第9話

「みんながつけてる魔動石生成リングは何重もの安全措置を講じてできた製品なんだけどこれは完成前の試作品なんだ。リングは腕輪を身に着けて装着者の魔力が九割を超えたら感知して一割程度を取り込んで魔動石の元になるようになっているのは使ってる人なら説明を受けていると思うけど、そういう機構が完成する前は周囲の空間にある魔力を使って――」


「うーさん、そこまで」

「あいた」


 長く、またさらに続きそうだったうさみの話を、ローズがうさみの額をペイッと叩いて止める。うさみは別に痛くなかったが反射的に悲鳴を返し、。

 そんな様子を見せられたエニィたちが戸惑いから抜け出す前に、うさみが動いた。


「えっと、まあ使ってみたらわかるから。よいしょっと」


 魔動石生成装置から飛び出ていた棒の一本にうさみが手をかけ傾けた。

 するとウゥゥゥゥゥゥゥゥンという微細な振動音が鳴りはじめ。


 装置の上に突き出ていた筒からポンと小さな何かが飛び出て少し離れた場所に落下した。

 皆が様子を見る中、マーグがさっと近寄ってこれを拾う。


「これは……魔動石ですね」

「そう。リングでできるのと同じものだよ」


 そう言っている間にも装置から魔動石が飛び出して、マーグに当たる、かと思ったところでマーグが受け止めた。と思うと更にどんどん飛び出てくる。その勢いはどんどん増していく。


「とりあえずそこになにかいれものを」

「了解うーさん」


 うさみの指示で、ローズが落下点に籠を置くと、飛び出てきた魔動石が受け止められる。


「とりあえず、これどんどん出てくるから輸送車に積み込んで欲しいんだよね」

「輸送車をそこに移動させれば楽なんじゃないかしら?」

「あ、それだ」


 アユがつぶやくと、うさみが手をポンと打った。








「つまりダンジョンは魔力の塊だから魔動石作れるの。うまくいってよかったね」

「よかったね、って」


 車両ではなく射出口の向きを調整した結果、じゃらじゃらと荷台に積みあがっていく魔動石。

 いっぱいになるのはそう遠くないだろう風景に、アユは荷物運びは回避しきれていないようだと思いながら周囲の警戒に当たっていた。


 雇い主であるエニィとうさみが話をすり合わせる間やることがないので冒険者組は見張りを買って出たのだ。

 別に話を聞いてもいいとも言われたが、厄介事のような気がするから聞かないでおこうとカッツが判断したのだった。もっとも、話す側が隠す気がないので耳にはないってしまうのだが。


 実際、聖水の力が有効なアンデッドはともかく、森の魔物への警戒は必要だった。

 そのため、魔物よけを設置する作業を行いつつ、エニィとうさみは話しているのである。


「この都市跡から魔動石をどれだけ作れるかはやってみないと分かんないけれど、相当な量になるはず。少なくとも今回持って帰る分だけでも事業の頭金にはなるでしょ。わたしへの返済は後回しでもいいからそのかわり」

「買い取りを任せろってことね。それでラビットさんの利益になると」

「いやそれは別に」

「別に!?」

「魔動石取引の大元は全部ラビットだからね」


 魔動石生成リングによって生成される魔動石は、ラビット魔動錬金会社が販売するより劣る。具体的には同じ魔動製品に魔動石を使用した場合、持続時間がはっきりと短くなるし不安定になる場合もあるという。

 その一方で、リングによる生成品の買取を保証している。

 それにより魔動石の市場ができていた。


「大事なのは人手を集めることの方だよ、アール伯。相手の利益を考えるのも大事だけど、自分の都合を先に置かないと、エニィさん」

「ん……そうね。……魔動石が取れる。物証は十分。問い合わせを全部アール領に回せば。整備は向うにまかせて……」


 聖水の効果を境界として結界を張る作業を進めながら、エニィが考えに入った。

 うさみは結界の礎として用意しておいた聖水の瓶を地面に埋める作業を進める。


 アンデッドが嫌がるという効能を拡大解釈し、魔物も近づきにくくなるように変換することで結界とする。

 長持ちはしないが数日は持つ。その間に撤収してもいいしさらに強固な結界を組んでもいいだろう。


「うさみさん、輸送車だいぶ埋まってる。私たちが乗る範囲まで埋めるのかしら?」

「あ、それは困るよね。待って、向き変える」


 警戒しながらも輸送車の様子を見ていたアユが、エニィは取り込み中とみてうさみに声をかけてくれたので、さみは装置の射出口の向きを変えに動いた。

 それにあわせてローズが荷台の側面を閉じる作業を始める。

 射出口が向けられた先で魔動石が地面の上に山になっていく。

 うさみはこれを結界に組み込んだら長持ちするだろうけどもったいないかな、などと考えていたが、ふと思い出した。


「いけない忘れるところだった。アユさん、カッツさんたちにも伝えてほしいんだけどいいかな」

「なにかしら?」

「袋持ってきてもらったじゃない? それに入るだけそこの魔動石詰め込んで、それを特別報酬にしようと思うんだ」

「えっ」

「何かマズい?」

「いえいえ大丈夫。ありがとうございます」

「アール伯の許可は取らないとだけどね」


 アユは失敗を悟った。

 運べる最大と言われていたが若干小さめの袋を持ってきていたのだ。

 それが報酬の量を決めるのだとは思っていなかった。


 だが、それでも。


 それだけの魔動石の量は、ただでさえ相場より高い報酬の桁を上げるほどの価値となる。

 はっきりと破格。

 これ後で殺されるんじゃないの、と疑いたくなるほどである。


「それと、後で添え書き用意するからラビットに売りに行くときはそれを提示してね。大量持ち込みするとなんか変に疑われるかもしれないから」

「あ、ありがとうございます」


 どうあっても、アユたちを儲けさせたいらしい。

 それで何か狙いがあるのだろうが、アユには思い至らなかった。あとで仲間と話し合うとして、結論が出るかどうか。


「うさみ、特別報酬は認めるけれど、魔動石生成装置のことは伏せさせておいた方がいいわね?」

「そうだね、あの村にラビットの窓口おかせてもらって、ラビットがアール領でなにかやってる。問い合わせはアール領のラビットに、ってことにして問い合わせは全部投げちゃって。どうしてもってなったら正直に話してもいいけど建前としては秘密、これでどうかな?」

「それはこっちが甘えすぎでは? というよりうさみの都合を聞いていないのだけど」

「わたしはアール伯への恩返しと、ついでにラビットに利益還元できればいいかなってくらいだから、適当に利用してくれたらいいよ」


 アユたちには断片的にしかわからない話が続く。

 とりあえず何か聞かれたらアール伯とうさみに聞くように言えばいいという話は覚えておこうと思った。


 そして、結界が完成した後、改めてそのように対処するように全員に指示されることになった。

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