第18話異変

 翌日の朝、朝食を済ませた後……。


 領内の案内をされていた俺たちは、最後にある場所に来ていた。


「ハァ!!」


「セィ!」


「ソイヤ!」


「練度の高い兵士達ですね……流石は、国境を守る方々です」


 そこは侯爵家の練武場だった。

 広い庭のような場所で、何百人という兵士達が訓練をしている。

 国境にいる兵士達。

 領地にいる兵士達。

 巡回する兵士達。

 それらが、交代交代でローテンションを組んでいるようだ。


「そう言って頂けると嬉しいですな。アレス様……もしよろしければ、お声をかけてもらえますか?」


「ええ、僕で良ければ」


「感謝いたします……皆の者!一旦停止!」


「「「はっ!!!」」」


 兵士達が一斉に止まる。


「アレス様より、お話がある!心して聞くように!」


 うわー……めっちゃ注目されてるなぁー。

 さて……社会人の時の会議を思い出すな。


「皆の者!訓練中申し訳ない!私の名はアレス-アスカロン!今回は縁あって侯爵家にお邪魔している!私が伝えたいことはただ一つ!……感謝する!国、民、領地を守ってくれることを!父上に代わり、感謝の意を込めて!」


「「「「ウォォォォ————!!!!」」」」


「アレス様! アレス様! アレス様! アレス様!」


「……何故、女神はこの方を選ばなかった……?」


「はい?何か間違えましたか?」


「いえ、ご立派です。これ以上はないというほどに……」




 その後、軽く模擬戦をする流れとなる。


 お互いに模擬剣を持って対峙する……。

 俺の相手は、もちろん……。


「クロイス殿、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願い申し上げます」


「では……いきます!」


「むっ!速い!」


「セァ!」


 俺の剣は、あっさりとガードされる!


「いい剣筋です……が、甘い!」


「クッ!」


 そのまま身体ごと押し返される!


「いきますぞ?ハァ!」


 上から降ってくる剣を必死に受け流す……!

 ……強い……!

 手加減しているとはいえ、カイゼル並みかもしれない……!


「ほう?受けるのが上手いですな?」


「カイゼル仕込みなんでね……!」


「それはそれは……あの方仕込みならば得心がいきますな。では、最後に……全力でやってみてください」


「わかりました……」


 全身の魔力を腕に集中……!

 身体の小ささはバネでカバーする……。


「セイャ!」


 間合いを詰めつつ、直前で勢いをつけたまま回転斬りをする!


「ぬっ!?」


 ガキン——という音が響く……。


「剣が折れちゃったか……」


「ですな……だが、文句無しの攻撃です。自分の身体を理解した使い方をしております」


「ええ、日々考えていますから」


「……ふむ、これはカグヤの想い人という以上の意味を……」


「はい?」


「いえ、なんでもございません」




 その後、それぞれ相手を変えて稽古に励んだ。


「ハァァ——疲れた……」


「ハァ、ハァ……ですね」


「ふぇ〜……もうダメ……」


「拙者も……ヘトヘトなのだ……」


「まあ、良しとしよう。年の割にはできた方だな。風呂に入って昼飯にするか」




 一度スッキリし、昼食を食べ終えると……。


「さて……アレス様。午後は、どうなさいますか?」


「……出来れば、魔界の近くを見てみたいですね」


「……なるほど。危険ではありますが、皇族の方に見て頂く機会は少ないですからね……いいでしょう、ご案内いたします」


「無理を言って申し訳ありません。ですが、ありがとうございます」


「いえいえ。では、すぐにても行きましょう。また遅くなりますからね」


「3人はどうする?」


「わ、私は……のんびりしたいかもです……」


「拙者は行くのだ!」


「オルガ、セレナをよろしくね」


「ええ、わかりました」


 ウンウン、昨日の夜は大分オルガと打ち解けられたし……。

 次は、セレナと打ち解けてもらわなきゃね。




 その後、馬車にて……カグラと2人っきりになる。

 おそらく……そういうつもりなんだろうなぁ。

 まあ……先のことだし、今は考えなくて良いか。

 そして……ずっと、気になっていたことを聞いてみる……。


「カグラ」


「は、はぃ……」


 あらら……こりゃ、何か吹き込まれたな……。


「はい、落ち着いて」


「は、はい!」


「まあ、良いや……それで、


「……あの時のことですね?」


「ああ、そうだ」


「……聞いても良いのですか?」


「それは……困るかな」


「ならば、何も聞きません。拙者は、それによりアレス様に助けられたこと。アレス様がそれほどに拙者を……そ、その、仲間として思ってくれてること……アレス様が、拙者にとって大事な方ということがわかっていれば良いのです……」


「そうか……ありがとう、カグヤ。君と友達になれて良かったよ」


「こ、こちらこそ……と、友達……」


 ……うーん、最近の子はませてるなぁ……。

 でも、とても良い子だ。

 先のことはわからないけど……そういう未来も良いかもね。



 その後、馬車が止まる……。


「アレス様、到着いたしました」


「ありがとう、クロイス殿」


「ど、ドキドキするのだ……」


「カグラも初めてなの?」


「は、はい」


「まだ、早いですからね。さあ、私から離れないように」


 魔界の国境付近は……昼間なのに、空が暗闇に覆われていた。

 そして……天高くそびえる光の膜がはってある……。

 あれが、女神の結界か……。


「あれは……戦ってますね」


「ええ。結界から漏れ出した瘴気により、頻繁に魔物が現れます。最近では、特に多いです」


「やはり……封印が弱まる時が近いのでしょうか?」


「そうかもしれないですね。ただ、少し早い気も……まだ、60年くらいだったはず……」


「なるほど……この感じだと、どれくらいだと?」


「……あと、10年以内かと……」


「なっ——!皇都には?」


「伝えましたが、どこまで信じて頂けるか……もしくは、皇帝陛下が信じても……」


「そうですね……」


 あの大臣や王妃達が信じるわけがないか……。

 自分たちの見たいものしか信じないからな……。



 その後、歩いていると……。


「ん?」


「どうしたのですか?」


「カグラ、何か喋った?」


「い、いえ……」


 あれ?おかしいなぁ……。

 何かに呼ばれた気がしたんだけど……。


「むっ!結界が……!」


 クロイスさんの視線の先を見ると……。


「揺らいでいる……?」


「まずい……!きます!私から離れないように!」


 兵士達が、俺とカグラを囲い込む。

 次の瞬間……黒いモヤが、あちらこちらに出現する!


「魔物……!結界が揺らいだからか……!」


 現れる魔物に兵士達が立ち向かっていく……。

 しかし魔物の数が多く、段々と押されてくる……。

 これは俺のせいだ……!

 俺を守るために、陣形が崩れている!

 俺が取るべき行動は……。


「ファイアボール!」


「グキャャ!?」


「アレス様!?」


 俺は敵を引きつけつつ、囲いから離れる。


「俺のことは気にしないてください!奥の手がありますから!」


「父上!ホントです!アレス様にはあるのです!」


「……わかりました。では、信じましょう。いざという時は、私が腹を切ります」


 ……切らせたくないなぁ。

 色々な意味で……。

 しかし、無駄な時間がなくて助かる。

 俺はそのまま、誰にも見つからない場所まで走る……。



「グキャャ!」


 ゴブリン達が追ってくるが……。


「闇の衣……」


「グキャャ?」


「クギャッ!?」


 フゥ……これで、奴らには俺が見えないだろう。

 ただ、これは魔力消費が激しいからな……。

 今のうちに、どこかに隠れよう。

 辺りを見回して……あった。

 茂みの中にしゃがみ込み、身を隠す。




 どれくらい経った……?

 ん?何かがくる……?

 闇の衣発動……!



 近づいてきたのは……傷だらけのドラゴンだった……。





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