第10話友達の家に訪問する

 学校にも慣れたある日、俺はいつものように帰ろうとしていた。


 すると、セレナが何か言いたそうにモジモジしていることに気づく。


「セレナ、どうしたのかな?」


「あ、あの!今日のご予定はありますか……?」


「うん?うーん……今日は朝鍛錬したし、平気だよ。何か用があるのかな?遠慮なく言ってごらん」


「えっと……わ!わたしのお家に来ませんか!?」


「あっ、そういえば行ってないね。うん、良いよ。ご両親に挨拶に行くとしよう」


「あ、挨拶……!はぅ……」


 ……何故頬を染める?

 ……最近の若い子は、よくわからない。


「セレナ!拙者は!?」


「もちろん!カグラちゃんも!き、来てくれるかな……?」


「無論なのだ!行くのだ!」


「オルガはどうする?」


「えっ!?僕も良いんですか……?」


「うん、だって友達でしょ?あれ?そう思ってたの……もしかして僕だけ?」


「いえ!しかし、恐れ多いというか……ですが、嬉しいです!」


 ……まあ、皇子に友達扱いされたら困るか。

 あんまり強制すると、ハラスメントになっちゃうし。


「オルガが楽な方で良いからね」


「アレス様……ご配慮に感謝します」


「こっちこそごめんね。無理言っちゃって。で、どうするかな?ちなみに、僕が皇族だから優先とかはなしだからね?先約のが大事だから」


「素晴らしい方……申し訳ないですが、今日は家の用事があるのです。また、誘ってくださいますか……?」


「そっか。うん、また誘うよ」


「ありがとうございます。セレナさん、次は僕も行っていいかな?」


「あっ……もちろんです!あ、あの……!」


「大丈夫、わかっています。誘わなかったわけではなく、誘っていいのか迷っていたことは。アレス様は連れてってと頼んでましたけど、僕は頼んでいませんでしたから」


「そ、そうなんです……つ、次は誘いますね!」


「うん、ありがとう」


 ……うーむ、オルガ君はイケメンだな。

 こういう男なら妹の結婚相手でもいいな。

 ……あっ、妹が出来る予定です。

 今、妊娠3ヶ月のようです。

 あの親父、いつの間……すでに作っていやがったよ。

 今は、カエラが付きっ切りで面倒を見ている。

 もちろん、俺もお手伝いをしている。


「さて……そういえば、カグラは?」


 あの賑やかな子がやけに静かだと思ったが……いないぞ?


「あれ〜?いないです……あっ!」


 教室のドアを開け、カグラが泣きそうな顔をしている。


「いっ、いたのだ!!みんなして拙者を置いていったのかと……うぅー……」


「いや、置いていったのはカグラだから。というか、なんで泣きそうなのさ?」


「いると思って喋ってたら……振り返ったらいなかったんです!」


「……ハハハ!!」


「……ふふふ」


「ハハ……」


「なんでだ!?どうして皆笑ってるのだ!?」


「いや、カグラは可愛いなと思ってね」


「えっ!?わ、わたし、いや、拙者が!?そ、そんなこと言われたことなぃ……」


「へぇ、随分と見る目のない奴らが多いんだね」


「はぅ……アレス様はずるいのだ……」


 その後オルガに別れを告げ、俺達3人は馬車へ向かう。

 ちなみに母親が妊娠してからは、カイゼルは護衛に専念している。

 俺の護衛よりも、母上と妹を頼むと。

 なので、御者はダインさんという方になった。

 年齢20歳で、真面目で元気な方だ。

 無論、父上の紹介なので安心である。

さらには、カイゼルのお墨付きもある。


「ダインさん、今日はこの子の家に行きたいんだ。いいかな?」


「もちろんです!アレス様!さあ!どうぞ!!」


「あ、ありがとうございます」


「失礼する」


 セレナに道案内されながら、貴族街を抜けて、平民街を進む。

 皇族のマークが付いているので、皆が何事かと眺めている。

 そりゃ、そうだよな。

 あの王妃や皇子達が来るわけないしな。

 貧乏が移るとか言って……クズめ。

 その市民のおかげで生活できていることを何故理解できない?

 ……いや、今はやめておこう。


 そして、とある平屋の家の前に到着する。


「こ、ここです!ありがとうございました!」


「感謝します」


「ダインさん、ありがとう」


「いえ!もったいないお言葉!では、2時間後あたりに迎えに上がります!」


 すると、家の中から人が出てくる。


「な、なんの音かしら……?」


「なんだ!?なんだ!?馬車の音が聞こえたぞ!?」


「あっ!お父さん!お母さん!約束通り、アレス様を連れてきたよ!」


「何バカなこと言ってるの?」


「まだ、そんなこと言ってるのか!夢を見るのはやめなさい!」


「あう、いや、でも……」


「すみません、ちょっといいですか?」


「え、ええ。君は……?」


「随分と身なり良い……」


「申し遅れました。僕の名前は、アレス-アスカロンです。一応この国の皇子にあたります。今回はセレナさんのご好意により、お家にお呼ばれいたしました。騒がしくしてしまったことを、謝罪いたします」


「君、そういうこと言ったら捕まっちゃうよ?」


「……いや……この馬車の紋章……皇族に間違いない……」


「え……?ほ、ほんとだわ……」


「ねっ!?だから、言ったでしょ!?」


 2人は顔面蒼白になり、膝を折ろうとする。


「待ってください。謝罪もこうべを垂れなくても良いです。今日は、ただの友達としてきました。気を遣わずにとは申しません。ですが、なるべく普通にしてくれると助かります」


「……セレナの話は本当だったのね……優しくカッコいい皇族の少年だと……」


「お、お母さん!?」


「あ、ああ……そのようだな。不敬罪で死刑でもおかしくないのに……何故、我々は知らないのだ?」


 ……王妃達が口止めをしているのだろうな。

 万が一にも、俺が人気が出ることを恐れて……。


 その後、落ち着きを取り戻したお二人に家の中に入れてもらう。

 ダインには、二時間ほどで迎えにくるように伝えておいた。

 ちなみに、カグラが侯爵令嬢と知ったら仰天していたな。


「ど、どうぞ、狭いところですが……」


「いえ、お構いなく。綺麗で良いお家ですね」


「拙者もそう思います」


「2人とも、ありがとう!」


「なんと……侯爵令嬢と皇子が俺の家に……」


「あなた……でも、とても良い子に見えるわ」


「……そうだな。この子達を見てれば、親がわかる。きっとまともな貴族なのだろう。少し改めないといけないな」


「そうね……」


 ……やはり、貴族に対する平民の認識はそんな感じか。

 うん、これだけでも来た甲斐があったな。


 その後は、2人ともリラックスをし、セレナの学校の様子などに花を咲かせる。




 楽しい時間はあっという間に過ぎ、帰る時間となる。


「今日はありがとうございました」


「ありがとうなのです」


「いえいえ、こちらこそありがとうございます。セレナと仲良くして頂いて。もしよろしければ、これからも仲良くしてくれると嬉しいです」


「私からもお願いします。この子は私達の宝です。なんの定めか魔法の才能に恵まれしたが、普通の子なのです。貴族の中でやっていけるか心配でしたが、安心いたしました」


「もちろんなのだ!」


「ええ、同じく」


「2人とも……えへへ〜」


 こうして、初めての友達の家に訪問は無事に終わった。


 同時に、平民の認識や暮らしを知ることが出来た。


 これは、貴重な時間を過ごすことが出来たと思う。


 この方々に生かされているんだということを、肝に命じておこう。

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