第19話小さいドラゴンとの出会い

 まずい……あの威圧感は……。


 西洋系の赤いドラゴンが、傷だらけで歩いている……。


 動く?いや、気づかれないはず……。


 落ち着け……クソ!心臓の音がうるさい……!


(……いた……)


 ん?何か、声が聞こえた気が……。


(我らが主人よ……希望を……この子を……頼みます……)


 まさか……このドラゴンが喋っているのか……?


(……この大陸を……偽りの世界を……)


 そのドラゴンは安心したかのように、俺の側に横たわった……。


 し、死んだのか?

 そもそも、バレていたのか?

 喋っていたのか、このドラゴンなのか?

 ……わからないことだらけだ。


「キュイ?」


「え?」


「キュイ……?」


「うおっ!?なんだっ!?」


 そのドラゴンの口の中から、小さな黒いドラゴンが出てきた……!


「キュイ!」


 俺を見つけるなり、その子は突撃してくる!


「おわっ!?」


「キュイー!」


 可愛い……いや、魔物だぞ!

 しかし……不思議と敵意は感じない。

 それどころか……安心?親愛?

 とにかく、殺す気など全く起こらない……。


「アレは、お前のお母さんか?」


「キュイ?」


「いや、そんなつぶらな瞳で見つめられても……」


 この子は黒いし、頭に角もある……目は赤いかな。

 同じく、西洋系のドラゴンの体型をしているけど……。

 ただ、愛嬌があるというか……これ、どうしよう?


「キュイー!」


「うわっ!?ペロペロするんじゃない!」


「キュイー……」


「いや……怒ってないから。参ったな……」


 他の人に見つかったら殺されるだろうな……。

 ドラゴンは悪の象徴とされているから……。

 逃す?どっちしろ殺されちゃうか……。

 ……どうして、俺は救おうとしている?

 何故か、この子は救わなきゃいけない気がしてならない……。


「アレス様——!!」


 クロイスの声!まずい!


「キュイ!」


「はい?」


「キュイキュイ!」


 ……何かを伝えようとしている?


「よくわからないが……許可する」


「キュイ!」


 すると……ドラゴンは、俺の影に隠れていく……。

 これは……闇魔法の一種か……?

 見つかったら、確実に殺されちゃうな……。

 俺も見つかったらタダじゃ済まないけど……。

 どうしても、見捨てる気になれない……何故?


「アレス様!!」


「クロイス殿、心配をおかけしました」


「いえ!ご無事でなによりです!貴方様にもしものことがあれば、私は皇帝陛下に顔向けが出来ませぬ!」


「アレス様——!」


 突撃してくるカグラを、優しく受け止める。


「おっと……カグラ、痛いよ?」


「良かったのだー!無事なのだー!」


「こら、グリグリしないでくれ……」


 そういえば、誰もドラゴンのこと言わない……え?


「消えてる……?」


 さっきまでいた赤いドラゴンが消えていた……。

 幻?いや、そんなわけは……。

 あの黒いドラゴンは?アレも幻なのか?


(キュイー!)


「うおっ!?」


「どうしたのだ?」


「いや……なんでもないよ」


 どうやら、影の中にいるようだ。

 これは、気をつけないといけないな……。


「アレス様もお疲れなのでしょう。さあ、領地に戻りましょう。魔物は、倒し切りましたから」


「すまない、迷惑をかけちゃったね……」


俺のせいで、兵士が死んだはずだ……。

しかし……それを言ってはいけない。

前の世界の常識を当てはめるな……!

この世界では侮辱にあたってしまう……!


「いえ、アレは読めませんから。やはり……封印が緩んでいるのかもしれませんね」


「ああ——その可能性はある。父上にも、僕から伝えておくよ」


「お願いします。私からも、お手紙を書きますので……お渡しをお願いしてもよろしいでしょうか?」


「それは……いえ、わかりました。必ず父上に……


 恐らく、もみ消されることを心配しているのだろうな……。

 あの腐った大臣共に……。

 金がかかるとか、自分たちの仕事が増えるからという理由で……。

 前の世界でもそうだったが……。

 どうして、奴らはああなんだろうか?




 その後、無事に侯爵邸に到着する。


「アレス様!」


「だ、大丈夫ですか!?」


「ああ、大丈夫だよ。2人共、心配をかけたね」


「さあ、まずはお風呂に入ってください」


「ええ、わかりました」


「では、僕もご一緒しましょう」




 オルガと共に、風呂に入る。


「フゥ……疲れたぁー」


「災難でしたね……まさか、そんな事があったなんて……ここからでも、見えました。光の壁が揺らいでいたのを……」


「そっか……なら、もみ消される心配もないかも……」


 ここからでも見えたなら、他の領地や国からも見えたはず……。

 いくつもの場所から通達がくれば、いくらあいつらでも無視はできない。


「え?」


「いや……そういえば、オルガの領地はどの辺りなんだい?」


「僕の家は、ノスタルジアの近くですね」


「へぇ……行ったことはあるの?」


「ええ、何度か」


「いいなぁー。僕も行ってみたいね。母上やカエラの故郷だし」


「そうでしたね……では、次は僕の領地に来ますか?ここよりも近いですし、一泊あれば行けますけど……」


「え!?いいの!?」


「ええ、もちろんです。父上も喜びますよ」


「そっかぁ……オルガのお父さんなら会ってみたいかな。じゃあ、お手紙を書くから一緒に渡しておいてくれるかい?」


 流石に、男爵家だと色々手続きが必要だからな。

 侯爵家とは何もかもが違うし……財力と、権力が。


「ええ、わかりました……その、楽しみです!」


 うん、色々あったけど……。


 オルガとも仲良くなれたし、父上が信頼するクロイス殿に会えたし。


 魔界もこの目で見る事ができたし……。


 ただ……この子はどうしようかな?


(キュイー?)


 ……とりあえず、良い子だから助かるけどね……。




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