第11話この大陸について

 セレナの家に訪問してから、10日ほど経過した。


 あれから、授業でザガンと戦ったり……。

 ギリギリ負けはしなかったが……かなり強かったな。

 あいつは槍の達人であるゲイボルグ家だからなぁ。

 俺と違い体格も良いし、身長もある。


 あとは、魔法の授業をしたり……これはセレナには驚いた。

 なんと、水と風の二つの属性を持っていた……なるほど、両親が心配するわけだ。

 平民では、色々と困ることがあるだろう。

 できる限り、力になってあげたいと思う。


 さて……そんな日々を過ごし、今日は休みを迎えた。


 明日、とある重大な授業があるので、今日は家でのんびり過ごすことにした。


 もちろん、恒例行事は欠かさず行う。


「アレス様!剣とは腕の力にあらず!この間も申したはずです!身体全体で振るうのです!」


「わ、わかってる!」


「貴方は強くなりたいのでは?そんなことでは……守りたい者を守れませんぞ……!これから妹君ができるのでしょう!?」


「も、もう一回、お願いします!妹ができるんだ……!僕は……もう二度と妹を悲しませたくない……!」


 今度こそ、俺が兄として……結衣のような目に遭わせない……!

 きっと妹も……母上の子ということで、理不尽な目にあうだろう……。

 だが、何があっても俺が守り抜く……!

 そして、俺も生き残ってみせる……!


 その後も、散々にしごかれた……が、有り難いことだ。




「あー……疲れた……」


「ふふ、お疲れ様です。はい、飲み物をどうぞ」


「カエラ、ありがとう……プハァ!生き返る……」


「なんか、最近凄いですね?意気込みというか……」


「まあね……僕が母上と妹を守らなきゃだかね。カイゼルばかりに任せるわけにはいかないし」


「ご立派です!私もお手伝いいたしますね!」


「カエラには、十分助けられてるよ。いつも、ありがとうね。やっぱり、女性じゃないと色々わからないし」


「て、照れますね……でも、嬉しいです。それとなんだか雰囲気が……大人っぽくなりました?やっぱりお兄さんになるからですかね?」


 ……もしかしたら、妹が出来たことで和馬としての意識が強くなったのかもな。

 俺は、本来ならいい歳の大人だったからな……。

 結衣……今頃、どうしてるだろうか?

 俺はなんとか元気でやってるよ……結衣はどうかな?

 俺は今でも、お前が幸せに生きてくれることを願っている……。


「さて……ところで、母上は?」


「今は寝てるはずですね」


「そっか……じゃあ、カエラには鍛錬に付き合ってもらおうかな」


「え?今さっきまでやってましたよね……?」


「まあ。そうだけど……来週には初めての魔物退治もあるからさ。避ける練習とかもしておきたいかな。カエラは弓が使えるから、射ってみてよ」


「危ないですけど……ハァ、言っても聞かなそうですね……」


「わかってるね、僕のこと。それでこそ、カエラだ」


「もう!調子がいいんですから!」




 その後避ける鍛錬や、魔法の鍛錬もしっかりこなす。

 俺が、初めての魔物退治で恥をかくと……母上が何を言われるか……。

 早く強くなって、大切な人を守れる強さを……!



「ハァ、ハァ……もうダメだ……」


「わ、私もです……これじゃ、腕が筋肉痛ですよ。弓に慣れてるとはいえ……」


「そう言えば……カエラは、迷い人の国と呼ばれるノスタルジアの出身だよね?」


「はい、そうですね。授業で習いましたか?」


「もちろん、ある程度は知ってだけど。この間、詳しくね……」


 このガーナ大陸には四つの国と、魔界ドラゴニールがある。

 まずは、最大の広さを誇る我が国アスカロン帝国。

 北に位置していて、右側には魔界ドラゴニールがある。


 そこから真下に位置するのが、グロリア王国。

 我が国とは戦争こそないが、ライバル的な国だ。

 右側には我が国ほどではないが、魔界ドラゴニールに接している。


 我が国の左側には、ノスタルジア州がある。

 この国は……地球からの迷い人により作られた国らしい。

 ごくたまに、異世界の穴が開き、そこから人が迷い込んでくる。

 どうやら、何処かで繋がってるらしい。

 ただ、理由は解明されてない。

 まあ、そんな国なので……もちろん、日本人もいたらしい。

 カエラは、その血を濃く継いでいるから、東洋系の顔をしているということだ。


 そのノスタルジアの下には、聖マリアンヌ教国がある。

 聖女と勇者の召喚の儀を取り仕切っている。

 なので広さこそないが、その影響力は計り知れない。


 以上が、この大陸ということだ。



「不思議ですよねー、私にも異世界人の血が流れてるなんて……」


「ハハ……」


 俺はどうなる?

 血は流れてない……記憶はある……精神のみ転生?

 ダメだ……これは考えてもキリがない。



「アレスー!カエラー!ご飯よー?」


 あれ!?寝てたんじゃなかったの!?


「ちょっと!?母上!?」


「エリナ様!?いつの間に!?起きても動いてはダメって言ったじゃないですか——!?」


「あら平気よ、これくらい。少しくらい動かない方が身体に悪いわよ」


「何を言ってるですか!?私がやるから大人しくしててって言ったじゃないですか!?」


「母上……カエラ、落ち着いて。まあ、確かに……そういうことを聞いたことあるな」


 前世の知識からすると、確かじっとしすぎも良くないとか……。

 じっとしすぎだと、母体にストレスもかかるし……。


「え?どこでですか?」


 ……しまった……どう説明すれば……いや、これで行こう。


「この間、平民街に出かけたからね。彼らは生活の知恵として、色々なことを知ってるんだよ。例えば妊娠してても、貴族はお付きの人などが世話してくれるけど、平民の方々はそうはいかないじゃない?だから、色々考えたり工夫したりするんだと思う」


「あっ——そうですね……普通はお付きのに人はいませんよね……私もすっかり慣れてしまいましたね……」


「あら?そうなの?じゃあ、平気ね」


「ただ、無茶だけは絶対ダメですからね?」


「はーい……アレスが、ますますしっかりしてきたわね」


「母上は、少し子供っぽくなりましたかね?」


「フフフ……だって、愛してもらえたし……新しい子もできたもの……」


「ハハ……なるほど……」


「アレス……ありがとう」


「母上?」


「貴方が、私とこの子のために頑張ってること……嬉しいけど、貴方も私の大事な子よ。だから、無茶だけはしないで……」


「いや、でも……」


「あら?私には無茶するなって言うのに、私は言ってはダメなの?」


「それは……」


「ふふ、アレス様の負けですね。そうですよ、アレス様に何かあったら……私も悲しいです」


 ……でも、俺は……強くならなきゃ……二度と、家族を失いたくない……!


「アレス様」


「カイゼル……いつの間に……」


「ご安心を、貴方は必ず強くなれる。その気持ちがあれば……それまでは私がお守りいたしましょう……私を頼ってくださいませ」


「そうですよ!私も頑張ります!」


「カ、カイゼル……カエラ……」


「フフフ……あらあら……」


 ……そうか。

 俺はいつの間にか、一人でどうにかしようとしていたのか。

 そうだ……一人でできることなんてたかがしれている……。

 そんな当たり前の事を忘れていたとは……。

 妹と結衣が被って、焦ってしまったのかもな……。



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