第29話オルガの家……そして、懐かしさを感じる

 結局、姉上は泊まっていき、翌朝帰って行った。


 母親に何か言われるだろうが、父上がどうにかすると言っていた。


 俺に出来るのはこれくらいだからと……。


 きっと……大変なのだろうと思う。


 俺とて前世では、社会人を経験し、営業マンとして働いていた。


 そんな中、社長や上役の方々の話は、よく聞かされていた。


 決して楽なことなどなく、日々の苦労話などを……。


 下と上との調整、会社全体のこと、他の会社との付き合い……。


 規模や重圧は違うだろうが、どこかしら共通点があると思う。




「さて……では、母上、カエラにエリカ。行ってきます」


「ええ、気をつけて行ってらっしゃい」


「お気をつけて。エレナ様と、エリカ様はお任せください」


「……私が、この命に代えてもお守りしましょう。安心して、楽しむと良いかと」


「カイゼルがいるなら、安心だね。じゃあ、よろしく頼むね」


「御意」




 カグラとセレナと合流して、皇都を出発する。


「悪いね、カグラ。今日も、護衛や馬車を出してもらって……」


「いえ!むしろ、うちの者達は喜んでおります。アレス様は、大人気ですから」


「え?そうなの?」


「はい!あの挨拶は素晴らしいと。我々の苦労をわかってくださる方だと……その他にも、色々と申しておりました」


「そうか……そんなことを……」


 恨まれる覚悟もしていたけど……。

 いや、だからと言って……俺の罪が消えるわけではない。

 戒めとして、これからも気を引き締めていこう。


「私の両親も、褒めてましたよー。街のみんなにも、伝えてるって」


「それは……有り難いが、止めてくれるように頼まなくてはね」


「え?なんでですか?」


 王妃達や取り巻きに知られたら、面倒なことになりそうだからな……。

 うーん……セレナには、まだこういうのは早いかも。

 それに平民の方々には、俺らの事情はわからないだろうし……。


「色々と、あるんだよね。まあ、今度……僕から説明しとくよ」


「は、はい……」


「落ち込まないで、セレナ。気持ちは、とても嬉しいから」


「アレス様……はいっ!」





 馬車は進み……日が沈む前に、到着することができた。


「アレス様!」


「やあ、オルガ。久しぶり」


「ええ!お待ちしておりました!」


 オルガの後ろでは——着物を着た偉丈夫が、直立不動の姿勢で立っていた。

 実際に見たことはないが……まるで、侍か武士のようだ。

 懐かしい……少し違うが、剣道着を思い出すし……。

 何より、日本人としての記憶を呼び覚ます……。


 ……おっといけない……見惚れてる場合じゃない。

 このタイプは、おそらく……俺が話しかけるまで動かないタイプだ。


「オルガの父上でございますか?」


「はっ!某の名は、ゴーゲン-アラドヴァルと申します。此度は、皇都より御足労して頂き、誠にありがとうございます」


 ……うん、固い……。

 ……オルガが、真面目に育つわけだ。

 如何にもな、武士って感じだ。


「ご丁寧にありがとうございます。ですが、今回は皇子としてではなく——息子さんの友人としてまいりました。出来たらで良いので、楽な姿勢にしてもらえると助かります」


「…………」


 ゴーゲンさんは、俺の目をじっと見つめてくる……。

 これは……逸らしてはいけない……。


「……うむ、良き目をしておりますな」


「父上っ!失礼ですよ!」


「いいんだ、オルガ。当然のことだ」


「佇まい……言葉遣い……胆力……失礼いたしました。息子から、貴方様のお話は聞いておりました。そして、皇都での噂も……某は、自分の目で見たものしか信じないタチで……」


「それで、どうですかね?」


「文句なしかと存じます……皇族の方を試すようなこと……申し訳ございませんでしたっ!!」


「頭を上げてください。国境を守る家として、国を想う貴族として、当然のことだと思います」


「ほらっ!父上!アレス様は、そういう感じは苦手なんだってっ!もっと、お気楽にっ!」


「オルガ?それはそれで——君が失礼かな」


「はっ!……すみません!」


「良いよ、オルガ。普段、僕をそう思ってたんだね……スン」


「ち、違います!こ、これは、その、親しみやすいといいますか……」


「クク……冗談だよ、オルガ。君も、案外子供らしい一面もあったんだね?」


「そうなのだっ!そっちの方が良いのだっ!」


「わたしも、そう思います!」


「えっと……善処します……」


「クハハッ!愉快!愉快!息子を皇都に行かせるか迷いましたが……良き主君と、良き友に恵まれたようですな……皆さま、感謝いたします」


「いえ、こちらこそ。オルガはしっかり者で、僕らは助けられていますよ」


「そうなのです!」


「はい!」


「て、照れますね……」


 ウンウン……やっぱり、大人びて見えても子供だもんな。

 家だと気が緩むのかもね。

 でも、これだけで来た甲斐があったかな。



 その後、オルガの家に案内され……俺は感動する。


「や、屋敷だっ!!」


「おや?アレス様は博識ですな」


 ……まずい。

 つい、口から出てしまった……。

 どう誤魔化す……?こうなったら……。


「え?……まあ、図書館で見たことがあったので……」


 どうだ!?見たことないけど!


「なるほど、それならば。では、まいりましょう」


 ほっ……どうやら、正解だったようだ。




 中に入ると……着物の人が沢山いる……。

 これは、決定的だな。

 迷い人の中の日本人が伝えたのだろうな。

 もしくは……迷い人本人が作ったか……。


「弥生!」


「いますよ、貴方。アレス様、皆さま、オルガがお世話になっております。私は、オルガの母で弥生と申します」


「よろしくお願いします」


「お願いするのだ」


「お願いします!」


「ええ。では、部屋に案内いたしますね」


 通された部屋は……和室だった!


「イ、いやっほー!!」


 俺は堪らず、畳の上をローリングをする!


「ア、アレス様!?」


「どうしたんですか!?」


 おっといけない……。

 懐かしの光景に、つい理性が……。

 だが……止められない……!


「2人とも……男には、やらねばならぬ時があるんだよ」


「アレス様……それ、絶対違いますからね?」


「クハハッ!良いではないか、オルガよ。気に入って頂けたということだ」



 その日の食事も……和食だった……!

 おっと……それは普通だったな。

 一応この世界には、イメージ的には和洋中の料理がある。

 形や種類は違えど、似たようなものになっている。


「ただ……畳で食べると、一層際立つよなぁ……」


 雰囲気って大事だと思う。


「アレス様、ずっと嬉しそう……むぅ……」


「ハハ……カグラちゃんが拗ねちゃった……」


「え?……カグラ、決して君の所より良いということではない。種類が違うだけだ。そんな拗ねた顔も可愛いけど、いつもの元気な顔のが素敵だよ?」


「な、な、なっ——!?」


「カグラちゃん、顔真っ赤だよー?」


「そ、そんなことないのだっ!あぅぅ……」


「フゥ、誤魔化せたかな」


「アレス様……今、なんと?」


「しまった……僕としたことが」


「むぅ〜!」


「ほ、ほらっ!食べよう!ねっ!?」


「楽しいですね、セレナさん」


「はい!やっぱり、4人が良いですねっ!」


 久々の集まりに、皆のテンションも上がる。


それに……皆も、皇族の俺に対する遠慮がなくなってきたな。


もちろん、嬉しいことだ。


 そんな中、俺は……久々の再会はもちろんのことだが……。


 何より……和室で、布団を敷いて寝れることに感動していた……。

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