第33話実戦訓練

 しっかりと英気を養った翌日のこと……。


 俺達は準備をして、出発の時間を待っていた。


「さて……実戦では初めてだからなぁ……どうなるか」


「その刀ってやつを使うのですか?」


「ああ、そうだよ。それに……母上から習ったこともね」


「あっ——やってましたね。カグラちゃんが領地に戻ってる間に、わたしは見てましたけど……綺麗だったなぁ〜」


「むぅ……気になるのだ」


「ハハ……後で機会があればお披露目するかな」


「約束ですからね!」


 すると……オルガが駆け寄ってくる。

 その後ろからは、ゴーゲンさんも……。

 どうやら、出発の時間のようだ。


「アレス様、おまたせしました。では、行きましょう」


「ええ、わかりました。ゴーゲン殿、よろしくお願いします」


「畏まりました。ただし——某の指示に従ってもらいますぞ?」


 ゴーゲンさんの気配が変わる……戦いを生業とする人の空気に……。


「ええ、もちろんです。ここにいるのは、皇子ではなく……ただの一兵士です」


「貴方には愚問でしたな。では……」


 アラドヴァル家の兵士達と共に、街を出発する。




 ついでに……貴重な経験もさせてもらう。


「うおっ!?カグラ!?速くない!?」


「しっかりと掴まっててくださいね!」


「わわっ!?」


「セレナさん、僕で申し訳ないですね」


「そんなことありませんよ!」


 そう……今、馬に乗っております。

 俺はカグラの後ろに……少し情けない気も。

 セレナは、オルガの後ろに乗っている。

 この二人は地方の出身なので、5歳から学んでいたようだ。

 なので、安心して乗っていいのだが……少し、怖い。




 なんとか?無事に到着し……気持ちを切り替える。

 目の前には……瘴気が漂う草原が広がっている……。


「これは……どうしてこうなっているのですか?」


「50年ほど前の話ですが……ここにて、大きな戦があったようなのです。その際に瘴気が定着してしまい、定期的に魔物が出現するようになってしまったのです」


「なるほど……」


「噂に聞く聖女様でしたら、浄化できるのでしょうが……」


「異世界召喚されるという聖女ですか……」


 一体、どんな方が来るのだろうか?

 俺は会うことが出来るのか?

 聖痕がない俺では、許可が出なそうだな……。


「ええ……ですが、まだ先のことですしな。むっ……来たようですな……この規模は……うむ、ある意味良きタイミングでしたな」


 瘴気が形を変えて……魔物に変化していく……。


「えっと……?」


「瘴気の大きさにより、魔物はある程度判別が可能です。今回は規模が小さいので……ゴブリンとオークですかな」


 ゴーゲンさんの言う通り……瘴気はゴブリンとオークになる。

 オークは毛むくじゃらの人間の身体に、イノシシの顔がくっついたような魔物だ。

 身長は……160超えくらいか?槍を持っているな……。


「ブゴォ!!」


「グキャキャ!」


「僕らは、どうしますか?」


「では、ゴブリンを……今回は、某が補佐しましょう。幸い、オーク程度なら兵士達も問題ありませぬ」


「了解です!カグラ!君が道を切り開くんだ!僕が続く!オルガ!補佐とセレナの守り!セレナは近づいてくる魔物に魔法!いいか!?」


「「「はいっ!!!」」」


「……某は必要ないかもしれませんな」


 カグラがゴブリンの群れに突撃する!


「ヤァ!」


 一皮向けたカグラの剣技は、ゴブリン如き敵ではなかった。

 一刀のもとに斬り伏せていく……!


「さて……負けられないね……!」


 カグラの側面からくるゴブリンを、俺が刀で斬り伏せていく。

 やはり使いやすい……!

 西洋剣とは違い、斬ることに特化した刀は、俺の戦闘スタイルにもあっている。

 俺はパワーよりスピード、直線型ではなく動いて翻弄するタイプだ。


 だが、そのために……仕留め損なうこともあるが……。


「ハァ!」


 オルガの突きが、それを補ってくれる。


「みんな!行きます!」


 全員が意識して、射線上から離れる。


「ウォーターボール!続けて……ウインドカッター!」


 魔法の才能に恵まれてセレナは、連続で魔法を使用できるようにもなった。

 さらには……俺と共に、新技も開発中である。


「ククク……ハーハッハ!愉快なり!若き戦士がいるではないか!兵士諸君!負けてられぬぞ!?」


「「「オォォォ———!!!」」


 ゴーゲンさんの鼓舞により、兵士達も活気付く。

 オーク達を人海戦術により、次々と仕留めていく。

 だが、傷を負う兵士達も増えてきた……が、俺らにはセレナがいる。


「皆さん!いきますねっ!癒しの雨よ!降り注げ!ヒールシャワー!」


 キラキラ光る水の礫が、兵士達に降り注ぐ……。


「おおっ!傷が……!」


「お嬢ちゃん!ありがとう!」


「いえ!兵士の皆さん頑張ってください!」


「聞いたか!?野郎ども!貴重な回復魔法のうえに、暖かい言葉……やる気が出ないわけがないな!?ゆくぞ——!!」


「ウォォォ——!!!」




 そのまま順調に倒していき、しばらく経つと……。


「むっ!瘴気……!」


 ゴーゲンさんの視線の先には……新たな瘴気が発生していた。

 そこから、次々とゴブリンやオークが現れていく……。


「……僕がやってもよろしいですか?」


「……アレス様が?蛮勇ではないでしょうね?勝算は?」


「おそらく、問題ないかと思うます。自惚れではなく、客観的に見て……」


「なれば……万が一に備えて、某が補佐しましょう。ネイル!」


「はいはい、なんですかねー?」


「息子とその友人を補佐しろ。某は、アレス様と共にあれを始末してくる」


「えー?俺っすか?まあ、仕方ないっすね。行ってきまーす」


 ……あの人……軽い口調だけど……強いな。


「すみません。奴の名前はネイルといい……ああ見えて我が兵士達の中でも、腕利きの者なのですが……」


「いえ、態度とは裏腹に……足運びに隙がありませんし、音や気配もほとんどしなかったです。僕が——目指しているスタイルに近いですね」


「うむ、良き目を持っておりますな。では……お手並み拝見といきましょう」


「ええ……いきます……!」


 まずは四肢に魔力を通す……。

 そして剣を下段に構えて、地を這うように疾走する……!


「グギャギャ!」


「フゴー!」


 ゴブリンやオークが攻撃を仕掛けてくるが……俺に当たることはない。


「火炎刃!」


 俺は攻撃を縫うようにして……炎の刀でカウンターを決めてゆく……!


「おおっ!まるで……舞っているかのようだっ!」


 そう……俺が考えた戦闘方法はこれだ。

 刀をもらった日から、踊り子だった母上から舞を習っていた。


「母上から習いましてねっ!」


 俺は肉体強化がそこまで得意ではない。

 おそらく、魔法とは別の才能が必要なのだろう。

 なので、緩急をつけた剣技と回避に重点を置くことになる。

 後は一撃の威力……これは魔法剣が解決してくれた。

 舞うことは、俺の戦闘スタイルにドンピシャだったようだ。


「グギャー!?」


「ブモォー!?」


 炎刀により、一撃で沈んでいく……。

 常に動け……!敵に狙いをつけさせるな……!




「ゼェ、ゼェ……やっぱり、鍛錬が足りないな……」


 ほとんどは倒したが……まだ、残っている。

 やれやれ……かっこつかないなぁ……。


「いえ、十分かと思います。後は、某が……いえ、必要ありませぬな」


「え?」


「アレス様ぁぁ——!!拙者にお任せを——!!」


 カグラが魔物に突っ込んでいき……殲滅していく。

 しかも……以前とは違い、周りを確認し、立ち回っている。


「あらら……良いところ持ってかれちゃったな」


 すると、セレナとオルガもやってくる。


「えへへ、カグラちゃんは嬉しいんですよー。アレス様のために戦えるのが……わたしもですよ?」


「そうだと思いますし……僕もですよ」


「そうか……月並みな言葉だが——ありがとう」


 ……ならば、俺は……。


 大切な君達に、そう思ってもらえる自分でいよう。


 そして……そのためにも、もっと強くならなくては……!


 全てを跳ね除けるくらいに……!


 俺と付き合うことで、大切な人が何も言われないように……。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る