第42話side~セレナの気持ち~

 ……私って性格悪いなぁ。


 カグラちゃんに、嫉妬してる自分がいる……。


 今、わたしは一人でアレス様の家に遊びに来ています。


 カグラちゃんや、オルガ君が実家に帰っているからです。


 この時間だけは……アレス様を独り占め出来るから……。


 平民であるわたしには、会うことすら贅沢なことなのに……。


 これからも、側にいれるとは限らないのに……。


 でも……わたしだって——アレス様のこと好きだもん!


「セレナ?どうかしたかい?」


「いえ!なんでもないんです!」


「そう?なら良いけど……魔法の腕が上がってきたね?」


「ほんとですか!?わぁ……!嬉しいですっ!」


「何かあったのかな?随分とやる気になってるみたいだけど……」


「えへへー……内緒です……」


「あらら、女の子って秘密が多いよなー。さて、じゃあ素振りしてくるね」


「ここで見てても良いですか?」


「うん?良いけど……いつも退屈じゃない?」


「そんなことないですっ!」


「そ、そうか……よーし——やるか!」


 アレス様は真剣な表情になり、一心不乱に素振りを始めます。


 もう、わたしのことなど眼中になく一生懸命に……。


「むぅ……でも、そんなところも……」


 それを眺めながら、出会った頃を思い出します……。





 ……私は、皇子様に出逢いました。


 本物の皇子様でもあり、憧れていた絵本の中の皇子様に……。


 その方の名前は、アレス様。


 私が暮らしている国の第三皇子にあたる方です。


 小さい頃から絵本を読んでいたわたしは、皇子様に憧れていました。


 でも、お母さんに言われました。


 そんな人はいないよと……夢を見るんじゃないと……。


 両親がわたしのせいで苦労していたことは、何となくわかっていました。


 だから、心の奥にしまい込みました。


 でも……いたんです。


 貴族の方の前を通ってしまい、乱暴な言葉を浴びせられた時……。


 絵本の中の皇子様のように、颯爽と現れて助けてくれた方が……。


 わたしみたいな平民にも、優しく声をかけてくれて……。


 身分に関係なく、誰とでも接する姿は、憧れの皇子様そのものでした。


 アレス様のおかげで、カグラちゃんやオルガ君といった友達もできた。


 更には……わたしを守ってくれるって……。


 強くて、優しくて、かっこよくて……少し、暗い影を潜める方。


 今なら、その理由もわかる。


 わたしは貴族の世界のことはわからないけど、少しだけカグラちゃんに教えてもらった。


 アレス様の立場は、中々複雑のようなのです。


 わたしには、何ができるだろう……?


 好きになった貴方に、恩がある貴方に、わたしに出来ることって……。


 色々考えた結果、わたしは強くなることにしました。


 魔法の稽古も倒れるまで続け、回復魔法もすぐに使えるように無詠唱をしたり。


 そして……いつか、アレス様の力になれるように……!




 その機会は……来ました。


 オルガ君の、領地からの帰り道のことでした……。


 突然、傭兵といった人達に襲われたのです……。



 わたしは怖くて震えてしまって……。


 あんなにいっぱい鍛錬して、アレス様の力になるって決めたのに……!


 それになのに……アレス様だって怖いはずなのに……傭兵達に立ち向かっていきました。


 わたしは情けなくて……悔しくて……。


 カグラちゃんやオルガ君なんか、武器を持って外に行っているのに……。


 わ、わたしだって……みんなと戦いたい!みんなを守りたい!と強く思いました。


 覚悟を決めてアレス様の隣に立ったわたしは……不思議と気持ちが落ち着きます。


 まだ怖いけど……でも——アレス様の隣なら、何でも出来る気がした……。


 そして……初めて人を殺した……魔法とはいえ……。


 感じたことのない痛みと、胃の中からせり上がってくる感覚……。


 カグラちゃんやオルガ君は、直接これを受けているんだ……。


 なのに二人は立ち止まることなく、傭兵達を倒していました。


 わたしも手伝いましたが、敵の数が多くて……。


 その時……一人の傭兵が、馬車めがけて突っ込んできました……!


 わたしの魔法も食らいながらも、射殺すような表情で……。


 殺すという意志に——わたしは怖くて震えてしまいました……。


 だけど……また、アレス様が助けてくれた。


 馬車から飛び降り、燃える刀により傭兵を斬り伏せたのです。


 きっと、わたしを巻き添えにしないように……。


 ……その後、アレス様のお父さんが助けにきてくれたことで、状況は変わりました。


 わたし達は、何とか生き残ることができたのです。


 ただ……アレス様が気を失ってしまったのです。


 なので、急いで馬車に乗り、皇都へ帰還しました。


 そこからのことは、わたしにはよくわかりません。


 アレス様がうなされて……急に起きて……。


 お城に行くと言い出し……帰ってきたら……。


 何か……アレス様が大きく見えました……。


 近づいたと思ったら……また、遠くなったような……。


 ……わたしは、知っています。


 アレス様が、時折見せる切ない表情を……。


 空を見上げて、誰かを思っていることを……。


 その度に胸が締め付けられることを……。


 それと同時に、気づきました。


 アレス様の癒しに……力になりたいと強く思う自分に。





 覚悟を決めたわたしは、お母さんとお父さんに伝えに行きます。


「お父さん!お母さん!」


「ど、どうしたの?」


「待て、母さん……何かを決めたんだな?」


「うん!わたし決めたの!アレス様の力に……アレス様の側にいたいって!」


「セレナ……そうなのね。でも、大変よ?相手は皇子様。いくら仲が良くても、貴女では……愛人とかになってしまうわ。母としては、それは賛成できないけど……」


「お父さんもそうだ。可愛い一人娘を、いくらアレス様が良い方とはいえ……」


「も、もう!気が早いよっ!」


「でも、そういうことなんでしょ?目が違うもの……成長した喜びもあるけど……複雑ね」


「……ふむ。しかし、その感じだと……何か考えがあるんだな?」


「うんっ!」


 そう……わたしは色々と調べてみました。


 アレス様の側いるにはどうしたら良いかを……。


 今は、まだ幼いから平気だと皆が言っていた。


 でも、11歳を超えたあたりから、それも難しくなってくるって……。


 アレス様に婚約者とかが出来るかもしれないから……。


 もしかしたら……それは、カグラちゃんかもしれない。


 ……わたしには、カグラちゃんのような家柄はない。


 そんなわたしが、アレス様の側にいるには……。


「わたしは……宮廷魔法士になりますっ!」


「なるほど……そういうことか。ならば、もっと勉強しなきゃだな。よし!父さんに任せろ!本代を稼いでくるからな!」


お父さんは流通関係の仕事をしていて、貴族の方々とかにも卸しているらしい。

その分、収入もあるみたいだけど……激務だし、精神的に心配です。

でも、わたしが結果的に宮廷魔法士になれれば、お父さんも楽になるはず。


「セレナ……そこまで……なら、母として応援しましょう」


「お父さん、お母さん……ありがとう……!」


 そう……わたしが考えたことは、宮廷魔法士になること。


 平民でも、優秀な成績と魔法使いとしての才能があればなれると。


 それになれれば、アレス様の力になれる。


 お城の中でも、一定の力を持っているというからだ。


 何より……法衣貴族になれる。


 一代限りだけど、子爵扱いの貴族となることが出来る。


 そうすれば……アレス様のそばに居られる……。


 アレス様!わたしも貴方の力に……側にいたいです!


 今はまだ……力もないし、恥ずかしくて言えないけど……。


 いつか……貴方に伝えたいことがあります。


 出会った頃から——貴方のことが好きです!


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