第1話異世界転生


頭の中で、2つの声が、途切れ途切れに聞こえる。


「—マ、邪魔を——!」


「フハハ!——よ、我が力を——!!」


「———憎しみが、育たない!」


「こやつは、——転生——!」


「そうはさせま——!必ず——!」


「ぐ!力が——!すまな—!加護だけは!」






俺は、意識が戻った。

何か夢を見ていた気がする……。

だが、思い出せない。


そして……何かがおかしいことに気がつく。

身体が動かない。

目も見えない。

耳もほとんど聞こえない。

確か……車から結衣を庇って……。

植物人間にでも、なってしまったか?

まあ、生きてるだけいいのか……?

それよりも、結衣は無事か……?




すると、かすかに声が聞こえる。


「あら、どうしたの?ミルクかしら?」


俺は、身体が浮いたような感覚になった。

どういうことだ?

見えないからわからん。

すると、何かが身体の中に入ってくる。

なんだ!?この美味いのは!?

そして、気がつくと意識を失っていた。




それから、大分時間が流れた。

さて、どうやら俺は赤ん坊のようだ。

いや、なんでだよ!?

おっと、いけない。

冷静に、冷静になれ。



ふぅ……さて、改めて状況確認だ。

俺が何故、赤ん坊かわかったかというと、簡単だ。

わずかだが、目が見えるようになったからだ。

そして、耳も聞こえるようになってきた。

手足も動くし、寝返りも打てる。

なので、周りを見ることができる。


すると、巨人がいたのだ。

最初は、恐怖でチビってしまった。

いや……それは元々か。

まあ、そんな訳で、冷静になって考えてみた。

ある答えに行き着いた。

あれ?俺が小さいんじゃね?と。


さらに、母親?らしき人が、抱っこしておっぱいを吸わせるのだ。

これは、もう確定事項なだろう。

ちなみに、おっぱいを吸うことに関しては、無である。

考えだしたら、羞恥心でどうにかなりそうだからだ。

だが、生きるためには仕方ない。

なにより、美味しい。




さて、あれからどれくらい経ったのだろう?

基本的に、意識がある時間が少ないからなぁ。

まあ、赤ん坊じゃ仕方ない。

寝るのが、仕事だからな。



わかったのは、俺がアレスという名前だということ。

次に、母親がエリナだということ。

いつもおっぱいをくれる人が、母親だった。

何故なら、ママですよ〜と言うからだ。

あと、もう1人女の子がいる。

名前は、カエラ。

多分、5歳くらい?

俺のオムツを替えたり、抱っこしたりしてくれる。

あと、カエラですよ〜っと言ってくる。


そして俺は、この辺りで漸く認めた。

これは、転生というやつでは?と。

そして、思った。

何故言葉が日本語に聞こえる?

どう見ても……相手は外人さんなのだが?

……まあ、考えても仕方ないか。


▽▽▽▽▽▽


あれから、また時間が過ぎた。

俺は、2歳くらいか?

もう言語に関しては、気にしないことにした。

実際すごい楽だしな。

あと、とりあえず男のようで安心した。

さらにハイハイはもちろん、歩く事も出来るようになった。

そしてどうやら、転生ではなかったようだ。

転生は転生でも、だった。


理由は簡単だ。

魔法を見たからだ。

母上が暖炉に火を焚べるのに、使っていた。

ファイアと唱えたら、手から火が出たのだ。

俺は、思わず感動した!

ファンタジーか!と。

まあ、赤ん坊なので、表面上は泣き出しただけだが。


おっと、言い忘れていた。

次は、母親とカエラの容姿だ。

母親はプラチナブロンドの長い髪。

さらに、目は碧い。

西洋系の容姿をしている。

スタイルも良く、絶世の美女って感じだ。


カエラは、綺麗な黒髪を肩あたりまで伸ばしている。

目の色は黒っぽく、顔は東洋系だ。

というか、日本人に近い容姿だ。


さて、そんな訳で行動範囲も広がり、気づいた。

あれ?父親いないの?と。

最初は、俺が寝てるタイミングで来てただけかと思っていた。

だが、今まで男を見たことがない。

というか、母親とカエラ以外見たことがない。

これは、どういうことだ?




さて、そんな時に現れた人がいた。

ハリウッドスターみたいな外見の男だ。

中世の貴族のような格好をしている。


そしてどうやら、この人が父親のようだ。

母親が見たことない顔している。

いわゆる女の顔ってやつか。


むむ、今更やってきて何の用だ?

何故、今までいなかった?

お気づきかもしれないが、赤ん坊になったことで俺の精神も幼児化している

すると、いきなり持ち上げられた。


「おお!アレス!大きくなったな!すまんな、中々時間が取れなくてな」


「ラグナ、仕方ありませんよ。貴方はこの大陸の守護者、アスカロン帝国の皇帝陛下なのですから」


「お前にも、苦労をかける。本当なら、皇城へ連れて行きたいのだが……」


「いえ。私は大丈夫です。貴方が、こうして来てくれるだけで。それに、私にはこの子がいます。可愛い可愛いアレスが。それに、妹分のカエラもいます」


「そうか……まあ、本来なら継ぐはずじゃなかったからな。おかげで、アレスに会う暇もない」


「ふふ、アレス〜。この人がパパですよ〜」


「はは!まだ、わからんだろう」


「いや、この子は賢いのでわかっていると思いますよ?」


「そうか。今も泣きもしないし、強い子でもありそうだ……では、名残惜しいが帰るとしよう」


そう言って父親と名乗る人は、俺を下ろし帰っていった。


ちなみに、俺がうんともすんとも言わなかったのは衝撃を受けたからだ。


え!?俺って皇子なの!?


どうやら異世界転生して、皇子に生まれ変わったらしい。

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