第45話俺の成長、セレナの成長
父上が帰った後は、鍛錬の時間となる。
「カイゼル、今日もよろしく頼む」
「御意」
いつも通り母上達が見守る中、激しい打ち合いが始まる。
「シッ!」
「ハッ!」
剣と剣がかち合い、庭に音が響く。
「むっ……力が増してきましたな」
「成長期だからね。ただ、少し慣れるまで大変かも」
「ならば、ひたすらに鍛錬に励むことです。そして、身体で覚えてまいりましょう」
「ああ、それしかないよな」
俺に忠誠を誓ったカイゼルだが、特にこれといって変わりはない。
相変わらず稽古は熾烈を極めるし、歳をとって鈍るということもない。
ただ、一つだけ変わったことがある……。
「じいたん! おにぃちゃんをいじめちゃめなのっ!」
「い、いや、これはですな……」
「むぅ〜!」
「エリカ様……じゃあ、手加減を……」
「おい? カイゼル?」
「はっ!? ……エリナ様」
「はいはい、わかりました。エリカ〜、お昼寝の時間ですよ〜」
「イヤ! わたしはおにぃちゃんを見てるの!」
「あら〜、残念ねぇ……お母さんが一緒に寝てあげようかと思ったけど……」
「うぅー……ねるゅ……ママと寝るもん!」
葛藤したが、母上とお昼寝が勝ったようだ。
それはそれで、少々複雑である。
「ほっ……行きましたか」
「カイゼルは、エリカには甘いよなー」
「う、うむ……仕方ないのです。あんなに愛らしくては……」
「いや、気持ちはわかる。母上譲りの容姿に、父上からの金髪——間違いなく可愛い」
「それに関しては同意ですな。さて……続きといきますぞ?」
「ああ、よろしく頼む」
再び、剣と剣が激しくぶつかるが……。
「ここっ!」
隙をついて、左手に炎を纏い殴りかかる。
「むっ!?」
「受け止めるか……でも——下がったな!」
左腕で受け止めたことにより、そっちの動きが鈍るはず!
そこを、左側から攻撃する!
「むっ? やりますな……申し分ない魔法拳の威力、鈍った方からの攻撃……いやはや……楽しいですな」
「その割に、随分と余裕に見えるけど?」
攻撃を繰り出すが……決定打が入らない。
「ふむ、戦場では片腕が使えなくなることはよくありましたから。では——防御の方を試しましょう」
カイゼルから剣気が溢れ出す!
「……こい!」
「その意気は良し……一刀斬馬!」
馬を兵士こと斬るカイゼルの技だ!
……が、慌ててはいけない。
「明鏡止水……」
剣と剣が触れ合う瞬間、力の流れに逆らわずに、下へと受け流す。
「むっ!?」
そして、そのまま手首を返し、剣を叩き込む。
これが剣道の技である返し技だ。
俺の受け流す剣技とも相性が良い。
「どうだ!?」
「防御だけでなく、そこからの返し技……お見事です。合格点を差し上げましょう」
「よし!」
これは滅多にないことで、一ヶ月に数回しかない。
ただ、段々と比率は高くなってはいる。
なので、最近は俺自身も成長を感じている。
「アレス様!」
「おっ、セレナか。おはよう」
「お、おはようございます……」
何やら、最近のセレナはおかしい。
俺を見るとモジモジする。
いや、わかってはいるつもりだ。
俺は鈍感系主人公ではないし。
ただ、まだ十二歳の子にどう反応して良いかわからないだけで……。
あと、俺も少々戸惑っている……己の身体に。
「セレナ、ちょうど良かった。カイゼルを治してくれるかい?」
「別に平気ですが……」
「セレナの練習にもなるから」
「そういうことでしたら……」
「は、はい! かの者を癒したまえ——ヒール」
火傷の痕が消えていく……うん、スムーズな魔力の流れだ。
それに伴い、説唱スピードも上がってきたし。
何より……身体の成長が著しい……。
「アレス様?」
「ん?」
「カイゼルさん、行っちゃいましたよ?」
「あれ?いつの間に……」
「ぼっーとして、何を考えていたんですか?」
「いや、セレナのことをね」
「ふえっ!? わ、わたしですか……?」
言葉遣いや仕草に変わりはないが……。
まあ、端的に言うと——発育が良い。
身長こそ150程度だが、年齢の割に胸も大きいしお尻も……。
なので、全体的に女性らしい体型になっている。
これが、俺が戸惑っている原因だ。
和馬としては発育がいいとはいえ、十二歳に反応することには抵抗がある。
しかし、精通もしたアレスとしては抵抗がない。
「成長したね、セレナは。魔法の腕前も、風と水が中級クラスになったし」
「アレス様こそすごいです! 火属性のコントロールが出来てますもん! あの魔法の拳って、相当コントロールが難しいと思いますし」
「まあね、あれは苦労したなぁー」
自分の火で焼かれるわけにいかないし。
なので薄い膜を作り、その上で炎を纏う形になる。
その調整に、二年かかってしまった。
「わたしも負けられないですっ! フンスッ!」
身体と中身がアンバランスな感じだよな……。
いや、それもセレナの魅力の一つだ。
「いやいや、セレナは宮廷魔法士にも選ばれそうだし」
我が国の魔法を司る宮廷魔法士。
その審査は厳しく、最低でも中級クラスを使えることが条件だ。
さらには高い教養に、礼儀作法まで必要となる。
その宮廷魔法士長から、セレナはスカウトを受けたらしい。
もちろん、試験に合格する必要はあるが。
「えへへー、頑張った甲斐がありましたねっ!」
「魔法試験でトップだったもんなー。俺も負けたし」
「剣も極めようとしているアレス様に負けるわけにはいきません。これだけは、わたしの譲れないものです!」
「そうか……うん、俺も負けられないね。それで、ヒルダ姉さんは元気かい?」
貴族の礼儀作法や暗黙のルールは、ヒルダ姉さんが教えている。
当たり前だが、一流の教育を受けてきているからね。
「はいっ! 少し厳しいですけど……アレス様のこともよく聞かれますよ? 本当にこのままでいいんですか?」
俺と姉上は、とある事情により二年ほどまともに会っていない。
もちろん顔を合わせることはあるが、お互いに会釈程度で済ませている。
「良いんだよ、これで。寂しいけれど縁を切ったわけでもないし。今でも視線が合えばわかる、お互いを大事に思う気持ちに変わりはないと」
「むぅ……嫉妬しちゃいますね」
「クク……可愛いな、セレナは」
「ふえっ!?」
「心も強くなったし、単純に強くもなった」
「はいっ! 私がアレス様を守るんですっ!」
「おいおい、それはいくらなんでも……でも、ありがとう」
本当に強くなった……色々な意味で。
俺にも意見をはっきり言うようになったし、貴族達にも臆することもなくなってきた。
更には、クロイス侯爵家がセレナの後ろ盾になってくれるそうだ。
もちろん、セレナの家族も含めてだ。
最早、俺が守ってあげるなんていうのは……セレナに失礼だな。
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