第43話それぞれの世界にて……

 ……なんだ?


 いつもの夢?


 いや……闇の中だし、様子が違う……。


 しかも……何かがいる?




「……目覚めよ」


「誰だ!?」


「選ばれし……者よ……」


「選ばれし者? なんのことだ?」


「世界を……偽りの理を破壊せよ」


「おい!? 答えろ!?」


「まだ……早いか……」


「よく聞こえない!」


「……まあ、よい……種は撒いておいた……」


「待ってくれ! お前が俺を転生させたのか!?」


「我が分身を大事に育ててくれ……それこそが、希望であり……」


「分身? 育てる……? クロスのことか?」


「お主こそが……真の……それが使命なのだ」


「おい!? 待っ——」






「アレス様!!」


「ブハッ!?」


「だっ!大丈夫ですか!?」


「カ、カエラか……」


「ほんとに大丈夫ですか?汗びっしょりですし……今朝から具合が悪くて……」


「い、いや、大丈夫だ……うん?」


「あれ?顔色が良くなってきました……?」


「あ、ああ……楽になった気がする……」


「良かったぁ……私、何か食べられる物をもつてきますね! あっ——エリナ様にも伝えないとっ!」


 そう言い、カエラが部屋から出て行くと……。


(キュイー!)


(おい!? 今まで何をしてた!? あの日以来、反応がないし……)


(キュイー……)


(ごめんごめん、怒ってないから……ただ、聞きたい)


(キュイ!)


(やっぱり、そうなのか? 君が、昨日魔力を大量に吸い取った理由はなんだい?)


(キュイー、キュイー……)


(冬眠……? サナギになる……? そのための栄養……?)


(キュイ!)


(なるほど……何となく言葉がわかってきたな……何でだ?)


(キュイキュイ!)


(なに?……目覚めが近いから……そうだ!さっきのアレは!?)


(キュイ?)


(わからないか……えっと、冬眠ってことは、僕の中でってこと?)


(キュイ!)


(少しだけ魔力を貰いつつ、三年から五年くらい……長っ!)


(キュイー!)


(ん?そうすれば、力になれる?)


(キュイキュイ)


(そっか……よくわからないが、ゆっくり寝るといいよ。また、遊ぼうな?)


(キュイー!)




「切れたか……なるほど、そういうことだったのか」


 あの襲撃以来、反応がなかったが……。


「俺が叱ったことを、気にしていたわけではなかったようだな」


 冬眠とやらの準備をしていたのか。

 その最終段階として、魔力を大量に持っていったと。


「だから、俺は倒れたわけか……」


 しかし……あのリアルな夢?は何だったんだ?


「クロスを育てろか……」


 そして、俺は何者……あいつが転生させたのか?

 なんのために?理を破壊とか言っていたな……。


「……いや、俺のやるべきことは変わらない」


 強くなり、大事な家族や友人を守る。


 そして……この国を、俺なりのやり方で良くしていこう。


「しかし……三年から五年か……」


 ……俺は12歳から14歳ってところか。

 どうなっているだろうな……。


「とりあえずは、命を狙われることは……当分は無くなるはず」


 今のうちに、体制を整えておかなくてな。

 父上の力になるためにも……。


「何より……15歳になると聖痕の儀がある」


 確か……成人の儀と同じ日に行われるな。

 それまでに、強固な立場を作っておかないと……。


「アスカロンのお披露目……俺が聖痕を持っていない上に、無能者の烙印を押されていた場合……」


 母上や、エリカ……それに、俺を信じてくれてる友達たち……。


「クロイス侯爵や、ゴーゲン男爵にも顔向けができない……」


 カグラやオルガは、俺の派閥とみなされているだろうからな。


「よし……それまで間、鍛錬に励むとするか」


 ……最後の使命という言葉。


 気にはなるが……強くなっておくことは無駄にはならないだろう。


 この先に何が起ころうと……俺が全てを守ってみせる……!


 そのために——最強を目指す!!





 ——————————————————————



 ~結衣視点~



 ……ん?なんだろ?


 光に照らされた場所?


「……夢だよね、だって天国みたいな場所だもん」


「……目覚めの時は近い……」


「誰!?どこにいるの!?」


「……まだ、呼ぶには早い……力が、信仰が足りない……」


「え?」


「だが……奴が目覚める前に……」


「ねぇ!?誰なの!?」


「……こちらも急がなくては……奴は分身を送り出したはず……」


「どういうことなの!?」


「選ばれし者よ……世界を救いなさい……」


「選ばれし者?世界……?」


「邪悪な者に……惑わされてはなりません……」


「ねぇ!?答えてよ!?」


「……貴女は聖……いつか、会える日を……使命を……」


「あっ——ま、待って——!?」






「ねえってば!!」


「うぉ!?」


「あっ……お父さん……」


「大丈夫か?熱は……下がったようだな」


「うん……ずっと変な夢を見てて……」


「例の異世界か?」


「いや、いつもとは違くて……普段は、途切れ途切れなんだけど、男の子が出てきて……私は、上?空?そんな感じで覗いているの……でも、今回は光輝く場所にいて……」



「不思議な夢だな……」


「お母さんには言ってないけどね……心配かけちゃうから」


「そうだな……何かあれば、言うといい」


「ありがとう、お父さん……」


「それにしても……和馬に似た子供か……俺も見てみたいものだ……」


「私は会ってみたいかも……そうすれば……」


「おいおい、自分で言っといてなんだが……夢だろう?」


「え?あっ——うん、そうだね」


「まだ、完全には良くなっていないのだろう。寝るといい」


「うん、そうするね……」


「ああ、おやすみ」


 そう言い、お父さんは部屋から出て行きました……。


「……あの夢?はなんだったんだろう?」


 選ばれし者?使命?


「うーん……何か引っ張られるような感覚があった……」


 どう表現したらいいんだろう?


「……わからない」


 まあ、夢だし……気にしなくていいよね。


 和馬さんのお墓に行って、色々聞いてもらおうかな?


 ……まだ、好きでいても良いですよね……?


 きっと、和馬さんは……早く忘れなさいって言うんだろうなぁ……。


 でも、大好きだった貴方に……命まで救ってもらった貴方を……。


「忘れられるわけが……ないじゃないですか……!」


 和馬さん……貴方に会いたい……。


 私のことを罵ってもいい、恨み事でもいい……。


「ただ……会いたい……夢でもなんでもいいから……! 一言、謝りたい……!」


 神様……お願いします。


 どうか、私を……あの世界へ……。



~第1部完~

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