少年期~前編~

第2話出来損ない皇子

 さて、俺が皇子に転生したとわかってから6年が過ぎた。

 つまりは8歳なったわけだ。

 どうやら、母上は第三皇妃のようだ。

 だが事情があり、皇城では暮らしていない。

 貴族街の一角に住んでいる。

 聞くところによると、皇族の別宅らしい。



 そして、俺はといえば……。

 年齢に精神が引っ張られるのか、普通に子供だな。

 多少賢かったり、大人びてはいると思うが。

 それでも、常識の範囲内だろう。

 前世の和馬の記憶はあるが、意識的にはこの世界のアレスとして生きている。

 もちろん叔父夫婦や、結衣のことは忘れてはいないが……。

 皆、元気だろうか?結衣が責任を感じてなきゃ良いんだけど……。



 そんな俺は今日も好奇心に身を任せ、外を歩いている。


 さすがに、1人では許可がでないのでカエラも一緒だ。


 ちなみにカエラの容姿も、12歳になり大人びてきた。

 もちろん、まだまだ子供だが。

 ただ、かなりの美少女と言っていいだろう。


 俺の容姿は、自分で言うのもなんだが、母上似の美少年だ。

 母譲りのサラサラのプラチナブロンドの髪。

 透き通るような碧い目。

 あとは、前世でいうとアイドル系の顔だ。

 いや、これは正直嬉しい。

 何故なら、前世は厳つい顔や身体をしていたからな。




「さて、今日はどこに行こうかな?」


「アレス様、あまり遠くはダメですよ?」


「はは、カエラは心配性だなぁ。大丈夫だよ。出来損ないだし、誰も気にしないさ」


「アレス様……」


「おいおい、本気にしないでよ。カエラには笑顔が似合うのに」


「ふふ、おませさんですね。そういう台詞は、もっと大きくなってからです」


「逆だよ。大きくなったら照れ臭くて言えないから、今言うんだよ」


「……アレス様は、時折年上みたいに見えますね」


 おっといけない。

 子供らしくない台詞だったな。


「ふ、大人の魅力ってやつさ」


「ププ!?ちょっとアレス様!?笑わせないでください!」


「ごめんごめん。じゃあ、行こうか」


 俺は、散歩のコースを王都の商店街に決めた。

 ここは、庶民などが利用するところだ。

 最初の頃は不審がられたが、今では慣れたものだ。


「やあ、お姉さん。今日はいいのある?」


「あら、やだ!こんなおばさん捕まえて。今日はいい肉があるよ!ちょっと待っててね」


 お姉さんは、なにかをくれるようだ。


「ほら!串焼きにしたから持っていきなさい。カエラちゃんもね!」


「え!?私もですか?でも……」


「お姉さん、ありがとう!ほら、カエラも」


「え、あ、ありがとうございます」


「良いってことさ!2人がくると商売繁盛するしね!」


 俺達は、串焼きを食べながら歩く。


「良いのでしょうか?皇子様がこんなことして……」


「いいんだよ。僕は庶民派の皇子だからね」


「そんなの聞いたことないんですけど……」


「じゃあ、僕が初めての庶民派の皇子だね!」


「はい、もう諦めます……」


「そうそう。人生は諦めが肝心さ」


「それをアレス様が言わないでください!」


 その後も、店に顔を出しては、世間話などをした。

 あとは、タダで食べ物をくれるところもある。


 先程のお姉さんにも言われたが、俺が行くと商売繁盛するからだ。

 まあ、種明かしをすればなんてことはない。

 俺が前世で得た、衛生管理について教えただけだ。

 うがいや手洗いは、きちんとしなさいとか。

 あまり商品を出し入れしないとか。

 あとは商品の配置とか。

 そういう基本的なことだ。


 そのおかげが、すっかり商店街の人気者だ。

 まあ、その所為で媚びを売りやがってとか言われるけどね。

 兄上とか、その母親にね。

 でも彼等がいなかったら、俺達は生きていけないんだから。

 やつらは、そのことを理解していない。


「いや、今日も楽しかったね」


「……それは、否定しません」


 そして、一度家に帰ることにする。


 家の前に、門番がいる。


 その名も、前騎士団長カイゼルである。

 年齢50歳で、身長190くらいの筋肉隆々の人だ。

 この人は、俺が生まれた頃からここに居る。

 俺が2歳の頃に気づかなかったのは簡単だ。

 この人は、ここから動かないからだ。

 一度も、家に入ったことはない。


 まあ、理由は簡単だ。

 不貞を疑われぬようにだろう。

 ちなみに、我が家を守るために父上が頼んだらしい。

 他の王妃や、その取り巻きの貴族などから。

 まあ、その辺は色々複雑で、俺も全ては理解してない。


「ただいま、カイゼル」


「お帰りなさいませ、アレス様」


「じゃあ、お願いしていいかな?」


「御意」


「それじゃ、庭に行こう」


 俺達は庭に行き、模擬剣を構える。

 これは、6才から始めたことだ。

 前世の経験もあり、剣が一番使いやすい。

 それに元々の身体も剣の才能があるようだ。

 だが、この世界では槍が主流のようだ。



 そして30分ほど打ち合うと、すぐにヘトヘトになる。


「ハァ、ハァ……ありがとうございました!」


「ふむ……中々良くなりましたな」


「ホント!?良かったー!」


 カイゼルは基本無口だし、褒めないからな。


「ですが、まだまだです。では、これで」


 そして門番に戻る。

 うーむ……相変わらず謎だ。

 とりあえず、いい人だからいいけど。


 俺は、次に魔法の稽古をする。

 嬉しいことに、魔法の才能があったのだ。

 あれ?剣も魔法も得意なのに出来損ないなの?と誰もが、思うだろう。

 まあ、これにもきちんと理由はある。

 しかし、今は考えるのやめる。

 いやな気分になるから。




 さて、 この世界には魔法がある。

 いわゆるファンタジーだ。

 属性は火、水、風、土、光、闇だ。

 火水風土はそのままのイメージ。

 光が回復魔法などにあたる。

 闇魔法は毒を与えたり、その使い方は多岐にわたる。

 あと人により、適性が違う。



 魔術にはランクがある。

 下級、中級、上級、超級、覇級、神級だ。

 魔術が使える人は、全人口の4割程度らしい。

 しかも、ほとんどの人が下級止まりらしい。

 中級から、使える者が一気に減る。

 神級にいたっては、使える人がいない時代もある。


 さて、俺は下級だ。

 そして適性があるのは、闇と火だ。

 普通は1つである。

 なので、2つ持つ者は稀である。

 あれ?俺は凄いのか?と思った時期もありました。

 後、闇魔法はある理由があり忌み嫌われている。

 なので、あまり人前では使えない……おっと、いけない。

 ダークサイドに落ちるところだった……闇だけに。



 よし、今日は火の練習だ。

 使い続ければ、少しずつ魔力の総量は上がる。

 だが魔力の総量は、人それぞれに上限がある。

 なので無限に上がる訳ではない。

 俺は少しずつ上がっている。

 最初の頃は、ファイアーボールという初級が1発だった。

 今では10発は撃てる。


「ファイアーボール!」


 俺が訓練用の壁に放つと、ドン!という音がし、僅かに焦げ目できた。

 まあ、加減はしてるので威力は低い。

 人に当たっても、火傷程度だろう。

 さて、もう1発と思ったら声がする。


「アレスー!ご飯よー?」


「わかりました!今行きます!」


 母上の言うことは絶対だ。

 決して俺がマザコンだからではない。




 はい、嘘をつきました……マザコンです。

 でも、仕方ないと思う。

 接する身内が、母上しかいないし。

 父上は、月に2回くればいい方だし。

 祖父母は死んでいるみたいだし。

 異母兄弟とは、1人を除いて嫌われてるし。


「まあ、とりあえず行くか」


 俺は、リビングに向かう。

 ちなみに、我が家は二階建てだ。

 1階に広いリビング、広いキッチン、トイレ、広い風呂。

 2階は寝室が3つ、客間が2つ。

 広さは、100坪はあるな。

 前世でいえば、そこそこの豪邸だ。



「あら、来たわね。さあ、食べましょう」


 母上は、相変わらず綺麗だ。

 まあ、まだ26歳だから当然だが。


「はい、いただきます」


「いただきます」


 大体いつも、カエラと母上と食べる。

 ちなみに、カエラは使用人の立場らしい。

 だが、俺と母上が一緒に食べることを強制した。

 だって、家族だもん!と言ったら、泣かれたな……。

 まあ、そんな訳で仲良く食べる。



 さて、食べ終わったら自分で食器を下げる。

 あれ?俺は皇子じゃないの?とたまに思う。

 だが、気にしたら負けである。


 そして、食後は母上とお話をするのが恒例行事だ。


「さて、アレス。いよいよ、明日から学校です。準備はいいですか?」


「はい、母上。問題ありません。皇家の者として、恥じぬように、模範となる行動をいたします」


「ふふ、立派になって……。早いものね。アレスは幸せかしら?こんな母親の元で……」


「母上……怒りますよ?僕は、母上の子供で幸せです。


「アレス……ありがとう。そして、ごめんなさい。弱気になって……」


「母上、奴らの価値観なんざ、ぶち壊してやります!見ててください!」


「ふふ……こんな良い息子を持って、私は幸せね」


 俺は、今世の大切な人達のために誓う。


 聖痕がなんだ!そんなものなくても、強くなれることを証明してやる!






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