第10話
旧領都の傍で一晩を明かし、アール領の村へと帰ることになった。
旧領都周辺も通り一遍の探索を行ったが、ダンジョンと化したことの影響か、外壁は破れておらず、外壁から一定の範囲には草一本生えていない状態。
二つある街門の片方はエニィとうさみの結界によってふさがれ、もう一方は解放されたままで、一つ目と同じく見張りのアンデッド兵士が立っていた。アンデッドがこちらから回りこもうとしている様子もなく、エニィたちがもう片方を占拠していることは影響がないようにみえる。
アール領の村につながる道の反対側、かつて旧帝国へとつながっていたと伝えられる道も、森に飲まれたままだった。
もう少し広い目で見れば、一帯は森と化しており、その中にポツンと旧領都があるという状態だ。
かつての街道も、森の浸食によって街道跡となっており、そのままでは通行できないだろう。
うさみが使った森歩きの魔法があれば別だが、容易に往復することはできないということだ。
それでもカッツたちのチームはたどり着いたことがあるという。
だが当然徒歩であり、それでは持ち運べる荷物の量は限られる。魔物の危険があるため、体力任せの過積載も危険である。
その一方、一晩の間に魔動石は山となっている。すでにうさみの輸送車であってもとても一度に持って帰ることができないことは明らかで、まだまだ出てくる様子であり最終的にどれだけの量になるかはわからない。
これは野ざらしに放置して戻ることになる。
現状の八人でどうにかできる量ではなく、屋根や囲いを作るにしても手も時間も惜しいうえ時間経過であふれるだろう。
うさみができるだけ遠くに落ちるよう射出口の角度を調整していたが、死霊都市ダンジョンからの魔力抽出が止まらなければ、魔動石生成装置が埋もれるかもしれない。その時間を遅らせるために折り畳み式の足をつけてきたのだろうと、エニィは見ていたがそれもまた時間稼ぎでしかないだろう。
装置が埋まったらどうなるかはうさみもわからないという。
装置が壊れるか、押し出しながら増やし続けるか。
あるいは外的要因で予想外のことが起きるかもしれない。
ともあれ、大量の金目のものが放置されることになる。
それとは別に、死霊都市ダンジョンとなった旧領都内には、当時持ち出せなかった都市の住民や領主の資産が眠っていると見られている。
管理されていない遺跡や遺構にある物は発見者、正確には実際に持ち出した者に権利があるというのが慣例である。
仮に魔動石生成装置によってダンジョンの魔力がすべて魔動石に変換されたら。
あるいはそこまでいかずともダンジョンの力が弱まれば。
内部の財宝を手にいれる目途が立つことになる。
最大の障壁は往復の経路だ。
ある程度の安全が確保されなければ大規模な輸送は不可能で、
だがその壁は今後のアール領再開発で少しずつ低くなっていくだろう。
どこかで誰かが抜け駆けして盗掘に走ること、それは避けられないと思われる。
旧領都内部は慣例上も実際的にも、外に放置してある魔動石の山の拾得も止められるものではない。止めるには現場を確保したうえで警備する必要があるが現状ではそれは不可能だからだ。
アール伯エニィ・ウェアは今回の冒険ともいえない冒険行で得たものについて考えていた。
輸送車に満載した魔動石。これはラビットによる換金が保証されている品である。
旧領都の生の情報。
アール領内、魔物の領域に換金可能な資源。それを手にいれることができるという実績。ただし有限。装置が壊れるかダンジョンの魔力が尽きれば終了。
うさみはこの二つを使って人を集めることを提言してきた。
エニィも人を集めようとはしていた。
原資なし、とは言わないまでも少なかったこと、実績がないことから成果はろくに上げられなかったわけだが、カネとカネになるという実績によって風向きは変わってくるだろう。
現金の確保とある程度の継続的な収入源の存在で、利益を求める者を集めることは可能になった。
農地開拓と防衛体制構築の成果が出るまでの時間乗り切れば、貴重な農作物による収入で開拓地の維持は可能になる。
ただし、維持するだけでは足りないし、それにも人手がなければ始まらないのだが。
防衛戦力となる者、農地を耕す者、この二つは兼ねても構わないがいくらいても足りないだろう。
そして彼らの指揮ができる者。こちらは信頼できて能力がなければならない。これが致命的なまでに足りてない。
仮に魔物が居なくても、開拓は十年規模の事業である。魔法使いや神官などの力を借りて大幅に短縮できるとしても相応のカネが必要である。
また、人材の育成も信頼の醸成も短時間でできるものではない。
しかし、エニィは、アール伯は早急にある程度の成果を出さなければならない立場。
初期資金の問題が解決されても、目下の問題はまるで減ってはいないのだ。
信用できて有能な指導者とできれば戦える労働力の確保。
そして彼らを使っていくための組織構造。
利益を求めて集まってくるだろう人々の中からこれらを見出していかなければならない。
なるほど、とエニィは息を吐いた。
当初考えていたより忙しくなるだろうが、それは条件が有利になったためで、歓迎すべきことだ。
計画通りに手をつけつつ起きる問題に対処していけばいいだろう。
最初の想定外が都合のいいものだったことを喜ぼう。
王都に戻ればまた各所を行脚することになるだろう。
エニィはその順番を考えるのだった。
一方うさみも運転しながら今回の反省をしていた。
つまり一人で長時間運転するのは楽しくないということだ。
音楽かラジオでも聴きながらであればまだしも、黙々と運転するのはつまらない。
音楽を録音再生する機器はまだ出回っておらず、これを開発するべきだろうかと真剣に考えていた。
とはいえ助手席に誰か座ってもらってその人と話をすればいい話でもある。
今回はローズには同行者を見てもらうために後ろに行ってもらったし、エニィは護衛のケニスと離すのはよくないし。
見張りの目を増やす意味では一人を前に乗せるほうがよかったかもしれない。
が、知らない大人の男の人と狭い空間で長時間というのは気が休まらないし、女性のアユについては同じく女性のアール伯への対応のために後ろにいた方がいいだろうと考えたのだ。
結果として暇を持て余すことになったのである。
一人で黙って運転するのはつまらないというだけの問題ではない。
眠くなるのだ。
これは間抜けな響きだがきわめて重要な話である。
居眠り運転が危険なのは自明なことだ。
みたいなことを提案して予算もらってこれそうだ、と皮算用していた。
その前に何度かアール領の村と旧領都を往復することになるかもしれない。
実際的にあの魔動石を輸送する力を持つのはうさみのみだからだ。
エニィの判断次第ではある。
それなら合間の暇な時間で試作を進めておいてもいいかもしれない。
魔法で構成を組んでしまって錬金術的に置換できる部分を探す手法であれば材料がなくても進められるだろう。それをたたき台にしてラビット玩具開発のみんなに完成させてもらうのだ。
ふたりがそれぞれに考えているうちにアール領の村へと到着するのだった。
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