49話それぞれの成長

 午前中の自習を終え、午後は鍛錬の時間に当てる。


 もちろん、先生の監視付きである。


 そうじゃないと、ザガン達が絡んでくるかもだし。


 俺としては鍛錬くらいならしても良いが……中々そうもいかないな。




「さて、カグラからやろうか?」


 模擬剣をお互いに構えて対峙する。


「ええっ! お願いいたしますっ!」


 魔力により身体強化されたカグラが、一瞬で間合いを詰める。

 そして、そのまま上段から剣を振り下ろす。

 俺は慌てずに、身体を半歩ずらすことにより躱す。


「むぅ……相変わらず、避けるのが上手いのだ」


「まあね、模擬剣とはいえ、君のそれを食らいたくはないし」


 カグラが剣を振り下ろした場所は、マンホールほどの大きさの穴があいていた。

 カグラの身体強化は日に日に増していき、今ではこの有様だ。

 現役ではないとはいえ、カイゼルが力だけなら自分並みだと言っていたから相当だろう。


「ですが……拙者とて、そればかりではないのですっ!」


 再び間合いを詰めて来るが……。

 大振りではなく、連続して剣を繰り出して来る……それもで。

 模擬剣とはいえ、もう大人用のサイズを使っている。

 カグラが、いかに力があるのかわかるというものだ。


「良いねっ! でもっ!」


 剣を滑らせるようにして、その剣を受け流す。


「クッ! 拙者のがパワーはあるのに……!」


「それを手放したらどうかな?」


「いえっ! これは拙者の目指すべき場所に到達するために必要なのですっ!」


 カグラの左手にはがある。

 俺たちを守ることを意識して、このスタイルを目指すようだ。

 女性に守られるのはどうかと思ったが、それこそがカグラに失礼だと思い直した。


「なら——受けてみると良い」


 拳に炎を纏い、盾に殴りつける。


「っ——!! ふふ……楽しいのだっ!」


 俺の攻撃を食らっても、微動だにしない。

 カイゼルでも、まともに食らえば下がるのに……。

 いやはや、大したもんだよ。


「楽しいけど……この辺にしておこうか。本気になったらお互いに怪我では済まないからね」


「では、僕の番ですね?」


「ああ、オルガ。よろしくね……君にカエラを任せられるかな?」


「では、証明してみせましょう」


「セレナ! 拙者達も鍛錬するのだっ! 魔法を撃ってくれ!」


「うんっ! 遠慮しないからね!」


「そんなことしたら怒るのだ!」


 二人はそんな言い合いをして離れていく。

 すっかり遠慮もなくなり、本当に仲良くなったものだ。

 ……まあ、同時に迫られる俺としては複雑だけど。



「では——まいります」


「ああ——来ると良いよ」


 連続した突きが繰り出される。

 その一つ一つの突きは、洗練された突きだ。

 芯がブレることなく、まっすぐに俺へと向けられている。

 しかも……引きが速く、俺が攻撃に移れないほどだ。


「まいったなぁ……隙がないね」


 負けないことを意識したオルガの戦法は、本人の性格もありハマったようだ。

 時間はかかるが、普通の敵は焦って攻撃するだろうし。

 そこを狙っていく戦い方で、地味だけど生真面目なオルガにはもってこいだろう。


「どうします? ザガン君の時のように掴みますか?」


「いやいや、こうも速いと難しいかな」


 ザガンはパワータイプだったからそれを利用したけど、オルガはスピードタイプだし。


「では、降参しますか? アレス様の本領は魔法剣なので、気になさらないでください」


「ほう? 言うようになったね、オルガ。でも——まだ甘い」


 オルガが槍を引いた瞬間に、俺は抜刀の姿勢をとった。

 そして、次に槍が来る瞬間——槍の穂先を狙い、剣を繰り出す。


「なっ——!?」


「とった」


 槍を弾かれたオルガが尻もちをつく。

 そして素早く移動し、剣を突きつける。


「ま、まいりました……」


「いや、オルガも本気ではなかったしね」


「いえ、今できる本気でしたよ。やはり、僕は精進が足りないようです」


 オルガの目は、落ち着いた言葉とは違い……ギラギラしている。

 オルガの良いところは、相手の才能や強さを認めつつも、自分を見失わないことだな。

 はっきり言って、才能は俺やカグラに劣るだろう。

 だが、それがイコール弱いということではない。

 絶え間ない努力により、俺たちが抜かれることもあるだろう。



 そして、午後の授業も終わり放課後となる。


「アレス様は、今日はどちらへ行くのだ?」


「皇城に行くことになるな。父上が話があると」


「わぁ〜いよいよですかね?」


「どうだろうね」


「では、僕がセレナさんを送っていきますね」


「ああ、頼んだよ。カグラは?」


「そ、その……エリナ様にお呼ばれしてて……」


「ん?そうなのか? まあ、良いや。じゃあ、帰ったらいるのかな?」


「良いですか……?」


「ああ、もちろんだ。ゆっくりしていくと良い」


「はいっ!」


「ふふ、今度はカグラちゃんの番だね」


 どうやら、二人の中では協定?というものがあるらしい。


 朝の稽古や帰りの時間はセレナと一緒。

 基本的には、その時間にはカグラは現れない。

 そして放課後や貴族の行事にはカグラが一緒。

 こちらには、基本的にセレナは来ない。

 そして、ごくたまに一緒になるという流れらしい。


 ……ちなみに、そこに俺の意見などない。


 いや、良いんですけどねー。

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