある。
聖女の血を引いている人たちによる部隊、聖マリアン十字軍というらしい。
そいつらは多額の寄付や接待を受け、大陸中の瘴気を浄化している。
「ああ、あいつらか……クソみたいな集団だったがな」
「ええ、特権階級に染まってるらしいてすね。もしくは、洗脳に近いかと思いますが……父上、俺はグロリア王国に行こうかと思います」
「他国へか……」
「ええ、俺が国内にいると色々気になる方々がいますし。正直言って、認められることは嬉しいのですが……担ぎ上げられるのも困りますし」
一部では、俺を皇位にという声も出てきているらしい。
聖痕がない俺がつけば……内戦になる可能性がある。
大切な人達のために、ある程度の力を示すとは考えていたが……。
それだけは避けなくてはならない。
「一度国を出て、それぞれの熱を下げるか……うむ、悪くはない考えだ。ただ、エリナを説得するのは大変だぞ?それにエリカも」
「それなんですよねー。というか、俺だって嫌ですし。ただ、そんなに長居するつもりはありません。半年くらいで帰ってきて、色々考えたいと思います」
流石に闇魔法やクロスのことがあるから、聖マリアンヌに行くわけにはいかないし。
「他国を見て回ることは、この先のお前にとっても無駄にはならないか……」
「ええ。何が起きるかはわかりませんが、経験を積むことは良いかと」
「わかった。では、大使館に在住する方針で打診しておこう。毎年、交換留学はあるから許可が下りないということもあるまい」
「ありがとうございます。卒業したら半年ほど研鑽を積み、それから半年在住が良いですね」
「そうだな、いきなり出て行ったら……俺も含めて泣いてしまうな。その間に思い出を作って、その後ということか」
「ええ、そんな感じかと。オルガやカグラの地元を訪ねたり、セレナの様子を見たり……そういえば、婚約の件はどうなってます?」
「あちらから打診があったぞ。正式に決定してもよろしいかと……どうする?」
カグラと婚約ってことは、奥さんになるってことだよな……。
ずっと好意を寄せられてることはわかっていたが……。
俺はきちんとカグラを愛せるだろうか?
結衣のことや、ヒルダ姉さんを忘れられない俺に……。
そんな俺に資格があるのか? 大切なカグラを幸せにできるのか?
それに、セレナのこともある。
「少し時間をもらっても良いですか? 本気で考えてみて、それを伝えようと思います」
「うむ……お前は特殊な存在だからな。わかった、そのように伝えておく」
「お願いします。今日カグラが家に来ているので、少し話し合ってきます」
「ああ、そうするといい。ただ、アレス……」
「はい?」
「あんまり考えすぎるなよ? お前の悪い癖だからな。お前は、もっと気楽で良い。それくらいがちょうどいいさ」
「……心に留めておきます。では、失礼します」
俺は皇城を出て、家路を急ぐのだった。
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