第11話

 村へ帰還すると、代官がアール伯に駆け寄り、よかったよかったと大げさなほどに騒いでいた。


 その様子を横目に、カッツたち冒険者チームはローズの手伝いで荷下ろし作業の準備をしていた。

 カッツたちの報酬を除く魔動石は一旦村に保管するつもりらしい。

 王都まで帰るのならついでに乗せて帰ればいいと思うのだが、何か理由があるのだろうか。

 王都で下ろせばカッツたちが力仕事に駆り出されずにすむのに……いや、金目のものの保管設備もない村に置いておくのは不用心なのではないだろうか。


 ひとまず冒険者のための建物の一室に詰めておくことになった。倉庫は使うので邪魔になるという理由だ。

 一時的に使っていない部屋の中においておき、箱詰めと保管設備を用意して移すのだそうだ。

 それらについてはカッツたちと直接関係ない話なので聞き流した。



 そして一仕事終えた後、その日も村に泊まることになった。


「まあこれで歩いて帰るのは無理があるしな」

「そうっすね」


 カッツたちが用意した、運べる限界の袋に詰め込まれた特別報酬。

 こんなものを持って歩いて帰るのは現実的ではない。単純に重くてかさばるため長時間の移動に向かないだけでなく、道中許容できる状況が少なくなりすぎるからだ。

 道中なにかに襲われれば邪魔以外の何物でもない。そうでなくともなにかの拍子に袋が破れたら回収できないだろう。

 無事持ち帰るにはうさみの輸送車に同乗する必要がある。

 そして同乗を断られることはないだろうとは思っている。

 今回の契約は予備日を込みでひと月だ。

 魔物の領域の森に踏み込み、視察・調査の護衛を行うならそれくらいの時間は必要である。

 だが現在これで三泊でひと段落していると思われる。


「もう終わりなのかしら?」

「アール伯は王都に戻る話をしていましたね」


 明日以降の予定はこれからえらい人たちが決めるので、明朝伝えられるということになっている。

 死霊都市ダンジョンまで行くという用がすんだ以上、帰るものだと期待しているが、報酬を考えるとこれで終わるというのも逆に怖いところがある。

 ひと月の拘束期間だが四日で終わるというのは、目的を早期に達した場合はまれにあることである。

 例えば、特定の魔物を狩るような仕事では、捕捉までに運や状況が絡むため長めに見込むが、うっかり遭遇して早く片付くことがある。

 その場合、仕事の完了を確認次第拘束は終了するのが慣例だ。


「でも、素直に帰るっすかね? これだけ簡単な仕事なら何度か往復するんじゃないっすか?」

「そうだな。俺ならそうしたくなる」


 結局魔物との交戦らしきものは聖水で追い払った一回のみ。

 これ程何もなく往復できるなら、魔動石を回収に往復したくなるし、稼ぎのためにはそうするのが正しいだろう。


 そうなると、カッツたちも労働力として使われることになるだろうし、断った場合自力で帰ることになる。実際的に断れないのだ。

 また、仮に追加の仕事をすることになっても報酬はこれ以上増えないだろう。

 すでにこれ以上ないほど報酬を受け取っており、物理的に持ち帰れない。


 働いても報酬がもらえないのなら付き合うのはおっくうである。

 だが。


「まあ、よほどの無茶でなければ協力するべきだろう。今後もお得意様になりそうだしな」

「そこですよね」


 もともと、アール領の仕事を受けてきていた理由と実績もあるのだ。

 今後アール領が活発になるのなら多くの仕事が開拓者協会に回ってくるだろう。

 大勢動員された時、主導的立場になるのは以前にその場所での仕事を受けた者が優先される。

 継続的な収入源、それも中心に近い場所で動くことができるとなると、投げ捨てるのは勿体ない話だ。


「それなら今日は早めに休みましょ。それとも頭付き合わせてれば何か名案が出るかしら?」

「寝るっす」


 即答するサヴァに皆苦笑いして解散した。








「なっ……」


 翌朝。

 早めに寝たことでいつもより早く目が覚めたカッツは身体をほぐすために軽く運動しようと宿舎から出て絶句した。


 宿舎の前に魔動石が山と積まれていたのである。


「昨日の分は全部運び込んだはずだが」


 それに。

 見たところ昨日持ち帰った量より多い、ような。


 寝起きということもあり、思考が回っていないカッツだったが、車両が道を走る音に気が付いた。

 よく見れば、魔動石の山は輸送車が駐車していた場所にあり。

 つまり輸送車は今この場になく。

 ではどこにあるのかといえば今まさに、ゆっくりとした速度でこちらに近づいてきていたのだった。


「あ、おはよ。早起きだね」

「あっはい」


 運転席からうさみの声。

 輸送車はで宿舎の敷地に入って、カッツの近くまで寄ってきて、つまり魔動石の山の隣で停車した。


「あの、まさか夜中往復したんで?」

「うん、二往復しかできなかったけど」


 運転席から跳び下りながら答えるうさみ。


 昨晩仲間たちと話した内容。

 稼ぎのためなら往復するだろうと、そう考えたわけだが。

 それはまさに当たっていた。

 しかし、カッツたちに声をかけるわけでもなく、夜中に往復するとは考えもしなかった。


「帰りに大型の魔物に遭ってね。報告しないとなんだけど、アール伯は?」

「まだお休みじゃないですかね」

「そりゃそうか」


 早朝である。

 仮に起きていても訪ねるのは迷惑な時間帯だ。


「って、大型の魔物?」

「うん、ほらこっちみて」


 うさみに手招きされ、輸送車の背に回る。

 すると、後部扉に四つ足の爬虫類が頭を突っ込んでいた。

 いや正確には頭にある角が後部扉に突き刺さっていた。


「うわささってる」

「これは……」

「なんか後ろから来てたから急停止したんだよね。そしたらがつんって手ごたえがあって静かになったんでそのまま再発進して帰ってきたんだけど」


 うさみが無茶苦茶なことを言っていた。


 一角竜。

 竜とついていることからわかるように亜竜の一種である。

 翼はなく、長い首と小さな前肢、大きな後肢をもつ。頭部から斜め前方に大きな角が生えている。

 空は飛べないが足が速く、角を前にして突撃してくるのだ。

 大型というだけで角がなくても危険なのだが、硬くて太くてつやのある角がさらに危険度を増している。

 竜の眷属は頑強であることが定番なのだが、この一角竜は首の部分がおかしな方向に曲がって首から下はだらんと力を失っていた。


「どうしようこれ。事故った野生動物は食べて供養するべきかな?」

「べきかなと言われても困るんですが」


 二人でさばいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る