第12話いよいよ……

 ……フゥ、流石に緊張するな。

 何故なら……今日は、いよいよ魔物討伐をするからだ。


 前世の記憶がある俺からしたら、生き物を殺すのは忌避されることだ。

 だが、この世界ではそれが普通のことだ。

 平民ですら、身を守るためなら戦う世界だ。


「覚悟を決めるんだ……大切な人を守れる強さを……今度こそ……!」


 俺がもっとしっかりしていれば……結衣達を悲しませることはなかった……!


「アレス様ー!?ご飯ですよー!?」


「わかった!今、行く!」




 部屋を出て食卓に着く。


 そして食べ終わったあと、神妙な表情の母上と向かい合う……。


「アレス……いよいよ、今日は魔物討伐なのよね……?」


「はい、母上。きちんとこなしてみせます」


「心配だわ……なんで、うちの子だけ……」


 ……上二人の兄は、12歳まで魔物討伐は免除されている。

 護衛がつくとはいえ、聖痕を持つ者に万が一のことがあってはならないからだ。

 まだ身体も出来上がっていないので、神器アスカロンも扱えないしな。

 俺は聖痕もないので、そのまま参加ということだ。

 ……死んでも別に構わないということだろうな……。


「母上、お気になさらないでください。断ることも可能でしたが、自ら志願したことでもあります」


 そう、一応選択権はある。

 我が国には、公爵家がない。

 あるのは上から、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士伯だ。

 伯爵以上の上位貴族の中には、跡取りが危険な目に遭うことを嫌がる家もある。

 戦うことは平民や、下位貴族の仕事だと思ってたりな……。

 全く……誰のおかげで暮らしていられるのか、アイツらはわかっていない。


「でも……何かあったら……カイゼルに頼もうかしら?」


「それはいけません。カイゼルは母上と妹を任せているのですから。安心してください、頼れる友達もいますから」


「カグラちゃんや、セレナちゃんね?……そうよね……アレスが覚悟して決めたことを、母親の私が邪魔してはいけないわね……」


「大丈夫ですよ、エレナ様。昨日、無茶はしないって約束したじゃないですか。ねっ?アレス様?」


「うん、もちろん。母上、早く強くなりたい気持ちに変わりはありません。ですが、無茶だけはしないと約束いたします」


「……わかったわ。アレス、やるからにはしっかりやりなさい。母は、ここで貴方の帰りを待っています」


「ええ、もちろんです。それでは、行ってまいります!」


 俺は準備をし、馬車に乗り込む。




 馬車が動き出してしばらくすると……どうやら、またお忍びで来たようだな……。


「よう、アレス」


「父上、またですか?」


「なんだよ、寂しいこと言うなよ。可愛い息子が心配だったんだよ……」


「ご安心ください。母上にも言いましたが、無茶だけはしませんから」


「ふむ……その顔は強がりじゃなさそうだな。妹が出来たことで焦っていたようだが……一皮向けたようだな?」


「大切なことを思い出しましたから。一人ではないということと、一人で出来ることなどたかが知れていると……」


「そうだ。皇帝の俺でも、一人ではただのお山の大将にすぎん。頼れる側近や、民のおかげで皇帝としてやっていけているのだ……もちろん、足を引っ張る奴もいるがな……」


「父上……」


「だが……わかっているなら、俺から言うことはただ一つ。無事に帰ってこい、アレス。授業とはいえ、実戦は訓練とは違う……稀にだが、死亡するケースもある」


「はい!肝に命じます!」


「うむ!良い返事だ!ではな!」


 父上はそう言い、馬車から飛び降りた。

 嬉しいな……忙しいだろうに、わざわざ様子を見に来てくれたんだ。




 学校に到着すると、皆が待っていた。


「アレス様!おはようございます!」


「アレス様、おはようなのだ」


「アレス様、おはようございます」


「おはよう、オルガ、セレナ、カグラ。今日はよろしくね。三人とも、頼りにしてるからね」


 そうだ、俺は一人じゃない。

 出来損ないと言われる俺を認めてくれる友達もいる。


「「「はい!!!」」」


 今日はこの四人でパーティーを組んで、初めての魔物討伐を行う。


「ハッ!初めから人を頼りにするとは……噂通りの出来損ない皇子だな」


「ザガンか……人を頼りにして、何か悪いかな?」


「そんなのは弱者のすることだ!いいか!この間は剣だから負けたが、俺の得意武器は槍だ!今日は、お前より強いことを証明してやる!」


 やれやれ……すっかり嫌われたな。

 口調も、敬意も何もあったものじゃない。

 まあ、多分……父親からそんな必要はないとか言われたんだろうなぁ。


「ザガン様の言う通りだ!少しは魔法が使えるみたいだけど、所詮は使い勝手の悪い炎!僕たちまで巻き添えにしないように、気をつけて頂きたいものですな!」


「わかってるよ、ロレンソ。君は土属性だから、使い勝手が良いもんな」


 俺の火属性は、乱戦や森の中では向かない。

 その威力ゆえに、仲間を巻き添えにしてしまう。

 森では言われるまでもなく、火事が起きてしまうからなぁ。

 かといって、邪悪な魔族や邪神の眷属が使うと言われる闇魔法を使うわけにもいかない。

 もちろん、俺とて……一応、考えているがな。


「はいはーい!皆さん、喧嘩しない!それぞれに事情がありますから……仲良くしろとは言いませんが、お互いに足を引っ張ったりはしないこと!いいですね!?」


「はい、もちろんです」


「……わかってます」


「そ、そうですよ」


「はい!よいお返事です!授業とはいえ、魔物討伐です!少しの油断や気の緩みは……死に繋がります!今回は、ゴブリンだけとはいえ、しっかりと協力して討伐してくださいね!」


 そう……初めての魔物討伐はゴブリンだ。

 最弱の魔物と言われ、ルーキーの冒険者や、俺らみたいな軍人予備軍の練習台となる。

 ただ、数が多く侮ってはいけない。


 さて……俺はアレス……今は、和馬を捨てろ……。

 前世の倫理観に引っ張られるな……!

 殺すことを躊躇えば……自分や友達が危険な目にあうことを肝に命じるんだ……!

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