第14話突然の……

 その後は慣れてきたのか、次々とゴブリンを倒していく。


 次第に指示などもなくなり、目線や相手の呼吸に合わせて攻撃をする。


 特に狙っていたわけじゃないけど、バランスは良いかもしれない。


 完全なる前衛で、パワータイプのカグラ。

 前衛かつ中衛の、魔法剣士の俺。

 前衛から後衛までこなす、オールラウンダーで槍使いのオルガ。

 完全なる後衛の、魔法使いのセレナ。


 ……うん、このまま行けば良い感じのパーティーになれそうだ。


「よし……大体片付いたかな?」


「そうですね……見当たらないですね」


「こ、怖かったけど……みんながいれば平気そうです!」


「はい!これなら余裕なのです!あっ——あそこにいるのだ!拙者が仕留めてきます!」


「待て!カグラ!一人で行くな!」


「大丈夫ですよ!見ててください!」


 カグラは全身に魔力をまとい、ゴブリンへ向かっていく。


 ッ——!これは俺のミスだ!

 いくら強いとはいえ、まだまだ子供だ。

 調子にのることを考えておくべきだった……!

 ゴブリンとはいえ、一人では何があった時に対処できるかどうか……。


「あ、アレス様!ど、どうしよう!?」


「オルガ!セレナを頼む!僕が追いかける!ゆっくり来てくれ!」


「はい!」


「き、気をつけてくださいね!」


 俺も全身に魔力をまとい、カグラを追いかける!




 すると……いた!


「ヤァ!」


「グギャ——!?」


 まさしく、たった今ゴブリンを倒したところだった。

 俺は一安心して、スピードを緩める。


「アレス様!やったのです!」


「ったく……カグラ、後でお説教を受けてもらうからな?1人で行動するなと言ったでしょ?」


「あっ——も、申し訳ありません!」


「後で、みんなにも謝ること。心配してたんだから……いいね?」


「はい……ごめんなさい……あ、アレス様に良いところ見せたくて……」


「カグラが無事だったなら良いよ。それと……僕は君を頼りにしてるから」


「アレス様……はぅ……」


「さあ、帰ろう……なんだ?」


「へ?」


 何か嫌な感じした後……カグラの後ろに黒いモヤが現れる!


 それは確か……魔物が発生する証!


「カグラ!危ない!!」


 俺はカグラを咄嗟に押し倒す!


「ヒャン!?」


「ッ——!?つぅ——!」


 背中に激痛が走る……!

 しまった……食らったか……!


 急いで起き上がり、振り向くと……一回り大きく、精悍な顔つきのゴブリンがいた。


「ア、アレス様……ち、血が……!ど、どうしよう!?私を庇って…!」


「だ、大丈夫だよ。かすり傷だから……」


「ごガァぁ——!!」


 ッ……これはまずいな……。


「拙者がやります!このぉ!」


「ゴガァ!?」


「え……?け、剣が折れた……?」


 ゴブリンとは桁が違う……確か、ホブゴブリン。

 俺達が勝てる相手ではない……普通ならば……。

 魔力を込めた剣が効かないとなると……奥の手を使う他ないか……。

 だが、カグラに見られるわけには……。

 いや……そんなことを言っている場合ではない……!


「カグラ!下がっていろ!僕がやる!!」


「で、でも……血が……」


 俺は痛みを堪え、意識を集中する。


「グゴガァ!!」


「あ、アレス様!?」


「闇魔法……闇の手!」


 向かってきた敵の足元から、黒い手が出てくる。

 それは、敵の足を掴む。


「ごガァ!?」


 よし……これで動きを一時的に封じた。


「え……?や、闇魔法……?」


「説明は後だ。カグラ、僕は君を守る」


 もう二度と、大事な人達を失ってたまるか……!

 あとは……奴を殺せる威力を……俺も、そう長くは戦えない……。

 魔法はイメージ……剣に纏わせる……前世の記憶がある俺には造作もないこと……。


「……できた……ただ、剣がもたないな……」


 俺の剣は、炎を纏っていた。

 これこそが、俺の秘策である。

 これなら使い勝手が良い……。


「グゴッ!!」


 闇の手を振り払い、奴が向かってくる。

 チッ……やはり、今の俺では時間稼ぎが精一杯か……。

 だが……準備は整った。


 カイゼルの言葉を思い出せ……。

 身体の小ささを補うためには……相手の攻撃に合わせて剣を振るうこと……。


「ゴルァ!!」


 爪がくる!

 それをカウンター気味に……!


「火炎刃!!」


 俺の剣は奴を切り裂いた。

 それこそ、バターのように……。


「グ、が、ガ……」


「消滅したか……ぐっ……」


 ま、まずい……血を流しすぎたか……。

 それに、魔力を使いすぎた……。


「ア、アレス様!?」


 意識が……遠のいていく……。




 ——————————————


 ん……?これは……?


 浮いている……?


 いや……それよりも……ここは地球?


 俺の眼下に広がる景色は、懐かしいものだった……。


 ビルが立ち並び、人が溢れている。


 車が走り、電車が走る。


 これは……たまに見る夢か……。


 ん?あれは……結衣……?


 映像がズームされ、とあるお墓が映し出される。


 あれは、結衣……そして……叔父夫婦……。


「和馬さん、こんにちは。早いもので、貴方が亡くなってから、1年が過ぎました……私は17歳になり、高校二年生になりました……これも、和馬さんのおかげです……あ、ありがどぅ……うぅー……」


「ほら、泣かないの。それじゃ、和馬君が心配するわよ?」


「う、うん…」


「和馬君、こんにちは。貴方の死を受け入れたはずの私達ですが……やはり、まだ慣れそうにないです。当たり前よね……家族だもの……こんな日くらいは……」


「和馬……まだ、実感がないんだがな……何処かでお前が生きている気がしてならない……まあ、俺の願望なんだろうが……お前には礼を言っても言い足りない……結衣を守ってくれたこと……感謝する。だが、お前も掛け替えのない息子だ。何故……お前があんな目に……真面目で誠実なお前が……死ななくてはならない?神はいないのか?」


「お父さん……」


「あなた……」


「なあ、お前は後悔してないか?俺が引き取ったばかりに……すまん、こんなことは墓の前で言うことではないか……俺が天国に行けるかわからないが……また、酒でも飲もう。そして、一言でいいから……謝らせてくれ……」


 そこで映像が途切れ、光が差してくる……。


 それに……セレナやオルガ、カグラの声が……。


 意識が……どうやら、無事に生還できるようだな……。





「ん……」


「あっ!アレス様!気がつきましたか!?」


「ああ、セレナ……」


「わぁ〜ん!良かったのだぁ〜!」


「ほっ……良かったです」


「オルガもカグラも心配かけたね……痛くない……セレナが治してくれたのかい?」


「はい!頑張りました!」


「ありがとう、お陰で助かったよ」


「アレス様……!も、申し訳ありませんでした!!」


「カグラ……気にするなとは言えない。君は、最初に決めたことを破った」


「は、はぃ……」


「だが、人は失敗する。そして、それを糧にして進んでいく。今日のことを、忘れないように。そして、同じ失敗を繰りかえなさいように……わかったね?」


 カグラの頭をそっと撫でてやる。


「あっ——ぅぅ……は、はい!!」


 「あらら……先生の出る幕はないわねー。ほんと……これなら、この子の方がいいんじゃないかしら……?」


「あっ、先生。ご心配をおかけしました」


「ううん、仕方ないわよ。ホブゴブリンだもの。さあ、まずは帰りましょう。詳しい話は、あとで聞きますからね」




 その後、馬車に揺らながら想いを馳せる……。


 結衣……綾さん……正人さん……。


 俺は2人に引きとられたこと、結衣を庇ったことは一つも後悔してないよ……。


 ただ、あるとすれば……皆を悲しませてしまったことだ……。

 

 でも……俺はそっちでは死んでるけど……違う世界で生きているよ……。


 辛いこともあるけど……。


 愛する家族や大切な友人と共に、幸せに暮らしているよ……。


 夢だろうけど……どうか、この想いが伝わりますように……。





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