46話オルガとカグラ

 さて、何故セレナが来たかというと……。


 恒例行事である、魔法の訓練である。


ウォターブレット水の弾丸!」


 大きい水の玉が空中に浮遊し、そこから水の塊が弾丸のように飛んでくる。

 水属性の中級魔法だ。


フレイムランス炎の槍!」


 対して俺は、空中に火の槍を生み出し、それらで相殺する。

 火属性の中級魔法だ。


「こっちから行くぞ! フレイムアロー炎の矢!」


 連続した炎の矢がセレナに向かっていくが……。


ウォターウォール水の壁!」


 セレナの前に水の壁が生まれ、俺の炎の矢をかき消す。


「全部かき消されるか……見事だな」


「えへへ〜、褒められましたね!」


「こりゃ、うかうかしてられないや」


「あっ——時間ですよ、行きましょうか?」


「ああ、そうするとしよう。最上級生が遅刻とか笑えないからな」


 すると……元気な声が聞こえてくる。


「アレス様ー! セレナ! おはようなのだっ!」


「お二人共、おはようございます」


 カグラと、その後ろにはオルガもいる。


「おはよう、カグラにオルガも」


「おはよーカグラちゃん、オルガ君」


「よし! 行くのだっ!」


「では、参りましょう」


 この四人で登校することが、今年からの日課となった。

 理由は簡単で、単純に俺たちが成長したからだ。

 身体も心も成長し、護衛もいらないほどに。


 あとは……別れの時間が近いこともある。

 学校を卒業すれば、今みたいに会う事は出来ないだろう。

 それぞれに、立場というものが存在するからだ。

 皇子、侯爵令嬢、男爵令息、平民の女の子……よく、ここまでこれたな。

 だから最後の年は、出来るだけ一緒にいようとみんなで決めた。



「フフーン、今日は天気も良いのだっ!」


 カグラの見た目も大分変わったな。

 身長は俺と同じくらいあるし、大人っぽい顔つきになってきた。

 女性らしい体型にならず、本人は気にしているが……。

 まだまだ幼いし、仮に成長しなくてもそれ以外の魅力があるからな。


 ちなみに、相変わらずの言葉遣いだが……。

 きちんとする場面では、出来るようにはなった……はず。


「アレス様、カエラさんは元気ですか?」


 オルガも成長して、俺よりも若干背が高いくらいだ。

 顔つきも女の子みたいだったのに、精悍な顔つきになってきた。

 性格も真面目なままだが、砕けた口調も出来るようになつてきたな。

 余裕が出てきて、これならカエラを任せても良い……かな?


「ああ、今日も元気だったよ。最近は会いにこないが、何か考えがあるのかな?」


「ええ、一応。あんまり押しかけるのも迷惑ですし、まだ幼いエリカ様もいますから。この間、僕はいつまでも待ちますとお伝えしましたよ」


「へぇ……良い男になって」


「そんな親戚のおじさんみたいなこと言わないでくださいよ」


「ふふ、アレス様ったら」


「いや、おじさんなんだって」


「見た目の話ですよ……あれには驚きましたね」


「ええ、本当に。それにしても、あっという間でしたね……」


「ん?」


「もうすぐ、学校も卒業ですね……」


「ああ、そうだな。あれから三年も経ってるのか……」


 俺の暗殺未遂事件から三年が過ぎた。

 未だに、第一王妃は幽閉の身である。

 今のところ、ターレスも怖いほどに大人しくしている。

 他の貴族達も、俺にちょっかいをかけることも減ってきた。

 おそらく、俺の名前が知られてきたことと関係があるのだろう。

 さらにあのターレスとのやり取りが、結果的に俺の評価を上げたのだろうな。


「早いですよね〜でも、楽しいことだらけでしたね」


「色々やったなぁ……冒険者の真似事から、強化合宿、国のあちこちに遠征したり……」


 おそらく国内だけを見れば、フラムベルク侯爵領以外は行ったと思う。

 もちろん、オルガの実家やカグラの実家にも何回もお邪魔した。


「えへへ、みんな無事で良かったです!」


「確かにセレナの言う通りだな」


 この世界の命は安い。

 ひょんなことから、すぐに死んでしまうこともある。

 だが幸いなことに、身近ではそういったことは起きていない。


「このまま……平和だと良いですね……」


「おいおい、フラグを立てるのはやめてくれよ」


「フラグですか? それも前世のお話ですか?」


 そうなのだ……一番の変化はこれだろうな。

 十歳の誕生日に、前世のことやドラゴンのこと——闇魔法のことも伝えてある。

 両親とカエラ、オルガにセレナにカグラ、ヒルダ姉さんに限定したけど。

 あまり人に知られていいものではないし、人数が増えるほどリスクは高まるし。


「ああ、そうだ……懐かしいなぁ……」


「なんの話なのだ!?」


 先を歩いていたカグラが戻ってくる。

 この辺りも相変わらずだな。


「いや、俺のアレの話だ……前世とか色々な」


「ふふ……アレス様ってば、ガチガチに緊張していましたね?」


「当たり前だろ! 俺がどんなに不安だったか……」


「でも——どうでしたか?」


「……みんな、優しく受け入れてくれたな」


 そう……この三人は受け入れてくれた。

それが、どれだけ嬉しかったか……。


「みんな、改めてありがとう。変わらずに接してくれていること、とても嬉しく思う」


「拙者は元々信じておりますので!」


「私も驚いたけど……でも、嬉しかったです。アレス様のことを知れて」


「僕も戸惑いましたが、それまでの積み重ねがありましたので」


「そうか……うん、ありきたりなセリフだけど——君達に会えて良かったよ」


「「「こっちのセリフです!!!」」」


 俺はその言葉に感動しつつ、当時のことを思い出す……。

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