第20話皇城の中にて

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、皇都に帰る日を迎えた。


「クロイス殿、クレハさん。どうも、お世話になりました」


「いえ。こちらこそ、良い時間を過ごすことが出来ましたよ」


「本当に……娘のこと、よろしくお願いしますわ。オルガ君に、セレナちゃんもよろしくね。また、来てくださいね」


「は、はい!」


「ありがとうございます」


「は、母上ぇぇ……」


「ハハ……」




 帰りの馬車の中……。


「むぅ……なんだか恥ずかしいのだ……」


「カグラちゃん、愛されてるんだね?」


「そうですよね……高位貴族の中に、ああいう方がいらっしゃると嬉しいです」


「僕もそう思うかな。カグラ、恥ずかしがることはない。立派なご両親と、国を守る勇敢な兵士を持っているのだから」


「みんな……はい!そうなのです!自慢の家族なのだ!」


 その後は、オルガの話を聞きつつ、馬車は進んでいく……。

 とりあえず、オルガの家にも、このメンバーで行くことが決定した。





 無事に皇都に到着し、皆と別れた俺は……。


 来たくもない場所に来ていた……そして、出会ってしまった……。


「あらあら……雑種が紛れ込んでいますわ」


「本当……誰が許可したんでしょう?」


「どうも、お二方。僕は正当な皇子ですので、許可なんかいらないんですけどね。ただ、他のお二人の兄上のような傲慢な振る舞いは好きではないので……きちんと許可を得て来ましたけど」


 相変わらず、嫌味な奴らだ。

 こいつらには遠慮する必要はない。

 例え、片方が敬愛する姉上の母親だとしても……。

 金髪の気の強く、傲慢な方が第一王妃であるゲルマ。

 青髪の冷たい表情の方が、第二王妃であるノーラ。

 俺と母上を敵視するやつらだ。


「な、生意気なっ!」


「相変わらず、口が回ること……」


「もう行っていいですかね?貴女達と話していると気分が悪いので」


「それはこちらの台詞よ!出来損ないの分際で……!」


「ゲルマ姉さん、気にしてはいけないです。雑種の戯言ですから」


「お好きに呼んでくださって結構ですが……僕に構う暇があれば、民のことを考えたり、自分の息子の教育をした方が良いと思いますよ?それでは、失礼します。貴方達と違って、暇ではないので」


 後ろから罵詈雑言が飛んでくるが、無視して通り過ぎる……。

 よし……これで、敵意は俺に向けられる。

 俺のみに向けられるなら問題はない。

 幸い妹には継承権が発生しないので、そこまでは敵視されないはず。

 ……もし、それでも手を出すなら……容赦はしない。


(キュイー!)


(……励ましてくれてるのかい?)


(キュイッ!)


(そうか、ありがとね。君のこともきちんと考えておくから、良い子にしててね?)


(キュイキュイ!)


(ところで、ご飯とかはいらないのかい?)


(キュイー!)


(ん?今、魔力が減った気が……君かい?)


(キュイ!)


(魔力で育つ……?文献を調べてみた方がいいかもね。あんまり取りすぎないでね?)


(キュイキュイ)


 ……可愛いし、賢い。

 俺の言葉を理解しているようだ。

 俺も理由はわからないが、何を言っているのか何となくわかる。

 何より……ささくれた心が癒される……。





 そのまま嫌な視線や、たまにいる良い方達に挨拶をしながら、とある部屋の前に到着する。


「これは、アレス様」


「こんばんわ、ゼノさん。いつも、父上をお守りしてくださり、ありがとうございます。皇帝陛下はいらっしゃいますか?」


 この方は、近衛騎士団長のゼノさん。

 カイゼルの愛弟子で、俺の兄弟子に当たる人だ。


「いえいえ、それが某の役目ですから。ええ、首を長くしてお待ちしてます。さあ、どうぞ」


「では、失礼します……皇帝陛下、入室してもよろしいでしょうか?」


「うむ、入るといい」


 ドアを開けて中に入る。


「全く……お前は……息子なんだから遠慮はいらんというのに」


「違いますよ、息子だからこそ遠慮するのです。ここでは、誰が聞いているかわからないですからね。付け入る隙を与えるわけにはまいりません」


「アレス様、ご安心を。こっからは誰も近寄らせません。それが、例え皇族の方でも」


「そういうことだ、アレス。ゼノ、頼んだぞ?」


「御意」


 ゆっくりと扉が閉まる……。

 近衛騎士団長とは、皇帝を最上として守る人のことだ。

 皇族も守るが、皇帝陛下が絶対的である。

 つまり……こっからは誰にも聞かれる心配がない。


「父上、お久しぶりです」


「ああ、アレス。こっちに来てくれるか?」


「え、ええ……」


 すると、力強く抱きしめられる……。


「良かった……無事で……もちろん、報告は受けていたが……」


「ありがとうございます……母上には?」


「伝えておらん、母体に負担をかけてしまうからな。お前なら、そういうだろう?」


「ええ、その通りです。助かります、流石は父上」


「ただ、カイゼルにだけは伝えたがな……しごかれるぞ?」


「げげっ!?それはしんどいですね……でも、仕方ありません。僕は強ければ、兵士の死亡数も減ったはずです……見たいと言わなければ……僕が弱いから……」


 そうだ……俺のせいで、勇敢な兵士が死んだ。

 クロイス殿は何も言わなかったが、あの戦いで無傷なわけがない。

 領地の人々も、俺を責めることはなかった……。

 いっそ、責めてくれれば……いや、自己満足にすぎないか……。

 彼らからしたら、誉れとされることなのだから……。


「アレス……優しい子だ。兵士のために泣けるお前を、ただの父親として嬉しく思う。しかし、皇族としてはいけない。わかるな?」


「は、はい……時には、死ねと命令しなくてはいけないからです……」


「その通りだ。しかし——非情過ぎてもいけない。言葉には出さないが、その心を忘れてはいけない。感謝の心や、それらは相手に伝わるはずだ」


「は、はい!」


「うむ、ならばよし。たまには、父親らしいこともしないとな」


「ほんとですよ。最初の頃は、カイゼルを父親だと思いましたよ」


「がーん……」


「じょ、冗談ですから!ねっ!?」


「いいんだ……俺なんか……」


「俺は父上を尊敬していますし——愛していますから!」


「あ、アレスゥゥ——!!」


「イタタ!?ヒルダ姉さんは——間違いなく貴方の子ですよ!」


 ……やれやれ……困った父上だこと。


 でも、嬉しいな。


 今世でも、尊敬のできる父親がいて……。


 叔父さん……貴方と同じように……。



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