第31話考察をしつつ、観光名所を巡る

 翌朝……朝食を終えた俺は、再び感動の中にいた。


 ただでさえ……お風呂は、温泉だったし。

 暖かいお布団で、和室で寝れたし。

 その上……これを着れるとは……!




「わぁ……!お似合いです!」


「そうかな?カグラとセレナも、よく似合ってるよ?」


「あ、ありがとうなのです……」


「えへへー、ありがとうございます!」


「そうですね、よくお似合いかと思います。特に、アレス様……着付けとか、よく知っていましたね?」


 ……しまったぁ——!?

 つい嬉しくて、自分で着てしまった……!

 いや、俺には伝家の宝刀がある!


「ま、まあね!図書館で勉強した時に見たからね!」


 どうだ!?必殺——図書館って言えば大丈夫の術!

 ……あれ?なんだが……幼児化が進んでいる気がする……。

 これも……そういう兆候なのかな……。

 和馬としてではなく、アレスとしての……。


「さすがはアレス様ですね。やはり、皇族の方しか見れない文献などを読んだのでしょうね」


「そ、そういうことだね!」


 よし!乗り切った!

 発言にも、意識して注意しなきゃなぁ……。

 別にバレるのがイヤとかではなく、転生とか前世とか理解してもらえないだろうし。

 もう少し、大人になったら考えることにしよう……。




 今日は、この格好で観光をすること予定だ。


 なので俺たちは、国境の町であるノスタルにやってきた。


「わぁ〜!着物の人がいっぱいです!」


「アレはなんだ?髪型が……皇都とは、全然違う……」


「僕も、驚きましたよ。皇都に行ったら、いないんですから」


 ……舞妓さん……この世界で見れるとは……。

 建物も、時代劇で見るようなものが並んでいる……。

 何故だ?どうして、ここまで日本よりになっている……?


「オルガからしたらそうなるのか……いや、しかし……」


 迷い人とは……確か……。

 異世界召喚とは別の、世界の割れ目からたまに落ちてくる人間のことらしいが……。

 たまたま最初に来たのが日本人だったのか?

 異世界召喚や迷い人に関しては、教会が秘匿している。

 なので、大した情報が得られなかったからな……。

 100年に一回では、情報も風化するし、限られるし……。


「……レス様、アレス様!」


「ん?セレナ、どうかしたかい?」


「大丈夫ですか?ボッーとしてましたけど……カグラちゃんが行っちゃいましたよ?」


「あれ?ほんとだ、いないや」


「アレス様〜!どうしたのだ〜!?」


 オルガとカグラが先の方で手を振っている。

 ……今は、楽しむとしようか。

 いずれ、わかるだろう……俺が生きている間に、確実に召喚されるはずだからな。




 皆で食べ歩きをしたり、的を狙うゲームや、綺麗な景色を堪能する。


 そんな中、あるものが目に入る。


「あれは……なんだ?」


 鎧や盾を売っているところみたいだが……。

 そんな中に、不自然に着物が混じっている……。

 洋服屋と防具屋が一緒になっているのか……?


「あっ、気になりますか?」


「そうだね……あれは何屋かな?」


「着物も防具なんですよ。特殊な技術により、繊維を編み込んであります。その防御力は、鎧よりも頑丈なものや、特殊な能力があるものも……この世界で、限られた人にしか伝わっていない技術でもあります。あの店は、何百年も前から受け継がれているそうです」


「へぇ……」


 カエラのお父さんもそうだったが……。

 そういう伝統を受け継いでいるのも、日本人らしいというか……。

 それより……刀を持って、着物を着るとか……憧れるよなぁ。

 防御力があるなら、いうこともないし。


「買いますか?」


「そうだね……とりあえず見たいかな」


「私は、隣の武器屋を見てくるのだ!」


「私がついていきますねー」




 2人と別れ、俺は防具屋に入る。


「すみません」


「おや……お坊ちゃんじゃありませんか!」


 そこには、如何にも人の良さそうなお爺さんがいた。


「よしてくださいよ、ゴビさん」


「帰っていらしたんでしたね……はて、どなたかな?」


「初めまして、アレスと申します」


「おや、さすがはオルガ様の連れてくる方だ。礼儀正しく、良い目をしておりますな」


「ゴビさん!この方は第3皇子であられるアレス様です!」


「なんと……!これはこれは……」


「そのままで結構ですよ。ステキな着物の数々ですね?」


 そこには色とりどりの着物が並んでいた。

 俺のよく知るものとは、少し意匠が違うが……。

 それに鎧の他にも、騎士服やローブまであるな。

 教会が近いから、そういったものもあるのだろうな。

 騎士服もいいなぁ……男の子の憧れだよな。


「なるほど……良き方のようだ。はい、ありがとうございます」


「どこから伝わっているのですか?あっ、言えないようなら無理には聞きません」


「いえ、問題ありませんよ。大したことも伝わっていないですし。ただ……もう何千年と前のことなので……ただ、ニホンというところからだと言われております」


 やはり、日本か……。

 ただ、何千年とはどういうことだ?

 ……時間軸が違うのかもしれないな……。

 例えば……俺は生まれてから9年が経っているが……。

 元の世界では、まだ死んだばかりとかな……。


「なるほど……ありがとうございます。では……オルガ、2人を呼んできてくれるか?」


「え?……はい、すぐに」


 オルガが呼びに行く間に、着物を眺めつつ、ゴビさんと会話する。

 どう聞いたら、変に思われないだろうか……よし、これで行くか。


「……どうして、このような街並みになったのでしょうか?皇都とは、あまりに違いすぎますよね?」


 皇都から出たこともないし、写真とかもないからわからなかったが……。

 あまりに、日本人に寄せられている。


「来た方は、皆そうおっしゃっていますね。確か……迷い人の国から来た人は、見た目が異なる方々のようです。髪が黒かったり、金髪だったり、目鼻立ちが違ったり……」


 つまり……地球中の人間が迷い込んでいるのか。


「なるほど……」


「そんな中、金髪の方や茶色い髪の方は、すぐに世界に馴染みました。どうやら、前の世界と風景があまり違わなかったようで」


「へぇ……不思議なこともあるのですね」


「ええ、誠に。しかし、髪の黒い方は、馴染めなかったようです。着物や兜などを身につけていた方々ですね」


 ……見えてきたな。


「なるほど……その方々が、自分が見慣れたものを作っていったということですね?」


「ええ、その通りかと。あとは、後から来た迷い人の方が住みやすいようにと」


「大変ためになるお話でした。ありがとうございます」


「ほほ、もはや誰も気にしないことを聞いていただき、こちらこそありがとうございます」




 その後、オルガが2人を連れて戻ってくる。


「どうしたのですか?」


「わぁ……!綺麗な着物……!」


「では、ゴビさん。赤と黒、青と緑の着物を頂けますか?」


「はい、ではサイズを見ましょうか。どなたが、どれをお召しになりますか?」


「赤を赤い髪の子に、青を青い髪の子に、緑を緑の髪の子に、黒を僕にお願いします」


 銀色は流石にないから、俺の前世の色にしておこう。

 それに、黒の着物とかカッコいいし。


「え!?拙者にですか!?」


「わ、わたしにも……?」


「ぼ、僕もですか?」


「うん、皆にプレゼントしようかと思って……いつも、仲良くしてくれてありがとう。僕は、色々とあるからね……そんな中、仲良くしてれる君達には感謝しているんだ」


「そんなこと!拙者は……!」


「わ、わたしの方こそ……!」


「僕だって……!」


「うん、わかってるよ。だから、これは……僕のわがままだ。今日の記念として、受け取ってもらえると嬉しいかな。そして、これからもよろしく」


 皆が、顔を見合わせて頷く。


「そういうことなら受け取るのです!」


「わたしも!」


「僕もです!」


 ……俺と付き合うことで、不利益があるだろうに……。


 きっと……俺の知らないところで、何か言われることもあるだろうな……。


 それでも……こうして、仲良くしてくれるんだ。


 俺を信じてくれる仲間のためにも……。


 俺は……強くなってみせる……!

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