出来損ない皇子に転生~前世と今世の大切な人達のために最強を目指す~

第35話襲撃

　……一応、皆にも伝えておく。

「 嫌な予感ですか……」

「え？ど、どうなるんですか？」

「とりあえず、準備をしておきましょう」

「うん、そうしてくれると助かる。何もないなら、それで良い……僕が謝れば済む話だからね」

　……が、そうはいかないようだ。

「アレス様！」

「ダイスさん、来ましたか？」

「ええ！盗賊やならず者の類かと！」

「はっきりと答えてください——我々は邪魔ですか？」

「なるほど……クロイス様が気にいるわけですな。真っ直ぐな方だ……ええ、邪魔になります。我々は……魔界から国を守護するブリューナグ家！不意打ちならまだしも、くるとわかっている敵に負けはしません！」

「わかった、諸君の力を信じよう。ただし……場合によっては戦うことを許してほしい」

「……なるほど……これだけで済まないと？」

「わざわざこんなところで狙いに来るんだ……きな臭いね」

　ちょうど街や村も近くになく、兵士が巡回する場所からも離れている……。

「では、私がここに残り、他を向かわせますね。では、失礼します」

　一部の兵士がならず者と交戦していると……来たね。

　反対方向から、騎馬隊が突撃してくる……！

「アレス様！」

「カグラ、わかってる。さて……セレナは動いちゃダメだ」

「わ、わたしも……！」

「君に……人を殺せるかい？」

「え？……そ、それは……」

「カグラは？」

「……拙者は、わかりませぬ……」

「オルガは？」

「正直言って……自信がないです」

「僕もだ……だけど、僕は君達を死なせるくらいなら……殺す」

　……そうだ、俺はもう二度と大切な人を失いたくない。

　そして、俺を大切だと思ってくれる人達を悲しませたくない。

　つまり……俺も生き残ってみせる……！

「アレス様！」

「ダイスさん、あれは？ただのならず者には見えないですね？」

　馬に乗っているということは、騎士か傭兵の類だろう。

　何故なら、維持するのにお金がかかるからだ。

　さて……どちらにしろ、見えてきたな。

　……なおさら、俺が戦う必要がある。

　やつらの狙いは……十中八九——俺だろうからな。

「ええ……どこかの手の者かと。流石に数が多い……しかも、本職の奴らのようですな……恥を偲んで申しあげます……」

「いえ、何もおっしゃっらないでください。ならず者とは、わけが違いそうです……僕も参加します」

「拙者も！ブリューナグ家の者として！」

「僕もです！いずれにせよ、経験することです……！」

「わ、わたしも……！みんなを守りたい……！」

　確かに、兵士や冒険者になるためには、人殺しの試験があるくらいだ。

　でないと、戦争や戦いの時に役に立たない。

　ただ……その経験をするのは——12歳からという制限があるが。

「……皆さまの覚悟、しかと受け取りました……が、我々とて矜持がございます。先陣を切ってまいります！皆の者！行くぞ！」

「ウォォォ！！！」

　ダイスさんは兵士を率いて、騎馬隊と激突する！

「さて……やるか」

(キュイ！)

(ダメだ！出てくるな！)

(キュイー……)

(君までも殺されてしまう！いいか！絶対出るな！)

(クウー……)

　静かになったか……ごめんよ、クロス。

　理由はわからないが……俺は君を守らなきゃいけないんだ。

　俺は馬車の上がり、狙いをつける……。

　忌避感は……感じない。

　いや……これは、魔法だからかもしれない。

「いや……今はいい……ファイアーボール！」

　俺の放った魔法は——敵を燃やす！

「ギャャ——！？」

　全身が火だるまになり、地面を転げ回っている……！

「ッ——！！」

　か、考えるな！

　今は撃つことだけに……生き残る事だけを……！

「ファイアーアロー！ファイアーボール！」

　すると……来てしまったか。

「い、行きます……！ウインド……カッター！！」

　風の刃が——首を飛ばす。

　血が噴き出し……地に伏せる。

「ヒィ！？あ、あ、わ、わたしが……？」

「無理をするな！下がってもいい！」

「……や、やります……！だって……アレス様の隣に立ちたいもん……！」

「よく言ったのだっ！オルガ！拙者達も負けてられぬぞ！？」

「ええ！皇子様と平民の方が覚悟を決めているというのに……騎士として情けないところは見せられないですね！」

　2人はお互いを補うように、2人で1人を仕留めていく！

「くっ！？し、しかし……！」

「ぐっ！？アラドヴァル家の嫡男として……！」

　戦いを生業とする家系なので、心構えを教え込まれたり、覚悟はしていたのだろう。

　苦渋に満ちた表情だが、その剣や槍は正確に敵を殺していく。

　だが……所詮は子供。

　本物の戦士には及ばない……だから、俺達がいるんだ！

「セレナ！いくよ！フォローするんだ！」

「は、はい！」

　2人の魔法で、オルガとカグラをフォローする。

「アレス様！一騎がそちらに！」

　オルガの声に反応し、あたりを見渡すと……いた！

　他には目もくれずに、一直線に俺に向かってくる！

　……やはり、俺が狙いか。

　魔法の消費が激しい……それに、避けられたら一貫の終わりだ。

　……覚悟を決めるしかない——人を斬る覚悟を。

「あ、アレス様……？」

「セレナ、2人のフォローを頼めるかい？」

「っ——！わたしに任せてください！！」

　セレナの目から怯えが消え、闘志がみなぎる。

　何が琴線にふれたかはわからないが、覚悟を決めた目だ。

　ならば……俺だけが覚悟を決めないわけにはいくまい。

　抜刀の構えをとり……その時を待つ。

「アレスだな！？覚悟！！」

　槍を構えた敵が迫ってくる。

　万が一、セレナに狙いをつけられたら……いくぞ！！

　俺は馬車の屋根から飛び降り、やつを迎え撃つ！

「馬鹿が！自ら殺されに来るとは！！」

　敵から槍が繰り出されるが……。

「炎刃一閃……！」

　俺は、馬ごと斬り裂き——奴の右肩を斬りとった。

「へあ？あ、アァァァ——！ピギャ——！！」

「と、トドメを……ツゥ——！？」

　か、身体が動かない……！

　手が震える……！感触が……！

　しっかりしろ！まだ、敵は生きている！

「あ、あ、腕が……ない！オレノウデガァァ——！？」

　刃先で太ももに傷をつける……！

「っ！！こ、これで……苦しまずに一撃で……！」

　震えを止めた俺は……刀を振り抜く——首元に。

「…………」

　胴体が地に伏せ、驚愕に包まれた顔が近くに転がる……。

「オェ——！？」

「あ、アレス様！？」

「お、降りてくるな！まだ、戦いは……！」

「いたぞー！こっちだ！」

「たんまり金がもらえるぜー！」

　し、しまった……！た、立て！！

　セレナを守らないと……！

　俺が力を振り絞り立ち上がった時……英雄が目の前にいた。

「アレス、よくやった。後は、この俺に任せろ」

「ち、父上……？」

「俺の大事な息子に……貴様ら！！覚悟しろ！！1匹たりとも逃しはしない！！」

　槍を構えた父上は、敵の喉元を的確に突いていく！

　つ、強い！父上は、強かったのか……！

「アレス様、ご無事でなによりです」

「ゼノさん！？近衛が何故……？」

「事情は後で……もう、大丈夫です。ゆっくりしてください」

「そ、そうか……あっ——」

　気が抜けたのか……俺の意識は闇の中に沈んでいった……。