第30話side~蠢く悪意~

 ……気にくわない!


 何故、出来損ないであるアイツにっ!


 この聖痕を持つ、正当なる後継者の俺が……!


 あんな大勢の前で恥をかかさせるとは……!




「クソがっ!!」


「ライル兄上、落ち着いてください」


「これが落ち着いていられるかっ!奴は……この俺に恥をかかせたんだぞ!?」


 次期皇位継承者である——この俺様にっ!!

 聖痕もない出来損ない如きがっ!!


「確かに、気にくわないですけどね……ただ、父上からも注意されましたし……」


「それだっ!何故、嫡男であり聖痕を持つ俺より……奴を優先する!?」


「それは……やはり、あの女の子供だからでしょうか?」


「俺にはちっとも構ってくれないのにな……今度は、妹まで出来ると言うし……なおさら気にくわない……!」


 母上が言うには、父上は俺らを愛していないそうだ。

 愛しているのは、出来損ないとその家族だと……!


「それには同意します。母上も寂しそうですし……全部、あの女が悪いのです!父上を籠絡して……!」


「あの色気は凄いからな……この歳になってきてわかるが……このままでは、アイツが……いや、流石にそれはあるまい……聖痕も持たぬ奴に継がせるはずが……」


「や、やめてくださいよ!そんな恐ろしいこと……」


「くそっ!……外でも行って、憂さ晴らしでもしてくるか」


「おっ、良いですね。我々の特権ですからね」


 そうだ……この俺に刃向える者などいてはならない……!

 全ての者は——俺にひれ伏すべきなんだっ!







 ヘイゼルと共に、皇城の純粋たる皇族専用の居住区を歩く。


「下級貴族にします?平民にします?」


「クク、そうだな……ん?」


 居住区の入り口付近の、人目のつかないところで会話をしているのは……。


「母上……それに、ノーラさん……宰相まで……」


 母上であり第一王妃でもある、ゲイボルグ侯爵家出身のゲルマ母さん。

 ヘイゼルの母で第二王妃の、ロレンソ伯爵家出身のノーラさん。

 最後に……この国の宰相である、トライデント侯爵家出身のモルダ殿。


「何を話しているのでしょうね?」


「わからんが……気になるな。しかし、話しかけられる雰囲気でもないな……」


 何やら、不穏な空気というか……俺ですら入り込めない感じだ……。


「私がやりますよ……風よ……音を届けたまえ……」


 ヘイゼルの得意の風魔法により、声が聞こえてくる……。

 こいつの聖痕の能力は、魔力の高さにある。


「人払いは……?」


「完璧です。誰も通さないように言っております。皇子達には、最悪聞かれても問題ありませんし」


「まあ、そうね。でも、なるべく聞かせたくないわ」


「余計なことは気にせずに、成長してほしいですからね」


「……まあ、それは任せます」


「それで……手はずはどうなってるのかしら?」


「ならず者を雇い、襲わせます」


「いつなの?」


「どうやら、アラドヴァル家に行くようです。その帰り道に仕掛ける予定です」


「なるほど……勝算はあるのかしら?」


「正直言って、厳しいかと。ブリューナグ侯爵家の護衛がいますから」


「あの忌々しいブリューナグ家めっ!侯爵家のくせに、あの出来損ないに肩入れして……!」


「それに、口煩いですよね。もっと贅沢を控えろとか、民のことを考えろとか……そんなことは、下々のもの達が考えること。私達が考えることではないですね」


「全くよ!そのくせ自分達には、お金がないから寄越せだ……食糧を送ってくれだ……好き勝手やってるのはそっちじゃない!」


「やれやれ……私も困っております。戦いばかりしてる奴らには、私達内政の苦労などわからないのですよ」


「それで……ならば、どうするの?」


「失敗しても良いかと思っております。大事なのは、狙われているぞと警告すること。というか……流石に殺してしまってはまずいですからね……それは最終手段です」


「どういうこと?」


「……なるほど。お姉様、つまりは……これ以上余計なことをすれば——不幸な事故も起きるぞと思わせるのですよ」


「ノーラ様の言う通りです。それに……いつどこから来るかわからない刺客に、9歳の子供が耐えられるわけがない。あとは、勝手に大人しくなるでしょう」


「そういうことね……フフフ……アハハッ!良いわ!それ!」


「お姉様……!声が……」


「あら、ごめんなさい。つい嬉しくて……あの出来損ないが怯える姿を想像すると……あの女が、それを見て悲しむ姿を……フフフ……」


「まあ……気持ちはわかりますね。あの生意気な顔が、怯えるところを想像すると……ふふ……堪りませんね」


「私もうんざりしておるのです。何故、出来損ないのために警備などを出さなくてはいけないのか……平民街に行きたいなら、勝手に行けばいいのです」


「あら、今度は平民まで媚を売っているのかしら?」


「まあ、まさしく出来損ないに相応しい行動ですね」


「ええ……というわけで、大人しく家に引きこもっていれば良いのです。では、そういう手筈でまいります」


「ええ、頼むわ」


「さて……楽しみ」


 俺達は顔を見合わせて、その場を離れる。




「聞いたか?」


「はい、これは……いい気味ですね」


「ああ、あの出来損には痛い目にあってもらおう」


 ……クク……出来損ないの分際で出しゃばるからだ。


 これを機に、大人しくしてるんだな……。


 帰ってきたアイツが……どんな顔をしてるか……。


 今から楽しみだ……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る