第15話兄弟との……

 あの実戦の日は、帰ってから大変だった……。


 母上もカエラも号泣しちゃうし……。


 カグラは土下座するし……。


 父上まで飛んでくるし……。


 まあ……嬉しかったけどね……。




 そして……翌日のこと、クラスに奴らがやってきた。


「おやおや!生きていましたよ!兄上!」


「はっ!出来損ないは死んでも困らなかったのにな!」


 教室や廊下がざわざわする。

 無理もない……上級生であり、第一皇子と第二皇子の登場だからな。


「これはこれは……ライル長兄に、ヘイゼル次兄ではありませんか。何の用ですか?」


「はっ!情けないお前の顔を見に来たんだよ!この恥さらしが!ゴブリン如きに死にそうになるとは……皇族の恥め!」


「なっ——!?あ、アレス様は、私を庇って……!」


「ライル兄上、こやつブリューナグ侯爵家の娘です……あの口煩い奴の……」


「あの親父の娘か……女の癖に生意気に戦場に出るからだ!女なら大人しく着飾って男に媚びを売ってろ!」


「うぅ……」


「全くですね!それより……こいつ、我々に口ごたえしましたよ?」


「おっ、そうだな……侯爵家とはいえ、ただでは済まないよなー?」


「土下座でもさせますかね?」


「あ、あぅぅ……」


 もう、我慢ならん……!


「おい、クズ共」


「……はぁ?」


「なんて言った……?」


「クズ共って言ったんだ。僕のことを悪くいうのは百歩譲ってやる。だが……僕の大切な仲間を侮辱することは許さない……!」


「な、なんだよ!?」


「ち、近づくな!」


「戦いにも出たことない奴が、偉そうな口をきくな。カグラはミスこそしたが、立派に戦った。それに、女性が戦って何が悪い?女性だろうが、平民だろうが、貴族だろうが関係ないだろ」


「う、うるさい!」


「出来損ないが生意気なんだよ!」


 奴の胸が光りだす!


「聖痕発動……?」


馬鹿か!?こんな場所で聖痕発動するとは!?


「くらえ!出来損ないが!」


「力に振り回される奴に言われたくはない!」


 避けた拳は……壁をぶっ壊した!?

 こいつの聖痕の力は、肉体強化系か!


「チィ!避けるんじゃねえ!」


「良いだろう。避けないからかかってこい」


「ふ、ふざけんな——!!」


 魔力を手足に集中……。

 あとは、拳の威力に逆らわずに……!


「セィ!!」


「グハッ!?」


「あ、兄上!?」


「な、なにをした?俺の拳が受け止められた?こんな出来損ないに……?」


「受けて止めていない、ただ受け流したたけだ」


 俺の手のひらに拳が触れた瞬間に、力を横にずらしたたけだ。

 その後に、もう片方の手で奴をぶん殴った。


「な、なんだ!?それは!?」


「鍛錬を一から出直してこい」


「くっ!」


「アレス——!!」


「兄上!?姉上が来ます!」


「チッ!行くぞ!覚えてろよ!?」


 そう言い残し2人が去った後……突撃アタックを受けとめる。


「アレス——!無事で良かったわ!」


「ハハ……ご心配をおかけしました」


「ホントよ!都市の巡回から帰ってきたら、アレスが倒れたって聞いたんだから!」


 姉上は自ら志願して、都市を巡回しているのだ。

 自分達の生活を支えている人たちを見たいという理由で……。

 さらには、自分が行くことで人々が活気付き喜んでくれるから……。

 こういう方に皇位を継承してもらいたいが……女性ではなれないからな。


「すみません。ですが、心配してくれてありがとうございます」


「これよ!これ!素直でよろしい!全く!アイツらとは大違いね!」


「あ、あの!お話中、申し訳ありません!」


「ん?……ブリューナグ家のご息女ね?」


「は、はい!今回は、私の所為で弟君を危険に晒したことを、深くお詫びいたします!」


「カグラ……ヒルダ姉さん」


「わかっているわ、アレス。カグラと言ったわね?顔をあげなさい」


「は、はい……」


「アレスが許しているなら、私から言うことはないわ。ただ、貴女の気が済みそうにないわね……。では、強くなりなさい。もう、アレスが庇うこともないほどに。そして、アレスを守れるように。良いわね?」


「かしこまりました!必ずや強くなり、アレス様をお守り致します!!」


「良い目ね……流石は、融通がきかないけど実直な人柄で有名なブリューナグ家ね」


「きょ、恐縮です……」


「で、アレス……この子が奥さん候補なのかしら?それとも、後ろで心配そうに見てる青い髪の子?」


「せ、拙者が……?そ、そ、そんな!恐れ多いです!」


「ふえっ?……わ、私……?え、えぇ——!?」


「あらあら、真っ赤になっちゃって……アレスも罪作りな男の子ね!」


「ヒルダ姉さん、あんまりからかわないでくださいよ……」


「なによ!姉として可愛い弟のお嫁さんは気になるわ!」


「俺、まだ8歳ですよ?」


「貴族や皇族なら、そのくらいから婚約者ができるわよ?」


 ……そういやそうだ、そういう世界だった。

 ついつい、前世に引っ張っられることがあるな……。


「……まあ、俺には色々ありますし」


「……そうね。腹が立つことにね……!なによ!アレスはこんなに可愛くて良い子なのに!お母様も、大臣達も……!」


「ヒルダ姉さん……ありがとうございます。僕は、そのお気持ちが嬉しいです」


「で、でも……なんでアレスばっかり……」


 やれやれ……嬉しいけど、落ち込ませたまま帰らせたくないなぁ。

 少し恥ずかしいけど……この人のためなら良いか……。


「……ヒルダ……お姉ちゃん」


「え……?」


「元気出してください。僕は、元気なお姉ちゃんが好きですよ?」


「あ、アレスゥゥ——!!」


「抱きしめすぎですよ!皆、見てますから!」


 ……やれやれ、世話の焼ける姉上だこと。


 でも、有り難いことだ。


 この方がいるから、俺は兄弟全てを嫌わずに済んでいる。


 新しく生まれる妹も、きっと可愛がってくれるだろう……。









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