第9話初の戦闘授業

さて……あっという間に時間は過ぎていく。


気づけば、入学してから二週間が経っていた。


クラスの中は、二つに分かれていた。

俺、カグラ、セレナ、オルガ。

ザガン、ロレンソ、アスナ、エルバ。


俺は仲良くしたかったんだけど、やっぱり最初のザガンとのアレがマズかったみたいだ。

表向きは丁寧に接するけど、子供だから隠しきれていない。

ロレンソはザガン腰巾着だし。

アスナは、親がザガンの親の直属の部下らしいし。

エルバの親も、取引先のお得意様がザガンの親らしい。


こっちはこっちで問題はある。

カグラの親とザガンの親は仲が悪いみたいだし。

セレナは平民ということで、ザガン達は見下すし。

オルガの家も男爵なので、自分より下だと思って接するし。

俺のことも親から聞いたのだろう。

嘲笑うかのような視線を時折向けてくる。


「ハァ……まあ、みんな仲良くは無理があるよね。争いに発展してないだけマシと思わなきゃいけないね」


「どうしたのですか!?溜息などついて!」


「カグラ……君は元気でいいね。そうだね、暗くなっても仕方ないよね。ありがとう、カグラ。君の元気には、いつも癒されるよ」


「ひゃ、ひゃい!せ、拙者はこれで!」


……あれ?なんで顔真っ赤になって逃げるんだ?

ごくごく普通のことしか言ってないんだけど……。


「えへへ、カグラちゃんってば。照れてましたね」


「そうだね。アレス様は、無自覚に嬉しくなる台詞を言いますから」


「お礼を言っただけなんだけど……?」


「それが珍しいのです。皇族の方が下の者にお礼を言うことが」


「……ああ、そういうことね」


……と言っても、俺も日本人としての前世の記憶を持っているからな。

悪いことしたら謝る、偉いと思ったら褒める、何かをしてもらったならありがとう。

この辺りは、常識的なことだし。

もちろん、近年ではそういう人も減ってはいたけどね。

でも、自分はそういう風に生きていきたいと思う。




そして、いよいよである。

今日は、初めての戦闘訓練の授業があるのだ。

まずは、模擬戦をするようだ。


「は〜い!皆さん!怪我をしないように……とは言いません!皆さんはいずれ優秀な人材として、戦いに赴くこともあるでしょう!そのために痛いことや辛いことを経験することは必須です!もし怪我をしても、先生が治しますからね〜!」


……そっか、先生も二種類の属性使いだもんな。

水と土だって言ってたな。


「アレス様!拙者と戦ってくれますか!?」


「うん、良いよ。同じく剣を使うしね」


「セレナさん、僕で良いかな?」


「はい!オルガ君!私全然武器使えないですけど……」


「セレナは魔法があるからね。ただ、最低限はやっておいた方が良いと思うよ。魔力が尽きた時や、使えない場面用にね」


「アレス様……はい!頑張ります!」


そして木剣を構え、カグラと対峙する。


「征きます!!」


「いつでも!」


「セィ!!」


「ハァ!!」


木剣がぶつかり合い、カンカン!と甲高い音が響く。


「むぅ……押し切れない。さすがはアレス様」


「いやいや。カグラのほうこそ、僕の剣を受け止めてるじゃないか。まいったなぁ、結構頑張ってきたんだけど……」


女性差別をするつもりはないけど、同い年の女の子と互角ではな。

俺は誰よりも強くならなきゃいけない……!

……ただ、良い機会かもな。

カイゼルでは力量に差がありすぎて、切磋琢磨というわけにはいかない。

カグラなら、良いライバルになれるかもしれない。


「拙者とて毎日稽古をしてますからね!魔力強化もしてますし!だから……本気でお願いします!」


「へぇ?凄いね……そっか、じゃあ手加減はいらないね。少しペース上げるから、覚悟してね?」


「……ゾワッしました……これは父上と稽古の時に感じる……はい!どうぞ!」


魔力を全身に行き渡らせ、身体強化を成す。

もちろん、まだ身体が出来上がっていないので無理はしない程度で。


「いくよ!」


足に力を入れて、素早く間合いを詰める!


「うわっ!?」


カグラは辛うじて、俺の剣を受け止めた。


「よく反応したね!いくよ!」


連続して剣を繰り出す!


「ク、速い……!追いつかない……!」


「そこっ!!」


剣道の技である小手のように、手の甲を打ち付ける!


「イタッ!?」


カグラは剣を取りこぼしてしまう。

……しまった!つい、やり過ぎてしまった……。

ダメだな……段々と子供に戻っていってる気がする。


「カグラ!ごめん!大丈夫!?」


「だ、大丈夫です……それに嬉しいです。本気でやってくれて……男の子は、いつも本気でやってくれないのです。女子には本気出せないと言って……そもそも、女がそんなに強くなってどうするって……」


……戦う女性がいるとはいえ、大半の人は魔法部隊か後続部隊に配属される。

前線で戦う女性は少ない。

男性社会という点もあるが、女性は子供を産まなくてはならないからだ。

この厳しい世界では、子供が生まれないとすぐに人口が減少してしまう。


……だが、そんな建前は知ったことか。

俺はカグラの気持ちに応えてやりたい。


「カグラ……わかった。僕でよければいつでも相手になる……本気でね」


「え……?」


「もちろん、君の方が強くなってもだ。まあ、負けるつもりもないけどね」


「アレス様……うぅー……」


「あっ!手が痛いよね!?セレナ!治療を頼む!」


「は、はい!」


セレナが患部に触れ、ヒールをかける。


「グスッ……ありがとう、セレナ」


「ううん!嬉しかったんだよね?」


「うん……アレス様は、か、カッコいいのだ……」


「私もそう思うよ!」


「……とりあえず、ありがとうと言っておくよ」


「アレス様!僕ともやってもらえますか!?」


「オルガ……うん、良いよ。さあ、やろうか」


「はい!ありがとうございます!」


「おっ!速いな!」


「アレス様こそ!」


お互いに剣を打ち合うことなく、お互いの剣撃を避ける!

カグラはパワータイプで、オルガはスピードタイプってところか。

俺と同じタイプではあるが……!


「軽いな……!ハァ!!」


スピードとパワーを合わせ、体重を乗せた一撃を放つ!


「っーー!!」


剣を取りこぼしたオルガの首に、剣を添える。


「どうする?」


「ま、まいりました……噂などあてになりませんね」


その後はセレナと模擬戦をし、初めての戦闘訓練の時間は終わりを迎えた。


え?戦いの様子?倒れた際にパン……うん、明記しないでおこうと思う。


セレナの名誉のために……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る