第3話聖痕とは

さて、俺は今日から学校に通う。


そこは、貴族と平民が共に学ぶ学校だ。

そこでは、初代皇帝が定めた校則が1つだけある。

だが、今ではすっかり形骸化してしまった。

貴族は派閥を作り、平民は貴族に逆らえずにいる。


俺は気合いを入れつつも、どこか憂鬱な気持ちだった。

貴族の連中も、平民に生かされているという自覚がないしな。

むしろ、平民が暮らせるのは、貴族のおかげとか思っている始末。


「まあ、でもやるしかないな。僕だけでもキチンとしよう」


「アレス様〜!準備出来ましたか〜?」


「ああ!今行く!」


俺は部屋を出て、玄関に向かう。


そこには、母上とカエラが待っていた。


「アレス……しっかりやるのよ?」


「ええ、母上。任せてください」


「アレス様。私は何があろうとも、貴方の味方です!」


「ああ、ありがとう。カエラ」


「アレス様、行きましょう」


「ああ、カイゼル。御者は任せた」


「御意」


俺は、カイゼルが御者する馬車に乗り込む。

そして、馬車は動き出す。


そして半分ほど進んだところで、誰かが乗り込んできた。

曲者か!?と思ったが、カイゼルが見逃すはずかない。

なので、知り合いかと思ったのだが……。


「あのー、父上?何をしているのですか?」


「可愛い息子に会いに来た!」


「はい、お帰りください。貴方は皇帝陛下でしょうに」


「息子が冷たい……そうだよな……ろくに会いにも来ない父上なんて嫌いだよな」


「面倒な父上ですね。僕は、ちゃんと父上のこと好きですからね?」


「ほ、本当か!?そうか!そうかぁ……!お父さんは嬉しい!」


「はいはい。で、まさかそれだけのために来たんじゃないでしょう?」


「うむ、相変わらず賢い子だ。ああ、それだけであったらなんと幸せなことか……」


「あのー、学校に着いてしまいますよ?」


「いかん、いかん。おそらく学校では、聖痕がないことで色々言われるだろう。だが、気にすることはない。俺はお前を愛している。そしてお前に非がない限り、お前の味方をすると約束しよう」


「……父上、いいのですか?他の皇妃や、大臣達がうるさいのでは?」


「まあ、そうだろうな。だが、知ったことか。俺は本来なら、継ぐはずもない皇位を継いだんだ。多少のワガママは言っても、バチは当たらないだろう」


「皇帝としては、どうかと思いますが……息子としては、嬉しいです。ありがとう、父上」


「……本当なら、お前とエリナともっと一緒にいたいのだがな……すまんな、アレス」


「いえ、そのお気持ちだけで嬉しいです。まあ、なんで会いに来ないんだ!と思うこともありますが……我慢します。母上のことは、お任せください。ただ、寂しがっているので会いにいってくださいね?」


「アレスは、立派になって……まだ、8歳なのに。はぁ、他の息子供とはえらい違いだ。ああ、妹か弟を作ってやるからな!では、またな!」


そう言い残し、父上は馬車から飛び降りた。

おいおい……子作り宣言ですか。

まあ、出来たら嬉しいけどね。

そうか……父上は俺のことを愛しているのか。

ふっ、仕方ない。

今度来たら、構ってあげよう。


とても温かい気持ちに包まれつつ、再び馬車は走り出す。


俺は前世でいうところの、イタリアに近い街並みを眺めながら、聖痕について考えていた。


聖痕とは、ガーナ大陸の守護者を冠する我が国の皇族に現れるものである。

胸のところに、痣のような模様が現れる。

ちなみに、女神の加護とも呼ばれる。


その恩恵は様々だ。

人によっては、生まれつき剛力になったり。

生まれつき魔力が高かったり。

生まれつき戦いの才能があったり。

生まれつき頭が良かったり。

とまあ、色々な恩恵がある。


何よりも、女神より与えられし神器の槍、アスカロンを扱えることだ。

この大陸の西端に、邪神が封印されていると言われる魔界ドラゴニールがある。

そこからの侵略から守るために、女神マリアが与えたものらしい。

その威力は絶大だ。

そのなぎ払いは魔物の大群を殲滅し、その突きは海をわり、斬れば山をも両断するという。


さて、どうして俺が出来損ないかわかっただろう。

俺には、この聖痕がないからだ。

だから剣の腕が良くとも、魔法使いとして一流になれる才能を持っていても、皇族としては出来損ないということだ。

だから、他の皇族や御偉いさん方に見下されるわけだ。


それは、まあいい……まだ我慢は出来る。

俺が我慢ならないのは、母上が不貞を疑われることだ。

つまり、奴らは聖痕がない俺を、父上の子供ではないのでは?と疑ってるわけだ。

そのせいで、母上は不当な扱いを受けている……。


もちろん、必ずしも聖痕が現れるわけではない。

割合的には、七割で聖痕を持って生まれるらしい。

なら持っていなくても、そこまで不当な扱いを受けることはなくないかと、俺は思った。


だが、父上は本来皇位を継ぐ人ではなかったようだ。

父上の父親、つまり前皇帝が急死したのだ。

その結果、上2人の兄が継承権争いをし、両方共亡くなったそうだ。


そして、末っ子ということで大陸を放浪していた父上は、母と出逢い恋に落ちた。

意気揚々と帰国したら、自分が皇位を継承することになり、父上は渋々承諾したそうだ。

もちろん、母上のことは大反対された。


大陸の東端にある、が作った州郡国家ノスタルジア出身だったからだ。

今は迷い人のことはおいておくとして……。

母上は有名ではあったが、高貴な家の出ではないので大反対されたわけだ。


父上は、国が用意した女性と結婚することを条件に、母上のことを認めさせたそうだ。

だが、当たり前だが父上は母上を愛している。

第1王妃や第2王妃からしたら、面白くないだろう……。


そして聖痕を持つ者を産まなかったのも相まって、不当な扱いを受けているということだ。

そして俺はそんな母上の元に生まれ、不幸だと周りの奴らから思われているわけだ。

……クソ!胸糞悪い……!勝手に決めるな!幸せか不幸かどうかは、俺が決める!

少なくとも、俺は母上の子に生まれ幸せだと思っている。



そんなことを考えているうちに、学校に到着したようだ。


「アレス様、到着しました」


「カイゼル、ありがとう。では、行ってくる」


「アレス様……」


「ん?珍しいね。どうかした?」


カイゼルは普段から、あまり話しかけてくるタイプではないから驚いた。


「……貴方は、ご立派です。亡き主君によく似ておられる……。このカイゼルは、亡き主君に忠誠を誓っております。ですが、貴方の味方でいたいと思います」


「カイゼル……ありがとう。とても、嬉しく思う……」


「……貴方の剣技は、私が責任持って鍛えましょう。では、いってらっしゃいませ」


「ああ、これからも頼むよ。では、行ってくる」


俺は母上とカエラ、そして父上とカイゼルの温かい言葉に包まれながら、校門へ向かう。


いいだろう……!もう、誰になんと言われようが構わない……!


俺は、俺を認めてくれる大切な人達のために……最強を目指す……!






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