第37話俺に出来ること
……また、夢か?
これは……伯父上の家か?
「ねえねえ、お父さん」
「どうした?」
「なんか……最近、変な夢見るの……」
「ん?どんな夢だ?」
「うーんと……知らない世界が見えて、そこでは魔法とかが存在して……」
「ハハ!」
「わ、笑わないでよ……」
「すまん、すまん。それで?お前が魔法少女にでもなってるのか?」
「もう! ううん……知らない男の子がいて、その子が遊んだりしている夢……でも、何故か……」
「ん?」
「頭がおかしいと思うんだけど……姿も年齢も何もかもが違うのに——和馬さんに似てるの……」
「……お前……」
「か、可哀想な目で見ないで……もちろん、私だってわかってるし……お母さんには言わないよ……早く忘れた方が良いって言うし……でも……」
「いや……荒唐無稽な話だが……そういうのだったら素敵だな」
「え?」
「和馬が何処かで生まれ変わって、幸せに生きてくれたら……俺は、それを願っている……」
「お父さん……」
「母さんの気持ちもわかるがな……忘れたほうが、いや……思い出にしてしまった方が良いということはな……血が繋がっていない母さんが薄情なわけじゃないぞ?」
「うん、わかってる。私達のためにそう言ってくれてるんだよね……」
「わかってるならいい……1年なんかあっという間に過ぎるな……」
「和馬さん……貴方は……何処かで生きているのですか……?」
映像が遠ざかっていく……。
……これは本当に夢なのか?
あまりに鮮明でないか?
会話も具体的だし……。
……だとすると……何故、こんな映像をみることが出来る?
俺は死んでいるし、あっちの世界の映像が見れるのはおかしい……。
それに……結衣が見た夢は……もしかして……。
「様、レス様……アレス様!」
「ん……?ああ、カグラか。それに、セレナも……何を泣きそうな顔をしているんだい?」
「アレス様が気を失うからですっ!」
「わ、わたしの所為で……ごめんなさい!」
「面目無い……セレナ、怪我はないかい?」
「は、はい……」
「なら良かった……カグラ、膨れてどうしたんだい?」
「むぅ……拙者にはないのですか?そ、そういうの……」
「君が怪我をするとは思ってないからね。僕は、カグラの力を信頼しているから」
「ず、ずるいのだ……」
「オルガは?というか……ここは?」
ベットにいた俺は、起き上がってみると……。
「ここ……僕の部屋だな……」
「あっ!そうですよ!」
「忘れてたのだ!拙者が知らせてくるのだ!」
カグラは部屋を飛び出していく……。
「えっと……?」
「あの後、皇帝陛下と近衛の方々で傭兵を退治してくれました。そのまま、一緒に皇都に帰ってきて、アレス様の自宅まで来たんですよ。それで、アレス様が目覚めるまで、皆で交代で様子を見てたんです」
「なるほど……そういうことか。父上は……?」
「何やら……怖い顔をして、皇城に向かっていきましたけど……」
「いつだ!?」
「ふえ?い、今さっきですけど……怖い顔をしてますよ……?」
「すまない!だが……!」
「動いちゃダメですよ!」
「行かなきゃいけない……!」
父上は……ゲルマを殺す気だ……!
もちろん、俺とて殺してやりたい気持ちはあるが……!
姉上は……ヒルダ姉さんが悲しむのも嫌だ!
それに……憎しみに任せて殺すのは、後々に響くことになる……!
最悪殺すことになったとしても……そのやり方だけはダメだっ!
「わ、わかりましたから!手伝います!」
セレナに肩を貸してもらい、階段を下りていくと……。
オルガとカグラに……家族がいた。
「アレス!」
「アレス様!」
「母上に、カエラ、心配をおかけして申し訳ない。だが、話は後にしましょう。僕は、父上を止めなくてはいけない……!」
「そ、そうなの!ラグナが……物凄い怖い顔をして……」
「誰も止められなくて……」
……母上が止められないとなると、相当頭に血が上っているな。
「カグラ!オルガ!」
「はいっ!」
「なんでしょうか?」
「俺の家族を任せる。いいな?」
「はっ!」
「お任せを!」
「セレナは中にいて、様子を見てやってくれ」
「わ、わかりましたっ!」
「ありがとう、みんな……では、行ってくる」
玄関を開けると、目の前でカイゼルが仁王立ちをしていた。
「カイゼル、退いてくれるかい?」
「皇帝陛下に言いつけられてまして……」
やっぱりそうか。
父上は……俺がくる前に、全てを終わらせる気だ。
俺が止めることをわかっていたから……。
「カイゼル——俺を父上の元まで連れて行ってくれ」
意識的に俺という言葉を使いつつ、意を持ってカイゼルを見つめる……。
虚勢にしかならないだろうが、それでも俺の精一杯の意思を示す……!
「……良き目です。懐かしくもあり、寂しくもある……自分のためではなく、誰かのために本気になれる亡き先帝陛下にそっくりです……」
「カイゼル……」
カイゼルが泣いている……。
「ククク……ラグナよ、お前の息子は手強いぞ……アレス様、覚悟はよろしいか?ここからは、大人の世界。様々な思惑が絡み合う魔境ですぞ?貴方が行ったところでなんの役にもたたないかもしれないですぞ?」
「……ああ!覚悟は出来ている!」
俺にどこまで出来るかはわからないが……最悪の結末だけは回避してみせる……!
そして……俺の前世の力でもって楔を打つ!
「……では、ご命令を。私は、今から貴方に忠誠を誓いましょう。皇帝陛下でもなく、先帝陛下でもなく——アレス様……貴方だけに!」
「……感謝する、カイゼル……ふぅ……第3皇子アレスとして命ずる!カイゼルよ!俺を父上の元まで連れて行け!!」
「御意!」
カイゼルに背負われて、俺は皇城へと向かっていく。
頼む……間に合ってくれ……!
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