第36話~皇女ヒルダの気持ち~


 私は、この国唯一の皇族の女性……だった。


 今は、可愛い妹のエリカがいるもの!


 可愛いアレスの、可愛い妹……はぅっ!


 い、いけない……興奮しちゃうところだったわ。




 私は少し変わっているらしい……。


 民の生活を考えたり、威張らないことが……。


 なんでだろう?私達は、彼らの税金で生かされているのに……。


 お母様も、貴族達も、それが当たり前だと思っている……。


 私には、それが理解できない……。


 周りの貴族からは、この子は何を言ってるの?という顔をされたり。


 お母様には——育て方を間違えたとか言われたり……。


 でも、そんな私にも理解者がいるの。


 アレスっていう可愛い弟が。


 とっても賢くて、素直で優しい子。


 悪いと思えば謝れるし、何かをしてもらったらありがとうと言える。


 平民や貴族にも別け隔てなく接する。


 当たり前のようだけど、大人にも出来ない人が多いのが現実だ。


 初めて会った日から、私の唯一の可愛い弟。


 あと2人は嫌いね!傲慢だし、自分より下の者を虐めるし。


 何より……いくら言っても直そうとしないところが。


 ……まあ、いいわ。


 私にはアレスがいるもの。


 ……でも、アレスにとっては?


 私は邪魔じゃない?ほ、ほんとは……嫌いだったりしない……?


 バカ!私のバカ!アレスはそんな子じゃ……。


 でも、私のお母様のせいで、アレスは……。


 そんな時、事件が起きた。


 お母様達が、エリカが生まれるところに乗り込もうとしたのだ。


 私は知らされておらず、後からその事を知った……。


 ……私は、アレスに会うのが怖くなった……。


 もう、嫌われちゃった?お姉ちゃんとして見てくれない?


 新しい妹にも会わせたくないよね……。


 そんな時、お父様がお母様の反対を押し切り、私を連れ出してくれた。




「お、お父様、大丈夫なの?お母様、怒り狂ってたけど……」


「ああ、問題ない。たまには父親らしいことをさせてくれ。すまないな……ヒルダ」


「お父様は悪くないわ!悪いのはお母様と………何より、お爺様よ……」


「ヒルダ……そこまでわかっているのか……賢いが故に……」


「お爺様は、どうしてもライルを皇位につけたいんだわ。自分のために……そして、私を権力者の嫁に……」


「……ああ、わかっている。安心しろ、俺とて皇帝として矜持がある。いつまでも、好きにやらせるものか……!お前にも、無理強いなどはさせてなるものか……!」


「お父様……ありがとう……私は、アレスのところに行っていいのかな?」


「良いに決まっている。アレスは、ヒルダが好きだからな」


「ほんと!?」


「ああ、本当だ。俺が言うのだから間違いない」


「……そんなに会ってないのに?」


「グハッ!?……い、痛いところを突くな……」


「フフ……冗談よ。お父様が言うなら……勇気を出して行ってみるわ」




 結果から言って……アレスは許してくれた。


 いや、許すとか許さないとかじゃなかった……。


 私とお母様は別だって……大好きなお姉ちゃんって……。


 妹に会わせたいって……私がどんなに嬉しかったか……。


 人前で泣くなんて……レディとして失格だわ……。


 でも……我慢ができなかった……全く!アレスったら!




「ふふ……可愛かったなぁ〜。また、会いに行きたいなぁ〜」


 自分の部屋でそんなことを思い出しながら、私はニヤニヤしていた。


「でも……お母様やお爺様がうるさいし……お父様に苦労をかけるのも……」


 そんな時……お母様の鼻歌が聞こえてきた。


「ふふ〜ん、良い気分だわ」


 珍しいわね……いつも、大体イライラしているのに……。

 ……あっ——今、言えば許してもらえるかも!?

 お外行きたいって言っても……。


「よし!追いかけないと!」


 部屋を出て、私はお母様の部屋に向かいます。


「あれ?扉が開いてるわ……ノックをしなさいって教わったし……どうしようかしら?」


 お母様は何が逆鱗に触れるかわからないから……。

 せっかく機嫌が良いのに、それで台無しなったら困るわ……。

 私は様子を伺いながら、部屋を覗き込む。


「ふふふ……あのアレスの顔が恐怖に歪む……あの女も、さぞ悲しむことでしょう……アハハ!笑いが止まらないわ!」


 ……ど、どういうこと?

 また、アレスに何かしたの?


「いや……宰相は死んでは困るって言ったけど……甘いわ。別に殺してしまって良いと思うのよ。跡を継ぐわけでもない出来損ないなんて。今なら、邪魔なブリューナグ侯爵家の娘も消せるし……」


 ……お母様……そこまでして……。

 お母様がそんな考えだから、お父様も近寄らないのよ。

 お父様だって、お母様を愛そうとしていたのに……。

 もちろん、エリナ様が1番で気にくわないのはわかるけど……。


「うん、それが良いわ。あの女も、思い知るがいい。チヤホヤされて、調子に乗ってるに違いないわ……私の方で、襲撃する傭兵を追加で雇いましょう。何かあっても、お父様が揉み消してくれるだろうし……ふふ、完璧だわ」


 ……宰相、ブリューナグ家とアレスが一緒、襲撃……あっ——。

 頭の中で線と線が繋がった私は、静かにその場を離れる。




「アレスとカグラは、アラドヴァル家の領地に……襲撃するなら……帰り道……」


 断片的な情報から、私が導き出した答えは……。

 お母様は——本気でアレスを殺す気だ。


「そんなことさせない……!いくらお母様でもやりすぎたわ……!」


 でも……もし、これで知らせたら……。

 そのことが露見したら……。

 お母様は……殺される……?


「で、でも、アレスが……!何も悪いことしないのに……!」


 ……ど、どうしたらいいの!?

 お母様のことだって憎いわけじゃない……。


「お、お父様のところに……そうよ!未然に防げれば、罪は軽くなるはず……!」


 私は、急いでお父様の元へ向かうのでした……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る