第28話カグラとセレナ……そして姉上と

 カエラと母上の事情を知ってから数日後……。


 こちらに帰ってきたカグラと、セレナが揃って遊びにきた。


 そして……俺は念願の物を手にすることが出来た。


「アレス様!お久しぶりなのだ!」


「久しぶりだね、カグラ。やっぱり、君がいると元気が出てくるね」


「そ、そうですか……」


「カグラちゃん、可愛い〜」


「むぅ……からかうでない!セレナの方が可愛いのだっ!」


「わわっ!?揉みくちゃにしないで〜!?」


 ウンウン、仲が良くてよろしい。

 微笑ましい光景に、俺は気持ちが暖かくなるのだった……。



 その後、カグラが気づいたようだ。


「おや?アレス様……それは?」


「ふふふ……気づいてしまったかい?」


「えっと……アレス様?」


「ダメだよ、カグラちゃん。大人しく聞こう……」


 いかん……あまりの嬉しさにテンションがおかしい……!

 だが——無理もないと思うんだよ!

 なぜなら……。


「これは……刀だっ!」


 俺は腰にある鞘から——剣を抜く!


「わわっ!?」


「おおっー!」


「ふふふ……どうだい?この輝き……綺麗だろ?」


「何回見ても綺麗ですねー」


「凄いのだっ!それは何なのですか!?」


「ノスタルジアの一部にのみ伝わる刀というものらしい」


 カエラの部屋の、奥の方に仕舞ってあるのを出してもらった。

 そして、そのうちの1本を貰うことが出来たのだ。

 もちろん、俺はまだ身長が150センチ程度なので、小太刀より少し長い物を頂いた。

 俺が成長すれば、大きい刀もくれると……。

 まさしく、灯台下暗しとはこのことだろう。


「剣とは違うのですね……反り返っているのですか……」


「扱いは難しいけどね。カグラみたいなパワータイプには向かないかもしれないね」


「むむっ!拙者だって……言い返せないのだ……」


「いやいや、褒めてるから。類い稀な魔力強化の才能を持っているということだよ」


「なら、いいのです」


「えへへ〜、久しぶりで楽しいねっ!」


「そうなのだっ!」


「おっと、出発前に妹のエリカに挨拶してくれないか?明日は時間ないしな」


「ぜひっ!」


「可愛いんだよ!とっても!」


「間違いないね」


 母上に挨拶をして、エリカに会わせる。


「こ、こんにちはなのだ……可愛い……拙者、兄がいて末っ子なので、初めてなのだ……」


「可愛いよね〜私も、何度も見にきちゃった」


「あう〜、うー?」


「エリカ〜、未来のお姉ちゃんになるかもしれない子達よ〜。可愛がってもらって、しっかり顔を覚えなさいねー?」


「そ、それは……あぅぅ……」


「ふぇ……?あっ——はぅ……」


「あう!」


「あら、認めてくれるみたいよ?」


「母上、勝手なことを言わないでくださいよ……」


 エリカは、わかっているんだかわからないが……。

 無邪気に笑っている……鼻血が出そう……可愛い。

 あれ?俺って……兄馬鹿だったのか……。



 遊んだ後、明日の準備のために、2人は帰った。

 明日は朝早くに出て、オルガの実家に遊びに行くからだ。



 そして……その日の夕飯が終わったころ……。

 玄関の外から、聞き慣れた声が聞こえてきた……姉上だ。


「ご、ごめんなさい!」


 俺と母上は顔を見合わせる……。


「どうしたのかしら……?」


「わかりませんが……エリカが生まれてから、一度も来てないことと関係があるのかもしれないですね」


 そうなのだ……忙しいから来れないかと思っていたが……。

 俺も、最近は会えていなかったし……。

 あとは……俺が会いに行くことで、姉上が何か言われないように……。

 出産の時に、一悶着あったからなぁ……。


「えっと……私が行きますか?」


「いや、カエラ。とりあえず、僕が行ってくるよ」


 玄関を開けると……カイゼルに深々と頭を下げている姉上がいた……。

 そして……後ろには父上が。


「カイゼル……どういうことだ?」


「いえ……私にも……ヒルダ様、顔を上げてくだされ。皇族の方が、むやみに頭を下げるものてはありませんぞ?」


「で、でも……お母様が、カイゼルに酷いこと言ったって……」


 ……なるほど、あの夜のことか。

 もしかして、それを気にして……?


「私は気にしていません。何より、謝るべきは貴方様ではない」


「ヒルダ姉さん、こんばんは。父上も」


「おう、俺はただの付き添いだから気にすんな。ほら、ヒルダ。言いたいことがあるんだろ?」


「あ、アレス……あ、あのね……私、お母様に行くなって言われてて……で、でも、どうしても謝りたくて……また、お母様が酷いこと言ったって……だから……お父様に頼んで……」


 文章がめちゃくちゃだが……まあ、なんとなくわかる。

 こんな弱々しい姉上を見るのは初めてだけど……。


「僕は気にしてませんから。姉上と、その母親は別物です」


「で、でも……」


「それより……妹に会ってくれませんか?」


「え……?」


「大好きな姉上に、会ってほしいんです……ダメですか?」


「……う、うわーん!!ァァァ——!!」


「姉上……」


 ど、どうしたというのだ?

 何故、泣いているんだ?


「ほら、言ったろ?アレスは、そんな器の小さい男ではないって」


「……グスッ!で、でも!私は……アレス達に酷いことしてるお母様の子で!今回も、赤ちゃんに向かって酷いこと言って!私には……その子に会う資格がないって……!アレスにも……!」


 なるほど……見えてきたな。

 俺はバカか……!

 歳上とはいえ、まだ12歳の子供だ……!

 母親がそんなことしたら——気にするに決まってるじゃないかっ!


 俺は姉上に近づき、そっと抱きしめる……。


「そんな寂しいこと言わないでください。僕は、大好きなお姉ちゃんに会えないと寂しいですよ?ヒルダ姉さんがいなかったら——誰が、僕を可愛がってくれるんです?」


「ア、アレス……ごめんなざい!……ありがどゔっ!」


「歳ですかな……涙腺が……」


「鬼の目にも涙か……が、泣いている俺が言うセリフじゃないな………立派になりやがって……」




 その後、泣き止んだ姉上を連れて、父上と共に母上達のところへ行く。


 俺と父上は、黙って見守ることにする。


「ヒルダちゃん、こんばんは」


「ヒルダ様、ご無沙汰しております」


「エレナさん、カエラ、こんばんは……あ、あの……私……」


「何も言わなくて良いわ。丸聞こえでしたもの……エリカ、血の繋がったお姉ちゃんがきましたよ〜?」


「え……?」


「ほら、もっと近くに来てちょうだい」


「……良いんですか?」


「もちろんよ、貴女の妹よ。挨拶してあげて?」


 姉上は恐る恐る、抱かれているエリカに近づいていく……。


「こ、こんばんは……」


「あうー?」


「か、可愛い……」


「触ってあげて?」


「え?で、でも……」


「あら?可愛がってくれないの?」


「わ、私は……」


「もう、仕方ない子ね」


 母上は姉上の手を取り、エリカの手に触れされる……。


「あっ——」


「誰が何を言おうと関係ありません。貴女が、もしよければ……この子を、エリカを……妹して可愛がってもらえないかしら……?」


「グスッ……は、はぃ……!ありがどゔございます……!」


「あいー!」


「わ、笑った……?」


「お姉ちゃん、よろしくねーって言ってるのよねー?」


「あうー!」


「そ、そうなの?……し、仕方ないわね!私がお姉さんとして可愛がってあげるわ!エリカ!貴女を立派な淑女にしてみせるわ!」


「あいー!」


「ふふ……良かったわね、エリカ。素敵なお姉ちゃんが出来たわね……」


「……父上……止まりません……」


「……俺もだ……それに……相変わらず、良い女だ……!」


「ほら、貴方達も。家族団欒しましょう?もちろん、カエラも」


 皆でエリカを囲むと……。


「あうー!あいー!」


 エリカは笑顔を見せるのだった……。


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