第25話妹が生まれる、そしてカイゼルの話

 前期試験も終わり、無事に合格することができた。


 今年のクラスは優秀な人材が多く、クラス替えはないそうだ。


 そんなわけで、前の世界でいうところの夏休み?に入った。


 長期休暇のようで、領地に里帰りしたり、小遣い稼ぎなどをするらしい。


 ただ、一年を通して気温や湿度が変わらないので、季節感はまるでない。


 元々、この世界にいる人間からすればなんてことないが、俺からしたら不自然だ。


 さて……そんな中、いよいよ始まったようだ。




「エレナ様!頑張ってください!あと一息ですから!」


「うぅー……アァァァ——!!」


 母上!?大丈夫なのか!?


「か、カイゼル!どうしよう!」


「落ち着きなされ。こういう時、男はどっしり構えているものです。どうせ役には立たないのですから」


 ……カッコいいんだか、情けないんだかわからないセリフだな……。

 だが、カイゼルの言う通りか。

 前の世界でも、男ってそんなものだったな……。




 しばらく、外で待っていると……。


「アレスゥゥ——!!エリナは!?娘は無事か!?」


「父上、男とはどっしり構えているものですよ?」


「ククッ……!クハハ!」


「カイゼルが笑った……まあ、確かに言われたことを言っただけですけど」


 最近は、カイゼルも少しずつ話してくれるようになってきた。

 口調も柔らかくなってきたり、優しい笑顔を見せることも……。

 理由はわからないけど……嬉しいな。

 父上には悪いけど、もう1人の父親みたいに思っているから……。


「お前たち、仲が良いなぁ……お父さんは複雑だよ……」


「いや……失礼。そうですぞ、皇帝陛下……いや、ラグナ……情けないことを言うな」


「カイゼルに、そう呼ばれるのも久しいな……口調も……」


「今、生まれるところだ。カエラ達に任せれば平気だろう。ラグナ……今日は皇帝としてではなく、ただの父親して過ごすと良い。この俺が——何人たりとも邪魔はさせん」


「カイゼル……すまない、恩にきる……!」


「カイゼル、僕からもありがとう」


「いえ……たまには許されるべきです。愛する家族と過ごすことが、どんなに大事か……早速、邪魔者がきたか……お二方、早く中にお入りください」


 カイゼルの視線の先には……取り巻きを連れた、第一王妃と第二王妃がいた……。


「そこを退きなさい!子爵家出身如きが、私達の道を塞ぐとは何事ですか!」


「貴方……そんなに大事?やっぱり、生まれた娘も自分の子だからかしら?」


 こいつら……!

 まだ、そんなことを言っているのか……!


「あんたら……!」


「お前達……!」


「黙れい!!小娘共がっ!!」


 大気が揺れるかのような咆哮が響き渡る!!


「ヒィ!?」


「ッ——!?」


「家柄しか誇る物のない小娘共が!どうしても通りたければ——この俺を殺すんだな」


「な、生意気なっ!お前達!望み通り殺してやりなさい!」


「そうね。本人が言いましたからね」


「む、無理です!カイゼル殿は、最強の騎士!我々が束になったところで……」


「退きましょう!奥様方!カイゼル殿は本気です!何より……皇帝陛下がいらっしゃっいます!!」


「クッ!お前さえいなければ!!」


「陛下……そうね、流石にまずいわね。お姉様、退きましょう」


 そう言い残して、奴らは去っていった……。

 あの、頭に血の上った状態の王妃達を一喝するとは……。

 口調も違うし……これが、本来のカイゼルなのか?

 ……カッコいい……尊敬に値する大人の姿だ……。



 その場をカイゼルに任せて、俺と父上は家の中に入る。


「カイゼル……凄かったですね」


「そうか……お前は知らないか。鬼の近衛騎士団長と言われた、カイゼル-ローレンスを」


「確かに、鍛錬の時は厳しい方ですけど……それ以外は物静かで、優しい方のイメージですね」


「怖かったぞ?あいつは……誰も近寄れない鬼のようだった……先帝以外にはな……もしかしたら……お前が、先帝に——親父に似ているからかもな……」


「そうなのですか?カイゼルも、以前言っていましたけど……」


「ああ、似ているな。身分に関わらずに平等に接するところや、道理に合わないことを嫌うところとか。優しくて、穏やかなところも……あいつはな、妻を亡くしていてな……」


「え?」


「病によって、若い頃にな……だから子供もいないし、再婚もしなかった。親父が引き止めなかったら——死んでいただろうな……」


「そうなんですね……」


「お前を……息子のように思っているのかもな?」


「それは……まあ、嬉しいです。父上には申し訳ない気もしますが……」


「いやいや、俺も嬉しいさ。俺も、兄貴のように思ってたしな。上2人には嫌われていたし」


「僕と一緒ですね?」


「そういうことだ。まあ、俺は才能だけはピカイチだったしな」


「自分で言います?」


 そんな、久々の親子の会話をしていると……。


「オギャー!オギャー!」


「父上!」


「アレス!」


 2人で目だけ合わせて、部屋の前で待機する。


 すると……扉が開き、カエラが出てくる。


「お2人共、無事に産まれましたよ。さあ、お入りください」


 2人で、ベットに横たわる母上と……その横にいる、小さな命と対面する。


「ラグナ……アレス……エリカよ、新しい家族……」


「オギャー!」


「ど、どうすれば?父上?」


「お、俺とてわからん……!」


「ふふふ……似た者親子ね……手を握ってあげて……」


 2人で、壊れ物を扱うように優しく手を握る……。


「アー……」


「い、生きてる……」


「当たり前だ……が、言いたいことはわかる」


「エリカ、お前の兄のアレスだよ。生まれてくれてありがとう。これからよろしくね」


「エリカ、父のラグナだ。よく無事に産まれてくれた。お前に顔を覚えてもらえるように、頑張って顔を出すようにしよう」


「うあー」


「ふふふ……良かったわね、エリカ……幸せね……ありがとう、みんな」


「こっちのセリフだ。産んでくれてありがとう、エレナ」


「ええ、そうですよ。お疲れ様でした、母上」


「オギャー!」


 ……こうして妹が無事に産まれた。


 それに、久々の家族の団欒のひと時を過ごすこともできた。


 その日は母上の部屋で、全員で寝ることにした。


 もちろん、カエラも一緒だ。


 カイゼルはおめでとうございますと言い、門番として役目を果たすことにすると。


 俺は、初めて父上と寝ることができ……涙が出そうになったことは内緒だ。


 この幸せが続くことを願いつつ、温かい気持ちで眠りにつく……。

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