第13話
エニィの演説の翌日。
エニィとうさみが運転する二台の車両がアール領から王都へと出発した。
予定では輸送車が一日先行するはずだったのだが、荷台の後部扉の破損を修理するために一日遅れたのだ。
うさみが金属製の扉を取り外し、金づちで叩いて魔法をかけて修理する様子は村の子どもたちにとっても珍しかったようで、危ないから近寄るなと追い払われても寄ってくるために飴ちゃんを与えて従えていた。
うさみが人族の子どもサイズであることが子どもたちに必要以上の親近感をかき立てるらしい。
その修理中に、魔動石を一時保管するための倉庫と保管輸送箱の見本が作られた。
倉庫といっても掘っ立て小屋で、冒険者用の宿舎の敷地内に置かれた一時的なものである。
保管輸送箱はラビットで正式に採用されている規格と同じもので、その大きさについて表面に刻まれていた。これは、魔動石の大きさに合わせたもので丁寧に詰め込めば雑に詰め込む倍ほども入る(当社比)そして、ラビット製の車両に積むのにちょうどいい外形でもあるのだと組み上げたローズが言っていた。
そのローズは村に残り、領民の有志と協力して箱作りと箱詰めを進めておく役割を請け負った。
なので王都に帰るのは七人だ。
エニィ、ケニス、うさみと、冒険者四人である。
このうち、女性であるアユが輸送車の助手席に、二人はエニィの車に。
そしてもう一人は箱型荷台の上部ハッチで魔動石の山の上に座る……ということになりそうだったところを、運転席の後ろを片付けてそこに入ることができるようになったのだった。
なにげにエニィの車の荷物室よりも大きな空間であり、成人が横になれる程度の広さがあった。うさみの私物やおもちゃや寝具、予備の食糧などが置いてあったのを下ろしてしまえば十分人を乗せられたのだった。
それでもやはり窮屈であるし、出入りしやすいわけでもないため、一番立場が下らしいサヴァという若者が押し込まれていた。
もっとも体が小さいアユのほうが都合がよさそうなものだが、うさみが大きな男性が苦手と言い出したのが決め手となった。
「ちょっとわたしと視線の高さ合わせてみてよ」
鍛えている成人人族を見上げる時、小柄な人種はどれだけの圧力を感じるのかを実感できる提案だった。
このときアユが仲間の男性陣をからかってひと悶着あったのだが、仲間内のじゃれ合いだったようである。
話しは変わるが、冒険者たちは、多すぎる報酬に戸惑っているようだった。
最大に見積もった予定よりも早く仕事が終わったこともあり、不相応な報酬を受けていると感じているようだった。
後で聞いた話では、不相応な報酬には口止めだったり踏み倒しだったりという冒険者にとって厄介あるいは致命的な問題つきものだという認識があったらしい。
今回エニィたちが冒険者に高い報酬を出したことにはもちろん理由がある。
普段と時期、内容ともに違うために開拓者協会に吹っ掛けられたのをそのまま呑んだことがその一つだが、この条件丸呑みを行ったことも別の理由によるものだ。
つまり、冒険者たちの懸念はある意味で間違っていない。
アール伯エニィに目論見があってのことということだ。
「こんなに早く終わりましたが、報酬をあれほどもらってもよいのですか」
と、帰路エニィの車に同乗した冒険者の一人、マーグが尋ねてきたとき、エニィは前を走る輸送車との車間距離を測りながら少し考える。
だが答える前に、助手席のケニスが反応した。
「なんだよ、俺よりも高給なのに不満なのか?」
「ええっ、いや騎士様そういうわけでは。おい、マーグ」
「騎士じゃないんだが」
「えっ」
慌てた様子の冒険者のリーダーカッツが
ケニスが騎士ではないというのは、アール伯家としてみると、少しばかりデリケートな話で、こういったときすぐさま応じてくれるようなケニスにとってもきっとそうだろう。
だからというわけではないが、報酬について不安に思っているのであれば、教えておくべきかもしれない、と話を変えることにした。
「ケニス。あなたにもきちんと報いるわ。それで、報酬が気になるのね。それはもちろん受け取ってもらって構わないのよ、と言っても疑問の答えにはならないわね?」
「ええその」
「そうですね」
「マーグ、お前なあ」
「いいのよ。秘密ではないことだから」
秘さねばならないことは秘密にする、ということを匂わせてから、エニィは言葉をつづけた。
「アール伯が報酬を出せる、ということ示すため」
「というと」
「これからアール領は人手が必要になる。あなたたちに多めの報酬を払えば人を集める助けになるということよ」
「我々を利用しようということですか」
「そうよ。それでも十分以上の報酬額でしょう」
単純な金額にのことだけでなく、生成魔動石による現物払い、それも目立つほどの物量であることも意味がある。
つまり話題に上りやすくしたかったのだ。
さらに。
「領民の皆さんからの手紙配達を依頼されたのもそういうことですか」
「! そうよ」
昨日中に、元冒険者の領民から知り合いの冒険者宛ての手紙を書いてもらっていた。
引退を考えている世代への勧誘と、そうでない世代へアール領からの仕事を請け負ってほしいというお願いをする内容だ。
冒険者の抱え込みを嫌う開拓者協会だが、引退冒険者すべてにその後の生活を斡旋できるわけではなく、仕事を依頼された場合緊急でもなければある程度冒険者側がどんな仕事を受けるかを選ぶこともできる。
領地を再開発するということは魔物の領域により踏み込むことになる以上戦える人員はいくらでも欲しいが、現在の戦闘経験を持つ者はほとんどどこかの組織に属しているため、カネで雇うことができる冒険者は貴重なのだ。
確保するために必ずしも必要なくとも彼らを雇い、過分なほどの報酬を与えたのは冒険者確保のための布石なのである。
引き抜きまでは開拓者協会が許さないだろう。
それでも可能な範囲で人手を集めるための小さな努力の一つだということだ。
そして、この手紙だが、カッツたちにで開拓者協会へ配達依頼を出すように頼んでいた。
料金は別払い、ただし、彼らが直接手渡ししたものの料金は懐に入れても構わないという条件をつけてあった。
冒険者宛ての手紙なので開拓者協会へ渡せばほぼ届くのに、わざわざ彼らの手を介する理由、それは手紙を受け取った者が実際にアール領を見た者と話をすることを期待してのことだ。
そうしてくれとは言っていないが、生の声が伝わる方が信ぴょう性が増えるだろう。
もっとも、マーグが感づいているようなので、こう言っておいた方がいいだろう。
「よかったら、無理のない程度にアール領が人手を求めてるって話しておいてもらえるかしら。それから、あなたたちもね。次の仕事にも参加してもらえればうれしいわ」
「ありがとうございます」
「前向きに検討します」
こうしてエニィは冒険者の勧誘をまた一つ進めた。
しかし、となりに座るケニスが複雑な表情をしていたことにも気づいていた。
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