第7話母上は早くも姑気分のようだ

 校門を出ると、カイゼルが馬車を引き待っていた。


「カイゼル、ありがとう。さあ、2人共乗って」


「い、いいのかな?こんな豪華なの……」


「どうした?セレナ。そなたが乗らないと、拙者が乗れないぞ?」


「ご、ごめんね。お、お邪魔します」


「うむ、拙者も失礼する」


 3人を乗せ、馬車は動き出す。


「うわー……馬車なんて初めてです!」


「なら、良かったよ。また乗りたかったら言いなよ」


「え!?い、良いんですか?」


「うん、友達を乗せるのに理由はいらないでしょ?」


「わ、私が皇子様の友達……?」


「うん、嫌かな?」


「そんなことないです!嬉しいです!」


「うむ!これで、3人で友達だな!」


 そのまま馬車は進み、家の前到着する。


「ただいまー!」


「アレスー?帰ってきたのね……あらあら!まあまあ!!」


「アレス様、お帰りなさいませ……これは、これは……」


 2人共、ニヤニヤしている。


「こ、こんにちは!セレナといいます!」


「拙者はカグラと申します。王妃様、よろしくお願い申し上げます」


「まあ!そんなこと言われたの初めてだわ!」


「母上、カグラは……」


「アレス、わかっているわよ。嫌味で言っていないことは。それにしても……隅に置けないわね?入学式でいきなり2人も女の子を連れてくるなんて……」


「さすがはアレス様ですね。将来が心配ですけど……」


 2人共、そういう目で見ているのか……。

 ……俺からしたら、ただの子供だしな。

 普通の友達感覚だし。




 お昼ご飯がまだなので、皆で食事をとることにする。


「わ、私までご一緒でいいんですか……?」


 セレナは平民だしな……普通は、あり得ないからな。


「いいのよ、気にしないで。お食事は多い方が楽しいわ」


「セレナちゃん、気持ちはよくわかりますよ。私もそうでしたから……でも、この方達はその方がお喜びになるかと。もちろん、他の貴族の方にはしてはいけませんよ?」


「そ、そうなんですね。わ、わかりました!気をつけます!」


「ほら、これ美味しいよ?食べてごらん」


「え?……うわぁー!ホントだ!美味しい!」


「良かった、笑ってくれた。緊張でガチガチだったからね」


「ふえ?は、はぃ……」


「これは、我が息子ながら心配だわ……まあ、アレスなら女の子を泣かすようなことはしないと思うけど……」


「アレス様!拙者はどれを食べたら良いですか!?」


「カグラはね、これかな?」


「……美味!何より楽しいな!うちでは、静かでつまらないのだ!」


 まあ、普通のマナーならそうだろうな。

 だが、うちは食事は楽しく美味しくがモットーだからな。


「ムムム……これは、どちらがお嫁さんかしら?それとも両方?アレスの器量なら、問題はないけれど……うーん、複雑だわ………」


 いや、気が早いから!

 まだ、8歳だから!


 その後、食事を済ませると、カイゼルがやってくる。


「アレス様、稽古の時間です」


「アレス様?今日もやるのですか?お客様がいますが……」


「うん、やるよ。カグラ、セレナごめんね。これサボると、取り戻すのに3日かかるんだ」


 この後は魔法の稽古もあるし、勉強をしなきゃだからな。

 聖痕がないことは仕方ないが、それ以外で馬鹿にされないように……。

 母上が肩身狭い思いをしないように……!


「拙者も見ていいだろうか!?」


「わ、私も!」


「うん?いいけど、結構激しいよ?」


「それなら、尚更のこと!」


「私も!」


 そのまま皆で、庭に移動する。

 そして模擬剣を持ち、カイゼルと対峙する。


「まあ、なら良いけど……カイゼル?」


「私も問題ありません……が、手心は加えませんぞ?」


「そんなことしたら……一生恨むよ……!」


「それでこそ、アレス様です。では、いざ!!」


「ハァ!!」


 俺はカイゼルを攻める!

 カンカンカン!!と庭に音が響き渡る。


「甘い!腰が入っていません!もっと身体全体で振るうのです!」


「わかった!……こうか!」


「そうです!身体が小さくともその威力があれば、魔力を込めずともゴブリン程度なら斬れます!」


「ハァ!!」


「攻めはよしとしましょう。では、こちらから行きますぞ?」


「どんとこい!」


「セィ!」


 その攻撃は、子供にやるには苛烈すぎるものだった。

 防御しきれるわけがなく、身体中に痛みがはしる……!


「どうしました!?もう、終わりにいたしますか!?」


「いや!まただ!まだ、やれる!」


「よろしい!それでこそです!」


 そして10分ほど耐え抜き、ようやく攻撃がやむ。

 俺は立っていられず、庭に仰向けの状態になる。


「ハァ……ヒィ……フゥ……ヘェ……ホォー」


 別に、バイキン○○のマネじゃないからね?

 ただ、疲れただけですよー。


「まあ、良いでしょう。では、これで」


「ありがとうございました!」


 カイゼルは涼しい顔で去っていく。

 クソー、いつか顔色変えてやる!


「アレス様!凄いな!あんなに強いのですね!」


「だ、大丈夫ですか!?」


「うん、大丈夫だよ。いつものことだから。でも、心配してくれてありがとね」


「わ、私回復魔法使えます!」


「え?そうなの?なるほど、だからか……」


 今の学園で平民がSクラスだから、何かあるとは思ったけど……。

 回復魔法は貴重な才能だ。

 聖女が使えるという光魔法を除けば、水属性に高い適正のある者しか使えないからだ。


「えっと……かの者の傷を癒したまえ、ヒール!」


 身体が温かいものに包まれる……すげぇ気持ち良いな、これ。

 そして、痛みが引いていく……。


「お、痛くない!ありがとう、セレナ!」


「エヘヘ、良かったです。お役に立てて……」


「凄いな!セレナ!私は強化しか使えん!」


 ……カグラは、まんまだな。


「うーん……とりあえず、セレナちゃんが一歩リードかしら?でも、平民の子だし大変よね。うん!姑として、私が力になってあげないと!」


 ……だから母上……気が早いから。


 どうやら、もう姑気分のようだ。

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