47話過去を振り返る
確か十歳の誕生日に、両親とカエラを集めたんだったよな……。
名目は、家族旅行ということにして。
場所は、ブリューナグ家の一角を借りたんだったっけ。
そして別室にて、エリカはカイゼルに任せておいたんだったな。
カイゼルは聞く必要はないって言ってたな……何があろうと私の忠義は揺らがないと。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう」
皆が黙る中、父上が代表で問いかける。
「して、アレス……話とはなんだ? 色々と大変だったのだが」
「父上、まずは手配をありがとうございます。そして、理由を聞かずに貸してくださったクロイス殿も」
「いえ、お安い御用です」
「しかし……聞かないでいいのですか?」
場所を借りる手前、この方にも伝えようかと思っていたのだが……。
「はい、私はアレス様を信じると決めましたから。何より、我が娘が見込んだ男ですから」
「ち、父上!」
「おや、違うのか? 昨夜も、アレス様には事情があるけど、だけどアレス様は良い方でとか……よくわからないが、お前が必死なのは伝わってきた」
「カグラ……ありがとう、君の気持ちはとても嬉しい」
「あぅぅ……」
「それに、秘密とは知っている人数が少ない方がよろしいかと。娘が知っているなら、私が知っている必要はないでしょう。それに、私自身が見張りをする必要もございます」
カイゼルも同じことようなことを言っていたな。
「見張りは要りませんが……わかりました」
「ふむ?……それでは失礼いたします」
そして、唯一の扉が閉まる。
「皆、まずは俺の近くに集まってください」
言われた通りに、皆が俺を中心になって集まる。
「で、アレス」
「父上、まずはこれをご覧頂きたいと思います……
一瞬だけ、部屋一帯を闇が包み込む。
新しく覚えた魔法で、外部から音を遮断する。
ただし範囲が狭く、今の俺では半径一メートルくらいが限界だ。
「こ、これは……闇魔法!?」
「ええ、俺は闇の眷属が使用する闇魔法を使えます。さらには、俺には前世の記憶があり……」
前世のこと、ドラゴンのことを伝える。
「そうか……お前が抱えていたのはこれか」
「やはり、そうだったのね……賢いとは思っていたけど」
「ええ、エリナ様。色々な疑問が解けましたね」
「さすがに、二人は気づいていたよね」
そして、おそらくカイゼルも……。
一緒に暮らしている以上、ある程度バレていると予想はしていたが……。
「ええ……ですが、カエラとカイゼルに言いました。アレスが言うまで、私たちから何かを言うことはやめましょうと」
「母上……」
「私達はアレスを信じるわ。だって、貴方が好きだもの。それに、とっても優しい子だってことを知っているわ。悪と言われる闇魔法や、ドラゴンこと……それ相応の理由があるのでしょう?」
「ええ、実はとある夢を見まして……」
夢で見た内容を伝える。
「神託か……選ばれし者……理を破壊……ふむ」
「俺にも詳しいことはわかりません。ただ結界が揺らいでいること、まだ女神の封印が解けるには早いことと関係があるのかもしれません」
「なるほど……いや、驚きはしたが……覚悟はしていたからな」
「そうなのですか?」
「おいおい、あんまり父親を舐めるなよ? あのターレスと論説を繰り広げていたんだぞ?」
「あっ——そうでしたね」
あの時は無我夢中だったしなぁ……。
「それで、我々はどうすればいい?」
「え? ……な、何もないのですか? 前世のこととか、黙っていたこととか……」
「なんだ、聞いてほしいのか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「見たところ、お前の友達たちは知っているようだな?」
三人が気まずそうに頷いている。
おそらく、両親より先に知ったからだろう。
あと単純に……一応、皇帝陛下だしね。
「ええ、訳あって前もって知らせております」
「何か否定的なことを言われたか?」
「……いえ、皆が優しく受け入れてくれました」
「ならば、俺達も同じだ。なっ、エリナ達よ」
母上とカエラが頷いている。
「あっ——あれ?」
涙が……。
「不安だったな、アレス。安心して良い。これからは、我々も一緒だ」
父上と母上が、俺を優しく抱きしめる……。
「お、俺は父上と母上の子でいいのですか? 」
「当たり前だろ——怒るぞ?」
「そうよ、私がお腹を痛めて産んだ子よ?」
「うぅ……グスッ。あ、ありがとうございます……」
「礼などいらん。父親が息子を信じずに、誰が信じるというのだ」
「ええ、ラグナの言う通りよ。私達がアレスを信じてあげなくてどうするのよ」
「で、ですが、前世と合わせると二人よりも歳上ですよ?」
「知るか、そんなもん」
「知らないわ、そんなこと」
「ハハ……俺、二人の子供で良かったです。今、心から思います」
「それはこちらのセリフだ」
「ええ、そうよ。ありがとう、アレス」
父さん、母さん、叔父さん、叔母さん……俺は幸せ者だよ。
生まれ変わっても、こんなに愛してくれる人がいるのだから……。
「で、話を戻すが……」
「特に何もすることはないかと思います。まだ、わからないことだらけですからね」
「そうか……とりあえず、何かが起きる覚悟をしておけば良いということか」
「ええ、それで問題ないかと」
「私達も、覚悟を決めておきましょう」
「ええ、エレナ様」
俺は、そこで初めて……視線を向ける。
ずっと居心地が悪そうにしている、ヒルダ姉さんに……。
「ヒルダ姉さん」
「……私が聞いて良かったの? 私はターレスお爺様の孫で、第一王妃の娘なのよ?」
「ええ、姉上には隠し事をしたくありませんでしたから。もし、姉上から漏れたとしても……俺が後悔することはないでしょう」
「アレス……実は、私はフランベルク家の者と婚約することになったわ。だから、弟とはいえ貴方と会うことは難しくなるわね」
「ヒルダ姉さん……」
ついに来たか……姉上は十四歳になる。
むしろ、この世界では遅いくらいだ。
王家との結びつきを強めるために、フランベルク家に嫁ぐのだろうな……。
「でも……ずっと貴方の味方でいるわ!」
「え?」
「そして貴方が困った時——私が何とかしてあげる!」
「えっと……ですが、相手が良い顔をしないのでは?」
「関係ないわっ! 私自身が力をつけて、いざという時に貴方を守ってあげるわ!」
「そうですか……中々会えなくなりますね——寂しいです」
「わ、私もよ……でも、私にはこれくらいしか返せるものがないわ……」
「俺は何もいらないと言っても?」
「私の矜持が許さないわ」
「気が強い方だ……でも、そんなところが好きでしたね」
「何よ、嬉しいこと言って……でも、私も好きだったわ——アレス」
俺はこの時になって——ようやく気づいた。
きっと——アレスとしての初恋だったのだろうと……。
そして、それが終わったことを……。
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