第32話懐かしい風景に触れ、懐かしい夢を見る

 俺たちは親交を深めつつ、その後も観光を楽しんだ。


 川が流れる景色を見ながら、お昼ご飯を食べたり……しかも、蕎麦って。


 更には、まさかの甘味に出会ったり……まさか、餡蜜を食べれるとは……。


 うん……俺、ここに通おうと思う。




「いや〜楽しかったな」


「ですね!」


「はい!」


「喜んでもらえて嬉しいです。では、戻るとしましょう」


 日も暮れてきたので、屋敷に戻ることにする。


 屋敷の前には、和風美人である弥生さんが待っていた。

 その後ろには、偉丈夫……当主が仁王立ちしている。


「皆様、お帰りなさいませ。如何でしたか?」


「とても、良いところですね。きっと、この屋敷もノスタルジアの方々に合わせて作ったのでしょうね。それにアラドヴァル家は、ノスタルジアの人々と良い関係を築けていると思われます。きっと、日頃からの接し方のお陰でしょうね。国を代表して、皇帝陛下に代わり、お礼を申し上げます」


「……有難きお言葉、感謝いたします」


「……絶望していたが、まだ希望は残されていたか」




 その後、お風呂に入りながらオルガと会話する。


「そういえば、オルガには兄弟は?」


「姉上がいますよ。ただ、ノスタルジアの各地を転々としてまして……」


「へぇ……自由な方なのかな?」


「まあ……そうですね。お転婆なので、僕は振り回されますよ……」


「ハハ!僕と一緒だね!」


「恐れ多いですが……似てるかもしれないです。今度、会わせますね」


「うん、楽しみにしているよ……あっ——オルガ、帰りは一緒だよね?」


「え?あ、はい、ご一緒しますよ」


「じゃあ、帰りにうちに寄って行ってよ。妹を会わせたいんだ。まだ、うちにも来たことないし……多分、遠慮してると思うけど……もちろん、オルガがイヤじゃ……」


「そんなことはありませんっ!」


「うおっ!?」


「す、すみません……そうです……僕のような男爵子息が、お邪魔して良いかと思っておりました。ですが……もう、やめますね……アレス様——お邪魔しても良いですか?」


「ああ!もちろんさっ!妹も家族も喜ぶし、何より——僕が嬉しいよ」


「て、照れますね……あっ——父上……」


 オルガの視線の先には……ゴーゲンさんがいた。

 ……凄い肉体だ……傷だらけだし、筋肉が盛り上がっている……。


「すまんな、邪魔をして……しかし、良き場面を見れましたな。オルガ、時に遠慮は相手を傷つける……覚えておくと良い」


「は、はいっ!」


「うむ……オルガ、アレス様と二人で話がしたいのだが……」


「わかりました、父上。では、僕が見張りもしておきましょう」


「すまんな……出来の良い息子で助かる」


 オルガは嬉しそうに頷き、風呂から出て行った。


 そして、ゴーゲン殿が少し離れたところで温泉に浸かる。


「フゥ……アレス様、如何ですかな?」


「ええ、とっても良い気分です。毎日入りたいくらいですよ」


「良きことですな……この辺境は扱いが難しいのです」


「え?」


「ノスタルジアとの付き合い、教会からの干渉……本国との付き合い……一男爵には、中々に荷が重く……いえ、申し訳ない」


 そうだよな……。

 男爵っていう地位に見合わない領地。

 重責を担う仕事の数々……魔物の出現率も高いらしいし。

 きっと、皇都の連中はハズレだと思っているのだろうな……。

 だから、男爵家に押し付けているのだろう。


「ご苦労様です……すみません、僕ではお力になれず……」


 俺に力があれば……不遇な扱いを受けている方々をどうにか出来るのに……。

 いや……それは考えてはいけないことだ。

 俺は母上や大事な人達のために強くはなりたいが……その座につく気はない。

 そんなことになれば……父上の兄貴達の、二の舞いになるだけだしな。


「いえ、お話を聞いて頂けただけ有難いです。貴方様は、しっかりした考えの持ち主のようですから」


「……出来る限りのことはします。父上にお伝えしましょう」


「催促をしたようで申し訳ない……」


「いえ、当然のことかと。国の要所なのですから」


「……それを理解している者が、皇都にどれだけいることか……」


「それは……」


「いえ、詮なきことを申しました……明日は、如何なさいますか?」


「そうですね……鍛錬を積むことができる場所はありますか?」


「……魔物が発生しやすい箇所があります。我々が定期的に倒していますが……」


 ……また、足手纏いになるのもアレだが……。

 鍛えるには実戦が1番なのは……変えられない事実だ。


「足手纏いを承知で言います………ご迷惑をおかけしますが、我々も参加して良いですか?」


「……ククク……」


「ゴーゲン殿?」


「いえ、失礼いたしました。あまりに真っ直ぐなお言葉だったもので。命令すれば我々は断れないというのに……オルガは、良き方に出会えましたな」


「それはそうですけど……あまりしたくないですね。こちらこそ、オルガには世話になってますから」


「うむ……では、明日の予定はそれでよろしいでしょうか?」


「ええ、お願いします」


 まだ、休暇は終わってないけど……。


 中々、色々なことがわかってきて、良い時間を過ごせているな。


 魔界のこともそうだし……国境付近のこと。


 ノスタルジアのこと……下の国は危険だし行けないからな。


 何より……あそこを守るのは、四大侯爵が一角。


 最大の力と権力を持つ……フラムベルク家があるからだ。





 その後、風呂から出て食事をとり、早めの就寝時間となる。


 皆が疲れていることもあるし、明日は実戦があるからだ。


 布団にに入った俺も……すぐに意識を手放す……。







 ……これは、また夢か。


 懐かしい日本の風景だ。


 きっと、久々に日本に似たものに触れたからだろうな……。


 ん?アレは結衣……?


 隣にいるのは誰だ……?


 男に見える……もっと近づけ!


 俺の願いが届いたのかはわからないが、視点が変わりよく見えるようになる。


 ここは……俺の墓の前か……。


 結衣が祈るように拝んでいるが……。


 後ろにいる今時の若者は、退屈そうな表情を浮かべているな……。


 もしや……結衣の彼氏か?


 おい?誰の許可を……夢に何を言ってんだか……。


 しかし、正人さんは知っているのか?


 くそっ!夢なのがもどかしい……!




「なあ、もう行こうぜ?」


「…………」


「おいってば!」


「煩いわ……ここはお墓よ。そもそも、なんでいるのよ?」


「いや……だってな……もう、よくね?」


「——何が?」


「こ、怖い顔すんなよ!いつまでも、死んだ人間を想っても意味なくね?」


「貴方には関係ないわ。あの人のこと知らないくせに」


「いや、でもよ……」


「さっきも聞いたけど……そもそも、なんでここにいるの?」


「お前が、また墓に行くって聞いたから……」


「お母さんったら……和馬さんのこと忘れさせようとして……」


「そりゃ、そうだろ!もういないんだぞ!?」


「うるさいっ!そんなことわかってるもん!」


「……ほら、ここに良い男がいるわけだし……なっ?」


「——触らないで。和馬さん、騒がしくしてごめんなさい。また、来ますね」


「おい!?待てって!」


 映像が遠ざかっていく……。


 随分と馴れ馴れしい男だな……。


 どうやら、綾さんが俺を忘れるように言ったようだが……。


 それに関しては、それで良いと思う。


 あんな若くて素敵な女の子が、俺なんかを想っていてはいけない。


 ただ……あの男は良くないな。


 チャラそうだし、自分を押し付けている感じがする。


 ……でも、そうか。


 気づかないフリをしていたが……結衣は、俺のことを……。


 俺とて……いや、今更どうにもならないか。


 もはや——俺と結衣が出会うことはないのだから……。




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