少年期~後編~

第44話時は流れ……物語が始まる

 ……イテテ……。


 まいったな……身体が追いついてこない……。


 このままだと戦いや鍛錬にも影響が出てくるぞ……。



「アレス様、朝ですよ。だ、大丈夫ですか? 相変わらず辛そうですね……」


「カエラ、おはよう。ああ、何とか起き上がるよ」


 ギシギシする身体を必死に動かす。

 別に怪我をしてるわけではない。

やらしい事をしていたわけでもない。

 そう……いわゆる成長痛ってやつだ。


「またですか? 確かに、最近背が伸びてますもんね。まあ、もう十二歳ですし。私なんか、あっという間に追い抜かれてしまいましたね」


「カエラの身長は対して変わってないもんな」


 十六歳を迎えて大人になったカエラだが、身長は155センチ程度で止まった。

 ただし、身体はきちんと女性らしいラインに成長している。

 対して俺は、160センチ程度にまで成長した。

 おそらく、このまま伸びていくだろう。

 ただ……成長痛がキツイ。


「どうせ小さいですよ、私は」


「別に良いんじゃないか? オルガは気にしないと思うけど?」


「な、何故、オルガ君が出てくるんですか!」


「何故って……付き合ってるんじゃないの?」


「ま、まだですよ! オルガ君十二歳ですよ!?」


「でも、もう精通してるし……婚約者だっていてもおかしくないよ?」


 俺だって、もう精通してるし。

 婚約者も……うん、決まりそうではある。

 誰って……まあ、一人しかいないよね。


「うぅー……あんなに可愛かったアレス様が……オルガ君も……嬉しいやら悲しいやら……」


「カエラは子供っぽくなったよね? いや、違うか。今まで気を張っていたからだよね」


 自分の出自や、俺やエリカのこと、母上のことで大変だったはずだ。


「アレス様……」


「もう平気だから……も強くなったから。母上もエリカも……カエラのことも守ってみせる。だから——自分の幸せを願って良いんだよ?」


「本当に大きくなられて……はい、ゆっくりですが考えていきますね」


「うん、それで良いと思うよ。カエラが誰と結婚しようが、俺にとっては大事な家族であることに変わりはないからさ。ただし、俺のお眼鏡に叶う奴じゃないとダメだ。まあ、それがオルガなら言うことないけど」


「も、もう! ほら! エリカ様が待ってますよ! 私は片付けてからまいります」


「はいはい、行きますよ」


 俺が部屋を出て行こうとすると……。


「アレス様!」


「ん? どうかした?」


「あ、ありがとうございます……」


 照れながら、カエラが言う。


「クク……どういたしまして」


 痛む身体を引きずり、俺は下へと降りていくのだった。



 階段を下りて、一階に行くと……天使がいた。


「おにちゃん!」


 我が家の天使が俺の足元に突撃してくる。

 三歳になり、最近歩くのにも慣れてきたようだ。

 ただ、その楽しさからか……少し、お転婆になっている。


「エリカ、それじゃ鬼になっちゃうから。お、に、い、ちゃんだ。ほら、言ってごらん?」


「うぅー……おにぃちゃん?」


「グハッ!?」


 どんな攻撃よりも破壊力がある!


「おにぃちゃんが倒れちゃった! ママー!」


「はいはい、大丈夫よ。エリカが可愛くてやられちゃっただけよー」


「わたしのせい……? グスッ……」


「あぁー! 違うぞ! そういうアレじゃなくて! ほら! お兄ちゃんは元気だ!」


「わぁ〜い! おにぃちゃんが元気になったぁ!」


「エリカは、相変わらずお兄ちゃんが好きね?」


「うんっ! おにぃちゃんしゅきっ!」


 た、タエロォォ——!!

 倒れるな! 俺! エリカが心配する!


「お、俺もエリカが好きだぞ?」


「わぁ〜い!」


「ふふ……ほら、顔を洗ってきなさい。ご飯にしましょう」


 準備を終えて、四人で朝食となる。


「いただきます」


「いたーきます!」


「エリカ様、いただきますですよ?」


「いたーきます?」


「ふふ、まだ良いわよ」


「す、すみません……厳しすぎましたか?」


「ううん、そんなことないと思うよ」


 カエラは、成長したエリカに対して戸惑っているようだ。

 俺たちはカエラは家族なんだから妹みたいに接すれば良いと言ったが……。

 それだけは譲れません!と言われてしまったし。


「ええ、そうよ。私達がどうしても甘くなってしまうから、カエラがいてくれて助かるわ」


「でも……嫌われたら……」


「エリカ、カエラのことは好きか?」


「しゅき! あのねっ! いつも絵本読んでくれるのっ! あと一緒に遊んでくれるのっ!」


「エリカ様……ありがとうございます」




 その後、楽しい時間が終わると……。


 俺のライバルがやってくる。


「天使はどこだ!?」


「パパだぁ……!」


 エリカが父上に突撃する。


「おおっ! 我が天使よ!」


「えへへ〜グリグリしゅき」


 むむむ……! ジェラシーを感じる!


「エリカ、お兄ちゃんと父上……どっちが好きかな?」


「ほう……? この俺に喧嘩を売るか、アレスよ。少しばかり大きくなったとはいえ、生意気になったものだな?」


「父上は老けましたね? いやはや、月日とは残酷なものです」


俺と父上はにらみ合い——激しく火花を散らす。


「パパ……おにぃちゃん……うぅー……」


「二人とも! エリカを困らせるのはやめなさい!」


「「すみません……」」


「謝る相手が違うわよ?」


「「エリカ、ごめん」」


「パパとおにぃちゃん仲良し?」


「「ああ! もちろんだ!」」


「えへへ! よかったぁ〜!」


 うん! 妹は天使だな!


 エリカを見るたびに……結衣を思い出すな。


 あれから……もう十二年か……。


 正直言って、前世の記憶は薄れてきている。


 それでも、家族の顔だけははっきりと覚えている。


 みんな……俺は新しい妹もできて、幸せに暮らしているよ。


 あちらの世界でも、皆が幸せに生きていると良いのだが……。



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