第25話
王都での交渉の後からアール伯領へ向かう便は大きく二つに分けられた。
先行の輸送車四台と、後続の隊商だ。
アール伯の車はワートが運転して隊商と行動を共にしている。
後続の隊商はラビットが出資したアール伯領への隊商であり、立ち上げの物資から各神殿から派遣される神官までをまとめて面倒を見ることになっている。
輸送車はうさみが、正確にはラビット玩具開発が出したものだ。
一台は前回うさみが運転した貨物向けの輸送車、二台は別のもう一台は人を三十名まで乗せられる貨客向けの輸送車である。
アール伯は途中でダイク直轄領の代官を訪ねる予定で、後者の人員輸送車を運転手ごと借り受けた。
護衛を含むアール伯の部下をまとめて連れていくためだ。
実は、旧家臣団が想像以上に集まったのだ。
次男三男を中心に数人集まれば最低限、十人集まればひとまず御の字と考えていたのだが、声をかけた中で家族ごと移りたいというものが三家族いたのだ。複数を送ってくれたのが六組、ひとりでもと送ってくれたのが八人。
最終的に四十名を超え、半数は執事、いや家宰と呼び変えることになったワートがまとめ、後続の隊商と同行することになった。
そうして戦力に数えられるもののみを護衛を兼ねて連れ、ダイク直轄領へと向かったのだ。
最後にうさみの貨物輸送車だが、大地神官でもある彫刻家とその弟子たちと、ラビット玩具開発の移住を決めた六名、あと運転手のうさみという構成だ。
アール伯領とともに残ったローズと共に、開発の基礎を整えることになっている。
つまり三角形の結界敷設の準備である。
ラビット玩具開発の社員の中には魔導師や錬金術士、あるいはその両方である物がいる。
玩具開発のために親会社であるラビット魔動錬金会社から独立した者たちなのだ。変わり者ぞろいである。
そんな連中に都市計画などというものに参加させたらどうなるか。
嬉々として参画しようとするのだ。だって楽しそう、と。
丁度ひとつの仕事が親会社に取り上げられたところでもあり、新しい娯楽に飛びつく子どものように、というよりはそのものだ。
打ち合わせは王都ですませた。
大枠から外れなければだいたい認めると言質もとった。
そのうえ実験場まで用意してもらえる、いや用意できるとなればもう止める理由もなかった。
移動中の荷台の中でも激しく議論されており、なにやら旧街道上に丸太が設置されていても止まらず、周囲を囲まれても止まらず、攻撃を受ければ迎撃のの地続けられた。
大地神官集団を敵に回すのは大地を敵に回すのと同じである。
魔導師と錬金術士の出番を待つことなく、攻撃者は腰まで地面に埋められた状態で放置された。
翌日エニィの人員輸送車に発見され、エニィの予定が一日遅れることになった。ダイク直轄領の代官の元へ連行したためだ。
些細な問題はさておき、先行して到着したうさみ車は、アール伯領で準備を進めていたローズと合流した。
「ようこそ」
「お疲れろーさん。状況は?」
ここがアール伯領か、だの、どこに作るんだ、だの興奮を隠さずキョロキョロしている乗員たちを置いて、うさみはローズに話しかける。
「予定通りです。目標地点に目印を設置したので確認を。当座の屋根は設置中ですが後回しでよいと断りました。例のテント試しますよね?」
「持ってきたよ。あとは、木は?」
「十本確保しました。うまくいくならもっと供給してもらえると」
「おけ。じゃ、圧縮機試そうか」
ラビット玩具開発としては開発したが様々な理由で試験ができていない道具を試してみたいという欲求がある。
その意味でも今回の件は都合がよかった。
開発中の物の試験、そして開発自体も。王都という環境の中ではできないものもあったのだ。
簡易テントもその一つである。
短時間で簡単に設置・撤収できるというコンセプトで作られたこれは野宿を禁止されている王都ではテストできなかった。
無駄に複数種開発されているそれを今回もちこんだのである。比較検証のため交代で試してみなければならない。
多分すぐ飽きるが、そのころには仮設住居が行きわたるか、開拓予定地に分散して空きが出るという見込みである。
なんなら自前で建ててもいい。ものづくりが好きな連中なのだ。
そしてそんな連中のために開発中でテストを控えていたブツが圧縮木材製造機である。
従来、樹木は伐採後乾燥させてから製材して木材として使用するものだが、これはその時間を大幅に短縮させ成形し強度も上げられるという夢のような新技術だ。
うまくいけば。
玩具の素材としてより強度の高いものがあると便利なんだけどなあ、金属は高いしサビるし重いし、という需要から研究が始まった。
魔法による実証試験は一応終わっており、あとは魔動錬金技術込みで装置化し、魔法が使えなくても使えるようにするところである。
今回は試験機を持ってきたので、爆発してもいい場所で試してみる予定なのだ。
成功すれば木材の生産速度が上がり、開拓にも役に立つだろう。
「おぅい、うさみ殿よ、はじめていいんか?」
「あ、先生。ちょっと待ってね……よし」
先生というのは芸術家先生を略したあだ名である。
うさみはローズが設置した目印の位置を確認し、始点である井戸から光の線を繋いで可視化した。
目印の位置把握と光による可視化はエニィなどでもできるだろう、珍しくもない魔法技術である。
どう進めるにしても三角形の水路は確定で設置するのでそこから始めてもらうとする……いや代官さんに確認、は事後承諾でいいか。
「この光の線に沿って水路のために掘り進めてもらいたいの。それで出る土は像や神殿の素材に使って」
「よっしゃ、お前ら聞いたな、早く終わればお楽しみだぞ」
「押忍!」
「あ、魔力が必要なら魔動石使ってね」
「マジか! よぅし、お前ら、二手に分かれろ、早く終わった方からやりたい仕事を選ばせてやる。ワシは神像をやるがな!」
「師匠ズルい!」
「横暴だ!」
「うるせえ! 用意はじめ!」
「土を石に!」「土を石に!」「土を石に!」「土を石に!」「土を石に!」「土を石に!」「土を石に!」
動き出した大地神官の集団。
土を石にというのは大地神官が使う祝福、つまり神聖魔法で、土を石に変換する魔法である。逆魔法に石を土にというものもある。
大地の神聖魔法としては初歩寄りのもので、彼らはこれを使って彫刻の材料を調達するのだ。天然石を使うこともあるが高級素材なのでなかなか扱えないところ、自前で用意できれば芸術活動し放題というわけである。
彫刻の材料のために神官になったキワモノ集団なのだ。そんな連中を受け入れる大地神も基準大丈夫かと心配になるが大丈夫なのだろう。
今回水路はこの魔法で石を作って取り除き、さらに残ったくぼみごと、範囲を広げて石にすることで作ることになっていた。
神聖魔法には魔力が必要なので一日の作業量に限界はあるが、魔動石を供与することでこれを解決。普通なら莫大なカネがかかるところだが、現物が山とあるので心配は足りるかどうかである。
取り除いた石は神殿と彫像の材料になるので運んでもらう必要があるが、それはあとでいいだろう。
ほぼほぼ神殿の材料づくりに大喜びな大地神官は放っておき、うさみは自分たちの仕事に移る。
「それじゃ、機材の準備よろしく。わたしは代官さんと話してから森で魔動石拾ってくるから」
「うーさん一人で大丈夫?」
「魔動石製造機の様子を見たいからついていっていいか?」
「ダメ。お前がいないとこっちの機材動かすのに困るだろうが」
わいわいとにぎやかな仲間を置いて、うさみも動き出した。
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