第26話side~カグラ~

 試験が終わり、長期休暇に入ったので、拙者は実家に帰ることにした。


 今回は一人で帰るということで、少し寂しくもある……。


 そんな帰りの馬車の中……拙者は、この学校に入る前のことを思い出していた……。





 拙者の名は、カグラ-ブリューナグ。


 この国の、四つある侯爵家の家に生まれたのだ。


 拙者の家は代々、魔界から溢れてる魔物を倒す役目を担っている。


 他の貴族が遊んでいる間も、日々戦いに明け暮れたり。


 なるべく贅沢も控え、その分を民に渡して、拙者達の家自体は質素に暮らしたり。


 当たり前の話だが、他の貴族よりも何倍も苦労している。


 だというのに……我が家の扱いは、良いとは言えない。


 平和を守っている我が家を、戦うしか能のない家とか、口煩い貴族とまで言われる……。


 何故なのだろう?


 もちろん、守ってやってるんだっ!なんて気持ちはないけれど……嘘だ、少しあったのだ。


 拙者は5歳から、王都の別宅と本宅を行き来しつつ、そういうことを知っていったのだ。


 最初は驚いたのだ。

 何もしてないのに、偉そうにしている貴族……。

 その親にそっくりな、同い年くらいの子供達……。


 それに……拙者が正しいと思う行動をすると、皆が変な目で見てくるのだ……。

 弱いものイジメは止めろとか、民や兵士に感謝しないのか?とか……。

 拙者は……そうやって育ってきたし、両親がそうしてたから……。

 拙者がおかしいのか?変なのか?皇都にいるやつらが普通なのか?


 それでも、拙者は……とある願いがあったので、貴族の集まりに参加し続けた。

 ……拙者の憧れる人は、いないのだろうか……。

 拙者は、ノスタルジアの本を読んだことがある。

 そこには主君に命を捧げたり、敬意を払い忠誠を誓う、実話を元にした物語があった。


 拙者は感動した!

 拙者も、こんな気持ちになれる主君に出逢いたい!

 ……でも、いなかったのだ。

 いくら参加しても、親の凄さを自分の凄さと勘違いしている奴ら……。

 自分たちが誰のおかげで生活できているのか、理解していない奴ら……。


 そんな時……最後の望みが絶たれたのだ。

 皇子様と会う機会があったのだが……とても、忠誠を誓える相手ではなかったのだ。

 拙者は……もう諦めて、本宅に帰ろうとした。

 学校に入る年を迎えたから、そっちの学校に行こうと……。

 しかし……そんな時、父上が言ったのだ。


「カグラ、お前はまだ幼い。判断を決めるには早すぎる。皇都の学校に行ってみると良い。もしかしたら、お前のお眼鏡に叶う人がいるかもしれないぞ?」


「そうですかね……でも、父上がそう言うなら……行ってみることにします」


 正直言って……そんなに、期待はしていなかったのだ。

 だって、貴族の集まりに参加していた奴らが入学するから……。

 もう、会っていない貴族はそんなにいないはずなのだ……。



 ……だが、運命の出会いが待っていたのだ。

 あれは……学校の入学式のことだった……。




 拙者は校門をくぐり、辺りを見渡す。


「どれもこれも……知ってる顔……やはり、いないのか。拙者の憧れるような人は……」


 そんな時、騒ぎが起きた。


「あれは……ゲイボルグ家の者か……」


 平民を虐めているのか……。

 何という……ここでは、身分は関係ないはずなのに……。

 止められるのは……拙者くらいか。

 拙者が動き出そうしたその時——あの方は現れたのだ。


「何と……侯爵家の者に物申した……それも、あくまでも穏便に……」


 しかも、その後——とんでもない事実が判明する。


「お、皇子様!?あ、あんな方が……」


 拙者の胸は、感じたことのない気持ちになった……。

 嬉しい?苦しい?

 とにかく、胸がいっぱいになったのだ……!


「こ、声をかけても良いのだろうか?……よし、行ってみるのだ!」


 拙者は勇気を出して、声をかけることが出来たのだ……。





「そうだ……あの日から、拙者の景色は変わったのだ……」


 偉ぶらず、謙虚な姿勢。

 だが、言う時は言い……やる時はやる。

 平民にも貴族にも、分け隔てなく接する……。

 悪いと思ったら謝り、感謝をしたらありがとうと言う……。


「そんな当たり前のことが、拙者には眩しかった……」


 あれこそが——絵本の中で見た主君の姿だと思った……。

 努力を惜しまず鍛錬を積み、理不尽な扱いにも挫けることない精神。


「拙者は……アレス様こそが……探していた方だと


 忠誠を誓うに値する、素晴らしいお方だと……。

 この方に仕えたいと……一の騎士として。


「で、でも……アレス様はずるいのだ……」


 こんな可愛くもない拙者に、可愛いとか言うし……。

 拙者が欲しい言葉をくれたり……。


「本気で相手になる……嬉しかった……」


 そんな人はいなかったから……。

 地元ですら、侯爵家の長女として、一応気を使われていたし……。


「拙者は……アレス様の側にいると——ドキドキするようになってしまったのだ……」


 命がけで……拙者を助けたりしてくれたりするし……。

 あ、あんなのは……反則なのだ……!

 情けないと思う一方で——とても嬉しかったのを覚えているのだ……。


「……拙者は……アレス様が好きなのだ……」


 でも……忠義を尽くす相手に——皇子様に——恋をして良いのだろうか?


 拙者のこの気持ちは……許されることなのだろうか……?


 ……正直言って、まだわからないけど……。


 一つだけ言えることがあるのだ。


 アレス様は、中々厳しい状況に置かれているようなのだ……。


「アレス様……拙者は貴方をお守りします……好きになった貴方を、忠義を尽くすと決めた貴方を……必ずや強くなり、貴方の力になってみせます」


 ……だから……これからも——側にいても良いですか……?




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