第27話母上とカエラの事情
妹が生まれてから、早くも1ヶ月が過ぎていた。
日々の成長や、お世話で忙しない日々。
自主勉強やカイゼルとの稽古、セレナとの交流や魔法の修行。
そんな日々を過ごしていたら、既に長期休暇も残りわずかとなっていた……。
そんな時、帰郷しているオルガから手紙が届いたのだった……。
「長期休暇が終わる前に、うちに来ませんか……か」
「あら、良いじゃない。アレス、行ってきなさい」
「そうですよ!良いところですから」
「母上とカエラの故郷が近いんだよね。そりゃ——行ってみたいけど……」
「あー、うー」
俺の横ではエリカが笑っている……可愛い。
結衣の小さい頃を思い出す……。
そういや……前世でも、俺が子供の時に結衣が生まれたんだった……。
まさか……また、こんな幸せな気持ちを味わえるとはな……。
「エリカが心配だし……」
この子は聖痕持ちだ。
女の子だから継承権はないが、色々と面倒なことになるかもしれない……。
もちろん、聖痕がないよりはいい。
不貞を疑われる心配がなくなったということなのだから。
あとは……俺が跳ね除ければいい話だ……!
「ふふ……兄バカね、アレスは。大丈夫よ、この子のことは。健康だし、元気な子で手間もかかる子ではないから」
「私にお任せください!カイゼルさんもいますし!」
「……そうだね、行ってこようかな。約束したし、一度は行っておきたいし……」
そういえば……二人から親の話は聞いたことがない……。
何となく聞き辛い空気を感じ、今まで聞くことはなかった……。
「ふふ……優しい子」
「え?」
「私達に、故郷について聞いていいのか迷っているのね?」
「あっ——アレス様には、話していませんでしたね……」
「あまり、楽しいお話ではないものね……もちろん、不幸な話でもないのよ?カエラが良ければ……聞かせてあげるわ」
「カエラ、無理はしなくて良いからね」
「お気遣いありがとうございます。アレス様は、この短期間で立派になられまして……私も、いつまでも卑屈ではいけませんね……エレナ様、大丈夫です」
「そう……まず初めに、私とカエラには親がいないわ」
「……それはどういう意味で……?」
「私は幼い頃、商人だった両親を魔物に殺されたわ。これは、特別珍しいことではないの。もちろん、悲しかったけれど……今は平気だわ。理由はわかるわよね?」
「僕や、エリカに父上。カエラや、カイゼルがいるからですね?」
「ええ、そうよ。両親が、私を逃してくれたけど……子供の私には、どこに行って良いかわからなかった……当てもなく彷徨っていたところを、旅の一座に拾われたわ」
「旅の一座……芸を披露するような方々ですか?」
「ええ、それで合っているわ。私はそこでお世話になり、雑用やお手伝いをしながら稽古をして、大人になる頃には踊り子として活躍していたの。そんな時、魔物に襲われてる旅人を発見したわ」
「それが、私なのですよ。父と旅をしていたのですが……突然魔物に囲まれてしまい、危ないところを助けて頂きました……その際に、父は亡くなりましたが……」
「そうなのか……それで、母上が面倒を?」
「ええ、そうよ。同じような境遇で、どうしても放って置けなかったから……」
「私は母を知りません。父もよくわからない方でしたし……」
「よくわからないとは……?」
「父は刀という特殊な剣を作っていました。代々受け継がれる秘中の秘の製法により……いつか神を殺す刀を作ると……そのために、人々から迫害を受けてきたそうです……」
「神を殺す……?女神をか……?」
それは……異端だろうな。
しかし……刀だと?
あるのか、この世界に……。
俺も図書館などで調べていたが、全く見つからなくて諦めていたものが。
俺の身体や知識は、刀の方が圧倒的に向いているからな。
「ええ、そうだと思います。理由はわかりませんが、恨みがあると……エレナ様は、そんな得体の知れない私を可愛がってくださいました。私にとって……その、姉のような存在です」
「この子は、私の妹よ。得体の知れない人じゃなくて、私の大事な妹。アレスは?」
なるほど……俺に黙っていたのは、それが原因か……。
ならば、俺の言うことは決まっている。
「カエラ」
「は、はぃ……」
「君が何者かなど——どうでもいい。僕にとって、君は姉であり大事な家族だ」
「あ、アレス様……」
「ほら、言ったでしょ?うちのアレスは、そんなことで嫌いになったりしないわよ」
「はい……アレス様、ありがとうございます……」
「礼はいらないよ。だって——当たり前のことだから」
それに……俺にも隠してることはある。
今はまだ言えないが……覚悟が決まったら、いずれ伝えるとしよう。
闇魔法やドラゴンのことを……そして——転生のことを。
その後、暗い話を振り払うように、母上が話し出した。
「それでねっ!その旅の一座の公演をしていた時に、ラグナに出逢ったのよ!」
まるで少女のようにキラキラした瞳で、母上は興奮している……。
「そ、そうなんですか」
「アレス様、お覚悟を決めてください。これは長くなりますから。今までは、私にしか言いませんでしたが、これからはアレス様も一緒ですよ?」
「ハハ……頑張るよ」
「あの人ったらね——私を見るなり……結婚してくれって!君しかいないって!キャーー!」
……結局、母上のノロケ話は延々と続いたのだった……。
、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます